日南 デザインディレクター 岡広樹氏が語るFusion 360による製品開発支援 - 3D Fab|新しいデザイン、ものづくりを紐解く

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日南 デザインディレクター 岡広樹氏が語るFusion 360による製品開発支援

Fusion 360のようなクラウドベースの高機能3D CADソフトの登場により、ものづくりの常識は一変しました。そこで今回は、Fusion 360の達人である、株式会社日南 クリエイティブスタジオ デザインディレクター 岡広樹氏に、Fusion 360を使った製品開発支援について、お話を伺いました。

日南は製品開発に関わるすべてのプロセスをサポート

-:まず、岡さまの経歴と、日南とはどんな会社なのかを教えて下さい。

岡:私の経歴としては1979年にソニーに入社し、35年間ラジカセやプロ用カメラなどのプロダクトデザインを一筋に行っていました。ソニー在籍中に担当した製品「PCM-D1」(2006年発売)は、グッドデザイン金賞受賞、IFデザイン賞金賞、レッド・ドット・デザイン賞、HKDCデザイン・アワード金賞といった、稀にみる世界中のデザイン賞をいただけた商品です。

2014年にソニーを退職後、デザインモックアップ制作で大変お世話になった堀江勝人(現:株式会社日南 代表取締役)の誘いで、日南に就職しました。堀江代表はすごくチャレンジングな人で、私はものづくりの現場が大好きだったこともあり「現場で、スピーディーに楽しくデザインの仕事ができそうだな」と思ったのが、再就職を決めた理由です。以来様々なメーカーのお仕事をさせていただきデザインの幅が広がりつつあります。

Linear PCM Recorder「PCM-D1」岡氏がソニー在籍中にデザインを担当したLinear PCM Recorder「PCM-D1」

株式会社日南は、高い技術を持った開発総合支援企業で、デザインからエンジニアリング、プロセッシング、仕上げにいたるまで、製品開発に関わるすべてのプロセスをフルパッケージでサポートできることが特長です。

デザインスケッチから設計まで、すべてFusion 360で行う

-:岡さまは、Cleer社のヘッドホンのデザインを手がけています。デザインの特徴や苦労した点について教えてください。

岡:Cleer社は、2014年にアメリカで立ち上がったヘッドホンやスピーカーなどの音響機器のブランドで、サンディエゴのソニーをスピンアウトしたメンバーが経営しています。2016年8月、ソニー時代に同僚だったCleer社のデザイン部長 アレックス有江さんからFacebookメッセージがあり「ヘッドホンのデザインはすべてお願いします」と言われ、「いいね!」と軽いノリでデザインを担当することになりました。

まずは、スポーツインナータイプのヘッドホンをデザインしてほしいということでした。

ヘッドホンは体にフィットしなければならないプロダクトであり、音質はもちろんのこと装着性とファッション性が命であることは理解していました。スポーツタイプとなるとなおさらです。

実は私、ヘッドホンを実際にデザインするのが初めてだったんですよ。でも、「使ってみれば分かるかな」ということで他社のものを色々買ってスポーツジムで使ってレポートし、考えられる基板とバッテリーとドライバーをどう配置するかという、構成図を作ることから始めました。

インナータイプヘッドホンの構成図岡氏がCleer社に提示したインナータイプヘッドホンの構成図

そして、構成図のA案とC案のプロトタイプを作ることになり、すぐにFusion 360を使ってデザインをしました。Fusion 360上に標準的な人間の耳型を置いてスカルプトで描いていくんです。スカルプト機能のおかげで、人体に合わせた有機的な曲面のデザインがとても楽にできるようになりましたね。

3Dデータができたら、3Dプリンターでプロトタイプを作成し、実際に耳にはめてみて装着感をチェック。ただ、耳の形は人によって千差万別ですから、どんな耳の形をした人が装着しても不快感なく、かつ激しいスポーツをしても外れないようにすることに苦労しました。ヘッドホンのケーブルの長さや角度、調整機構などの試行錯誤を繰り返しました。

ヘッドホン自体のデザインにととまらず、パッケージデザインもFusion 360を使ってデザインとレンダリングを行いました。お客さまが初めて箱を開けるときは誰もがワクワクするものです。演出も含めてデザインの領域なのだと考えています。箱の中の商品の見せ方や付属品の構成も大切な要素です。

製品デザインの領域だけでなく、ブランディングなども含めて私が提案することも多くなりました。

Fusion 360のスカルプトで描いたデザインFusion 360のスカルプトで描いた、インナータイプヘッドホンのデザイン

デザインスケッチデザインスケッチには、Fusion 360のレンダリング機能も利用している

プロトタイプを作成し、装着感を確認 3Dプリンターを使ってプロトタイプを作成し、装着感を確認

2次試作に向けたBTスポーツのデザイン2次試作に向けたBTスポーツのデザイン

パッケージデザインパッケージコンセプトもFusion 360でデザイン、箱の開き方をシミュレート

実際に動作するプロトタイプ実際に動作するインナータイプヘッドホンの2ndプロトタイプ

Fusion 360の登場によって、作業効率が格段に高まった

-:岡さまがFusion 360を選んだ理由は何でしょうか?

岡:ソニーに在籍していたときは、サーフェスモデラーの「Rhinoceros」を使って表面デザインのみ行っていました。ソニーには優秀な設計者がたくさんいますので、デザイナーは表面形状だけできればよいと考えていました。

しかし今は、企画からデザイン、プロトタイプ制作なども私自ら行います。そうするとFusion 360のようにモデリング、パッチ、ポリゴン、レンダリング、解析機能も全部揃っているソフトはとてもありがたいんですね。今までは、いろんなソフトを使って、あっち行ったり、こっち行ったりして作業をしていましたが、統合型ソフトのFusion 360の登場によって、表現したい作業の効率と幅は格段に高まりました。

また、現在の日南の加工現場では新たな試みとして、Fusion 360のCAM機能のトレーニングを行っています。Fusion 360は他のCAMソフトと比較して安価ですし、CAM機能が非常に優れているので、現場での本格的な導入を検討しています。

-:今の岡さまのお仕事にとって、Fusion 360はぴったりなソフトというわけですね。

岡:はい、すごく理想的なソフトと言えます。このような統合型なツールFusion 360が出現したおかげでいままでデザイナーはデザインだけにとどまらず、企画、デザイン、設計、マーケティングという組織上の垣根もなくなってくるのではないでしょうか。

最近、気に入っているFusion 360の機能はライブビュー機能です。オーバーイヤータイプのヘッドホンのプレゼンをする際、ライブレビュー機能を使って、アメリカのCleer社とリアルタイムで3Dモデルを共有しました。3Dモデルを動かしながら詳細のディスカッションができる機能なので、世界中どこでも意思の共有化が可能なのです。ただしアメリカとの時差の問題はありますが(笑)

ライブレビュー機能ライブレビュー機能を使って、アメリカのCleer社とリアルタイム共有を行った

岡氏オーバーイヤータイプのヘッドホンの造形品を耳に当てる岡氏

デザイナーのアイデアやイメージが問われる時代に

-:ものづくりに携わりたい人に向けて、メッセージをいただけないでしょうか。

岡:制作経験が少ない学生の場合、自分のイメージ通りの形をうまく表現できないことが多いと思います。CADの使い方を学ぶことももちろん大切なんですが、Fusion 360はあくまでも自分がイメージするものを形にするツールです。まずは「こういう商品に表現したい」という造形コンセプトを考え抜くことが大切だと考えています。

コンセプトを明確にしたうえで、自分の創りたい造形はどのツールを使えば確実にスピーディーに表現可能かを考えるべきです。

また、ものづくりの工程や工法も多少学ぶべきものだと思います。そこから教わることも多々あります。どんなに素敵なデザインができたとしても商品化できない。なんて残念なこともありえるのです。

-:今後、岡さまが手がけたい分野は何でしょうか?

岡:日南のオリジナルブランドである「SPIRAL」の新製品開発です。写真の箸置きは「重ねられてテーブルでオブジェとなったらいいな」との発想で2015年に富山デザインコンペに応募し入選したものです。弊社の加工技術と表面処理で単純な発想でも魅力的なテーブルウェアができます。これを機会に様々な商品展開していきたいと考えております。

また、日南は試作メーカーですが、金型製作も行っております。最近では大型金型成形機も導入し、製品の量産までできる体制が整ってきております。

日々の依頼させるお仕事が最優先でなかなか時間が取れないのが事実ですが、少しずつ「SPIRAL」の新しい製品展開をしていきたいと考えております。

富山乃箸置き富山乃箸置き(2015年 富山デザインコンペ 入賞作品)

-:岡さまが何か注目している技術はありますか?

岡:個人的に興味があるのは、ジェネレーティブデザインですね。いかに強靭でメッシュ状に軽量化するかというAI技術です。例えば、ヘッドホンの場合だと、耳が当たるところとか、頭が当たるところとか、どうしても汗をかきますよね。通気性の良さと軽量化と柔らかさを実現するために、ジェネレーティブデザインを取り入れてみたいと考えています。

3Dプリンターで出力しないと、メッシュ形状はできないので、従来の成型技術とプリンター技術を融合して量産できるようになればいいなと思っています。

-:昔は、アイデアがあってもそれを具現化するツールがなかったり、製造装置がなかったりで、妥協してしまっていたところがあったと思いますが、今はツールも装置も日々進歩しており、新たな技術をより自分のイメージを具現化できるようになっていますよね。

岡:そうですね。クライアントのほうで企画した製品の場合であっても、Fusion 360の機能を活用して「こういう案はどうですか?」と提案してみると、その案が採用されることが増えてきました。

アイデアをスピーディーに具現化できるようになってよかったと同時に製造機器や表面処理技術の進化を実感しております。表現手法の幅も広がっておりますので、新たな技術をどんどん取り入れてデザイン言語を増やしていくことで、流行に流されないオリジナリティーのあるアイデンティティーが創出されるのではないでしょうか。

依頼されるメーカーの方に「日南に依頼してよかった」と思ってもらえることが一番嬉しいことですので、今後も積極的にいろんなアイデアを提案していきたいと考えています。

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