コラム
QoS(クオリティオブサービス)とは?
代表的な制御手法やもたらす効果を解説

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QoS(Quality of Service)とは、ネットワーク上で特定の通信優先度を調整し、通信品質を確保する技術です。音声通話や動画配信などリアルタイム性の高い通信を優先的に処理することで、遅延や途切れを防ぎ快適な利用環境を実現します。
この記事ではQoSの仕組みやネットワークの制御方法、QoSがもたらすメリットについて解説します。
ネットワークのQoSとは?
まずネットワークにおけるQoSとはどのようなものか解説します。
QoSの意味
QoS(Quality of Service)とは、ネットワーク上の通信を制御し、重要なデータ遅延や途切れを防ぐ技術です。Web会議や動画再生など、リアルタイム性が求められる通信を優先的に処理することで、通信品質を安定させます。トラフィック増加により通信が混雑しやすい現代において、QoSはユーザー体験を保つために欠かせない仕組みです。
QoSの仕組み
QoSの仕組みは「クラス分け」「マーキング」「キューイング」「スケジューリング」の4つに分けられます。
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クラス分け
データ処理の優先度を判別するために、QoSが転送データを分類します。このとき、転送データに含まれる「MACアドレス」「IPアドレス」「IPプロトコルタイプ」「VLAN ID」などの情報を元に分けます。 -
マーキング
転送データを適切に処理できるように優先度を判別します。優先度を決定するためのQoSマーキングは、IPヘッダーに含まれているTOSフィールドやDSCPフィールドを使います。 -
キューイング
転送データを一時的に蓄積し、後から優先度に対応したキューに格納され順番に処理します。大量のデータを効率的に処理できるため、応答性や障害耐性を高められます。 -
スケジューリング
複数のキューから優先度どおりに転送データの順番を調整します。優先度の高いデータばかりを先に転送していると、優先順位の低いデータがいつまでも転送されません。そうならないよう、各キューのデータを転送する順番や割合を踏まえて調整します。
QoSがよく使われる通信
QoSが特に活用されるのは、IP電話、Web会議、オンラインゲーム、動画配信といったリアルタイム性が求められる通信です。これらの音声や映像トラフィックは、遅延やノイズの影響を受けやすいため、安定した通信を確保する手段としてQoSが用いられます。
また、業務で不可欠なアプリケーションや基幹システムの通信においても、QoSによる品質管理が重要です。重要なシステムであるほど、確実で快適な通信環境維持が求められます。
QoSを適用した場合と適用しなかった場合の違い
実際にQoSを適用した場合と適用しなかった場合で、どのような違いが現れるのでしょうか。
QoSを適用しなかった場合
QoSを実装しない場合、たとえばネットワークが混雑している時に、優先データの取捨選択が行われないため、データ送受信に遅延など問題が発生する可能性があります。特定のトラフィックが多くの帯域幅を使い輻輳が発生する恐れもあるでしょう。
QoSを適用した場合
QoSを実装すると、特定の通信を優先して伝送したり、通信量に制限をかけたりすることが可能になります。インターネットサービスの品質を向上させるためのもので、実装している場合は快適にサービスを利用できます。複数のトラフィックが混在しても、多少の遅延は発生するものの大きな影響はありません。
QoSの代表的な制御手法は「優先制御」と「帯域制御」
ネットワーク混雑時に通信品質を保つQoS技術は、主に優先制御と帯域制御2つの制御手法が使われています。
優先制御
優先制御は、データ種類や優先度に応じて伝送順番を決める制御手法です。たとえば、Web会議やIP電話など遅延が許されない通信を最優先し、メールやファイル転送は後回しにします。この方式の利点は、優先度の高いデータを遅延なく伝送できる点です。ネットワーク機器はデータに付与された優先度マーク(ToS/DSCP値)を読み取り、専用キューで処理します。
特徴 | 効果 | 適用例 |
---|---|---|
優先度マーキング | 高優先データを即時送信 | ToS/DSCP値の利用 |
キュー管理 | 低優先データの遅延を許容 | バッファによる一時保持 |
リアルタイム性 | 通信の途切れを防止 | Web会議・IP電話 |
帯域制御
帯域制御は、特定の通信が利用する帯域幅を指定する制御手法です。主に下限値を指定する帯域保証と、上限値を指定する帯域制限の2種類があります。たとえば基幹システムには帯域保証を適用し、SNS利用には帯域制限を設定します。超過時の処理方法は、データを蓄積するシェーピングと破棄するポリシングを使用します。
制御タイプ | 目的 | 技術例 |
---|---|---|
帯域保証 | 重要通信の下限帯域確保 | 最小帯域幅の設定 |
帯域制限 | 帯域占有の防止 | 最大帯域幅の設定 |
超過時処理 | ネットワーク負荷軽減 | シェーピング/ポリシング |
QoSがもたらす4つの効果
QoSの導入で、限られたネットワーク資源を最適化し運用効率と信頼性を高められます。ここでは具体的な4つの効果を解説します。
限られた帯域幅を効率的に利用できる
帯域幅(通信速度)が不足している状況でも、QoSを使えば通信の優先度に応じてデータを振り分けることができます。回線を増強せずに既存のネットワーク資源を有効活用でき、コスト削減にもつながるでしょう。たとえば帯域の一部をWeb会議用に優先的に割り当てておけば、他の通信に左右されることなく安定した利用が可能になります。
通信品質が向上する
リアルタイム通信の遅延やパケット損失を大幅に抑制できます。優先制御により高重要度データの転送遅延が改善され、ユーザー体験が飛躍的に向上します。
ネットワーク管理を効率化できる
転送データを可視化しポリシーベースの一括管理が可能です。管理者はアプリケーション単位で帯域割り当てを設定可能で、障害時の原因特定も迅速化します。たとえば「全部署のクラウドシステム利用帯域を指定する上限値に制限」といった運用ができます。
ネットワーク運用の負荷が軽減する
転送データ制御を自動化しているため手動での帯域調整作業が不要です。これにより管理者の負荷が軽減しリソースを戦略業務へ集中できます。また予期せぬ転送データの急増時もシステムダウンを防げます。
効果 | メリット | 具体例 |
---|---|---|
帯域効率化 | 既存回線の有効活用 | コスト削減 |
品質向上 | 遅延の最小化 | 転送速度の改善 |
管理効率化 | ポリシー一元管理 | 設定時間短縮 |
負荷軽減 | 自動制御による作業削減 | 運用工数減少 |
QoSが抱える課題
QoSはネットワーク品質を向上させる有効な技術ですが、導入時には避けられない課題も存在します。特にコスト面の負担と専門知識の必要性は多くの組織が直面する課題です。
コストがかかる
QoSを導入する際には専用機器やソフトウェアの購入費用がハードルとなります。たとえば、企業向けルーターのQoS機能追加には十数万~数百万円の投資が一般的です。また運用開始後も監視ツールのライセンス料やメンテナンス費用が継続的に発生します。
専門知識が必要不可欠
QoSの効果を最大限に引き出すには複雑な設定作業が伴います。転送データの優先度付けや帯域保証の閾値(しきいち)設定など、技術的な判断が連続するためです。たとえば、Web会議とメールの優先度を誤ると、逆に業務効率が低下する恐れがあります。
またネットワーク環境の変化に応じて設定を見直す必要があり、専任管理者が不可欠です。中小企業では人材不足から導入を断念するケースも少なくありません。
QoSの基本的なモデルと見直す際のポイント
QoSには、「IntServ」「DiffServ」「Best Effort」という3つの基本モデルが存在します。これらのモデルは、通信品質を保証するための異なるアプローチが採用されています。
モデルの名称 | 概要 |
---|---|
IntServ (Integrated Services) |
通信フローごとに帯域幅を事前に予約し、RSVPプロトコルを用いてエンドツーエンドの品質保証を行う方式。高精度な制御が可能だが機器負荷が高く、大規模ネットワークには不向き。現在は特殊な環境を除きほとんど使われていない。 |
DiffServ (Differentiated Services) |
IPヘッダーのDSCP値を使って通信の優先度をマーキングし、機器ごとに分類・制御を行う方式。柔軟でスケーラブルな品質制御が可能で、企業ネットワークなどで広く使われている。 |
Best Effort | 帯域制御を行わず、すべての通信を先着順で処理するデフォルトの方式。設定が不要で簡単だが通信品質の保証はなく、主にメールやWeb閲覧などの緊急性の低い通信に適している。 |
QoSの設定を見直すポイントは以下の通りです。
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トラフィック分析の実施
ネットワーク使用状況を可視化し、優先度設定が現状に合っているか確認します。たとえば、Web会議のトラフィック増加に帯域保証が追いついていない場合、再調整が必要です。 -
優先度設定の再評価
高優先度に設定したアプリケーションなどが、実際の業務ニーズと一致しているかを検証します。重要な通信を誤って低優先度にしてしまい、業務に支障をきたす例は少なくありません。 -
帯域制限値の最適化
帯域保証・帯域制限の閾値が適切か測定します。過大な制限は通信遅延を、過小な設定はネットワーク輻輳(ふくそう)を引き起こします。 -
機器設定の整合性確認
ルーターやスイッチ間で、QoSポリシーが矛盾していないか点検します。特に、VPN装置や無線APでは設定ミスが起きやすいため、注意が必要です。 -
定期的なパフォーマンス測定
月1回の速度テストを実施し、目標値を達成できているか評価します。目標値は利用目的によって異なりますが、一般的に、Webサイトの閲覧で30~50ms、動画視聴で15~30ms、Web会議で15ms以下が理想です。
総合セキュリティ対策なら
パロアルトネットワークス
仕事の効率や安定性を高めるためにQoSは大切ですが、それを守るセキュリティ対策も非常に重要です。近年、サイバー攻撃の手口が巧妙になっており、今までのセキュリティソフトでは対策が不十分かもしれません。
パロアルトネットワークスは総合セキュリティ対策のプロフェッショナル集団で、多様なステークホルダーから厚い信頼と実績を積み重ねています。総合セキュリティ対策が不十分だと感じている企業様は、ぜひ一度ご相談ください。
まとめ
QoSにはIntServ、DiffServ、Best Effortという3つの基本モデルがあります。設定の定期的な見直しが、ネットワークのパフォーマンス維持に不可欠です。また、誤った設定による通信速度の低下や利用不能を防ぐため、速度テストや優先度評価などのポイントを押さえることも大切です。QoSの特性を正しく理解し、快適なネットワークを使いましょう。