自動運転車の原型を作りたい。デザインにFusion 360を活用(カブク 横井康秀氏) - 3D Fab|新しいデザイン、ものづくりを紐解く

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自動運転車の原型を作りたい。デザインにFusion 360を活用(カブク 横井康秀氏)

大きな市場が期待される自動運転技術の開発に、大手自動車メーカーからベンチャーまで多くの企業がしのぎを削っています。そのような中、自動運転ソフトウェアなどを手がけるソフトウェアベンチャー企業である株式会社ティアフォーは、3Dプリンターを活用したものづくりプラットフォーム「Kabuku Connect」を提供する株式会社カブクのサポートを受け、2017年12月に自動運転EV「Milee」を発表。大きな話題となりました。そこで今回は、株式会社カブク インダストリアルデザイナーの横井康秀氏に、ティアフォーとの協業についてお話をお聞きしました。

カブクは、ものづくりの民主化を目指す

―まず、カブクとはどんな会社か教えて下さい。

横井:カブクは「ものづくりの民主化」という大きなビジョンを掲げて、新しいものづくりの世界の実現を目指しています。具体的に言うと、3Dプリンターを使ってものづくりをしたいお客さまと、3Dプリンターを所有していてものづくりができる工場をつなぐプラットフォームを提供することがカブクの事業です。カブクは2013年1月の創業ですが、2013年9月には、個人向けものづくりプラットフォームとしてRinkakという3Dプリントのマーケットプレイスを、2016年10月にはさらに本格的なBtoB製造プラットフォームとしてKabuku Connectを立ち上げました。工場が所有している3Dプリンターは産業用のもので、1台数千万円から1億円を超えるような巨大装置です。それで作れるものは、もちろん精度や耐久性にすぐれているのですが、なかなか普通の人や一般企業では保有し使うことができません。そのような装置と人をプラットフォームによって繋ぐことで、少しでも使いやすくできればと思っています。

今、本格的にBtoBビジネスを進めているのですが、その中で、2015年にトヨタさまに「i-ROAD」のマスカスタマイズパーツを提供し、2016年にはホンダさまの1人乗りEV「MC-β」を鳩サブレーで有名な豊島屋さま向けにカスタマイズしました。

―今回、ティアフォーさまの自動運転車の「Milee」と「Logiee」のデザインや製造を行ったということですが、協業の経緯について教えて下さい。

横井:どんなメーカー、どんなベンチャー企業でもウェルカムというのが基本的な私たちのスタイルです。ティアフォーさまはソフトウェアの会社ですが、カブクが手掛けたトヨタさまやホンダさまの事例を見て「自分たちが作っている自動運転ソフトウェアが動くハードウェアを発表したい」ということで、我々にアプローチしてくださいました。

―どのような手順で協業を進めたのでしょうか?

横井:形にするためには、1年くらいかかりました。ティアフォーさまは、ものづくりそのものが初めてだったので、基本的な技術面やビジネス面についてもサポートしました。「このくらいの予算がかかりますよ」とか、「このくらいのスパンが必要ですよ」ということも、きちんと説明しました。とは言っても、実際のデザインや設計、製造、そして発表するまでのプロセスは約2カ月と最短です。このスピード感がカブクのプラットフォームの魅力でもあるのです。

―今回はベンチャー企業との協業でしたが、今までとの違いはありましたか?

横井:大手のクライアントだと、まずコストの提案があって、次にデザインの初回スケッチがあって、といった流れが暗黙の了解になっていると思いますが、ティアフォーさまの場合は、最終的な形の前にまず、手前の部分、例えばヴィジュアルも含めた企業なりのデザインと戦略、コンセプトといったところからきちんと提案させてくださいとお話ししました。いわゆるデザイン戦略ですね。「ティアフォーってどんなブランドなんだろう」というところからディスカッションしました。

―では、ブランディングも含めて、カブクがディレクションを担当したわけですね。ティアフォーさまからの評価はいかがでしたか?

横井:本当に心の底から喜んでくださいました。基礎フェーズを経た最初のデザインの提案のときに、「ではこのデザインでどうですか?」と提案したら、すぐその場で、「これを作ってください」と決まったほどです。具体的なデザインの手前段階で、ゼロ地点からのディスカッションをやってよかったと思いました。

自動運転車の「原型」を作るつもりでMileeをデザインした

―今回の協業では、横井さまがカブク側の中心となったのでしょうか?

横井:プロダクトデザイン周りは、私が責任者として担当しました。Mileeは、ヤマハのゴルフカートをベースの車体として作っていますが、そこから上のフレームはほぼフルカスタマイズという形でした。

―Mileeは、ちょっと丸っこいというか、柔らかいイメージですが、どういうコンセプトのデザインなのでしょうか?

横井:いま現在、そもそも自動運転車というものが市場も含めてまだこれからなので、今回は全く手探り状態のものを投入することになります。だから、自動車の延長線上でこれを考えても駄目だろうなと考えました。自動運転車は、自動で運転するだけではなくて、自律して動くものです。ですから、動物というか、1つの生き物を創るつもりでデザインをしないと、社会的な存在として受け入れられないんじゃないかと思い、この丸っこい、老若男女に受け入れてもらえるような形にしました。また、ティアフォーさまとのディスカッションでは1つキーワードがあったのですが、それは、自動運転車の「原型」を作りましょうということです。今回作る車を、他のスタートアップなどが真似するくらいの「自動運転車ってこういう形だよね」というものを作るくらいの意気込みでやりましょうと話しました。

自動運転車の原型を作りたい。カブク 横井康秀氏完成したMilee。全体的に丸みを帯びている

―自動車でいうと、スタンダードとなったT型フォードのような感じでしょうか。

横井:そうですね。この丸っこい原型のよさをわかってもらうために、四角いものも作るなどして、テクニカルに詰めていったという感じです。通常の車のスタイリングを考えるやり方には、あまりないアプローチですね。

自動運転車の原型を作りたい。カブク 横井康秀氏Mileeのデザインラフ。四角い形から丸っこい形まで、いろいろなデザインを提案したという

Fusion 360を活用したデザイン

―デザインには、Fusion 360を使っているのでしょうか?

横井:はい、使っています。最初は手でラフスケッチを描きますが、わりと初期の段階から、スカルプトというFusion 360の粘土をこねるような機能で大体の形を作ります。

自動運転車の原型を作りたい。カブク 横井康秀氏ラフスケッチをFusion 360に取り込み、スカルプト機能で球体を作る

自動運転車の原型を作りたい。カブク 横井康秀氏スカルプト機能で球体を伸ばしていって、車体の大まかな形を作る

自動運転車の原型を作りたい。カブク 横井康秀氏Mileeのベースモデリングが完了したところ

―Fusion 360の魅力は何でしょうか?

横井:前職では、CATIAというハイエンド3D CADを使っていたのですが、カブクのようなスタートアップでは高価なソフトは使えないので、代わりになるソフトを探していました。そこでライノセラスを試したのですが、こういったデザイン、構想のスケッチを描きながら3Dモデルを起こして、設計、製造まで一気通貫したデザイン作業を考えると、履歴を持てなかったり、細かい勾配や寸法、比率の調整ができなかったりと、ライノセラスではやれることが限られているんですね。それで、本格的なものづくりに一気通貫して使える3D CADを探していたところ、Fusion 360を見つけたのです。

―モデリング機能ではスカルプトをよく使われているんですか?

横井:特に車に関してはそうですね。大きな物体にきれいな面を張るというところに関しては、圧倒的にスカルプトが使いやすいです。

―レンダリング機能もお使いですか?

横井:はい、レンダリングも使っています。背景も含めてちゃんとレンダリングできるので、実物そっくりになります。同じソフトの中でちょっといじって、またすぐレンダリングできるというのは、すごく効率がいいです。

―Fusion 360を使うことによって、デザインフローが早くなったという実感はありますか?

横井:圧倒的に早くなりましたね。このレンダリングイメージなどは、私が10年前、学生を卒業するときだったら、一晩かかってでもたぶんできないと思います。

自動運転車の原型を作りたい。カブク 横井康秀氏Fusion 360によるMileeのレンダリングイメージ

自動運転車の原型を作りたい。カブク 横井康秀氏Mileeの3Dプリンターによるモックアップを前に説明する横井氏

第2弾の「Logiee」もデザインコンセプトを継承

―今回の協業では、先にMileeができて、第2弾がLogieeということですが、デザインコンセプト自体は似ていますね。

横井:Mileeでデザインの原型ができたので、Logieeはデザインが決まるのも、設計と製造も早かったです。Logieeは2カ月弱で、自動車業界の最新技術の展示会であるオートモーティブワールドでお披露目できました。

―展示会での反響はいかがでしたか?

横井:かなり話題になりました。特にLogieeは、「なんだこれ?」という声を多く聞きましたが、ある意味そこが狙いでした。Mileeは新しい自動運転車の原型を作るつもりでデザインしましたが、そもそもベース車体の骨格を引き継いでいるので、自動車の延長線上で見られるのもやむを得ません。でも、Logieeは全然違うアプローチです。ティアフォーさまの全く同じ自動運転技術を使っていることもあり、だからこそこの2台に差をつけようと思い、Logieeは、いい意味で「なんだこれ?」という印象を与えるようなデザインにしたかったのです。カスタマイズできることも特徴ですので「なんだこれ?」という第一印象のあと、いろいろ想像力が働くような表情にしました。

自動運転車の原型を作りたい。カブク 横井康秀氏ティアフォーとカブクの協業によって実現された物流用AIモビリティ「Logiee」

自動運転車の原型を作りたい。カブク 横井康秀氏Logieeは自由にカスタマイズができるように設計されている。これはカゴを取り付けた例

自動運転車の原型を作りたい。カブク 横井康秀氏左がMileeのモックアップ。右がLogieeのモックアップ

AI技術の進化がデザイナーのクリエイティビティを加速する

―横井さまは今後、どのような分野に挑戦していきたいと思われますか?

横井:ティアフォーさまのような、技術だけではない、新しいシーンを作っていこうとするベンチャー企業などの想いを、デザインを通して具体的な形にすることにチャレンジしていきたいと思っています。今後は、今まで想像されていたロボットのようなものだけではなく、いろいろなものが自律的に動いていくと思います。そうなると、社会そのもののありようも変わってくるのではないでしょうか。そのような場面で生かせるデザインに取り組みたいですね。

―オートデスクでは、最近ジェネレーティブデザインに力を入れていますが、そういったAI的な技術の進化によって、将来、デザインの仕方が変わるといわれています。その点についてはどのように思われますか?

横井:AI技術には、2つのメリットがあると思います。まず1つは、究極のゴールとなるいいデザインはどれか、レコメンドくらいまではAIがやってくれるということ。そしてもう1つはわかりやすいメリットですが、単純にデザインのバリエーションを一気に作ってくれるというところです。特にゼロからモノを作り出す場合、いろいろな可能性を形として見せなくてはいけないので、手書きのスケッチをどんどん描いていくわけですが、AIであれば、3Dデータについてもいろいろなバリエーションのデザインを出してくれる。例えば、一番丸っこい車から、一番カクカクした車まで、パラメーターを少しずつ変えてパッと出してくれると便利ですね。

―単純作業的なことはAIに任せて、よりクリエイティブな方向に専念できるということでしょうか?

横井:自分のクリエイティブに力を入れているデザイナーはもう使っていますし、今後そういう使い方がどんどん出てくるんじゃないかなと思います。

―最後に、ものづくりを志す学生さんへのメッセージをお願いします

横井:「考える前にまず手を動かせ」ということでしょうか。普通の教育だと、まず何をどう考えるのかというロジックを重視しますよね。ロジックはもちろん大事です。しかし、ものづくりとかデザインには、手を動かして五感を磨き場数を踏まないと生まれないひらめきや、考えているだけではたどり着けない解答があると思っています。私も手を動かす前に気づいたらいろいろ考え込んでしまうタイプなので、なかなか手を動かせない人の気持ちはわかります。でも、今はFusion 360のような便利なツール、3Dプリンターもある。カブクの提供するKabuku Connectやいろいろな3Dプリントサービスもあります。手を動かして形にすることは、とても簡単なことなのです。だから若い人には「思い立ったら、まず形にしてみましょう」と言いたいですね。

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