事例Microsoft Azureの導入事例をご紹介します。

サーバーを更新するタイミングやセキュリティの強化を見直すことをきっかけに、オンプレミス(以下、オンプレ)で稼動中のシステムをクラウドに移行する動きが活発化しています。Azureは、その移行先として堅牢かつセキュアな環境を提供し、既に多くの実績を誇ります。 今回は、オンプレで稼動中の人事給与システムをAzure上に完全移行したエンドユーザーの事例を、人事給与システム「Zeem on Azure」を提供する基幹系システムベンダーである株式会社クレオのご担当者に伺いました。

きっかけ

サーバー、データベース、Office、全てのサポート期限が迫り、クラウド化を決定

株式会社クレオ(以下、「クレオ」)は、人事給与や会計のシステムを開発・販売するシステムベンダーです。同社の「ZeeM(ジーム)シリーズ」は1993年にリリースされて以降2,000社以上の導入実績を誇ります。

教員や職員数が合わせて約6,000人に上る東京慈恵会医科大学(以下、「慈恵医大」)が、オンプレで稼働していたZeeMを「ZeeM on Azure」に移行することを決定したのが、今から約1年前でした。人事給与システムのクラウドシフトを決断した背景には、オンプレの環境ならではのシステム運用課題を抱えていました。

その課題の1つ目は、サーバーに契約の更新時期が迫っていたこと。2つ目は、クライアントのデータベースがOffice 2010(Access)であり、サポートが切れてしまうこと。そして3つ目は、増加するサーバー管理業務の負荷です。慈恵医大では、人事や給与情報、マイナンバーといった個人情報の取り扱いを厳格にする為に、人事業務に関するシステムに関しては、サーバーの管理もIT部門ではなく人事部門が行っていました。
さらに、人事給与システムの周囲には、Accessを利用した勤怠管理や私学共済などのサブシステムも多数存在しており、これがクラウドシフトにあたり大きな障壁として立ちはだかっていました。

2020年のWindows 7のサポート終了(*)にあわせて、セキュリティの観点からWindows 10にアップグレードする必要がありましたが、サブシステムのほとんどがOffice2010(Access)で構築されており、アップグレードによって、MDB(Accessのデータベース)が正常に使えなくなることが懸念されていました。このMDBは、慈恵医大の160以上のユーザーに配布されており、もし不具合があれば、改修にかかる時間は膨大になり、業務への影響は計り知れません。

また、情報システム部門のように、システム全体を俯瞰した管理ができていなかったため、
一部のサブシステムを変更しただけでも、システム全体に大きな影響を及ぼす危険性もあります。これらの問題を回避するため、クレオでは、前例のないユニークな手法で慈恵医大のクラウドシフトに臨みました。

一旦、Azureのクラウド上にサブシステムを含め、既存の環境をそっくりそのまま作ってしまい、Azureに移行した後に、クラウド上で試行錯誤しながら、業務効率化やシステム運用の最適解を探っていくという手法がそれです。

*2020年1月14日にWindows 7のサポートは終了いたしました。

施策内容

通常なら2週間~1ヶ月ほどで完了するクラウドへの移行 Access周りの処理で10ヶ月の長丁場に

通常のZeeMのクラウド移行であれば、1か月ほどで完了します。しかし、複数のタイミングと解決すべき課題が積み上がってスタートした慈恵医大のクラウドシフトのプロジェクトは、当初の予想・計画に反して、移行作業は難航し、実に10ヶ月を要しました。

作業の責任者となった、クレオのクラウド技術部部長の菊池光純さんは、このようにクラウドシフトが長期化した理由について、「10ヶ月のほとんどは、サブシステムである、Access関連に費やした時間です」と明かします。

移行に際して最初に手を付けたのはデータベースでした。SQLサーバーをAccessから読み込む構成だったため、SQLサーバーのバージョンをアップデートするなど、Accessを稼働させるための基礎的なテストや調査に作業の大部分を費やしたそうです。さらにセキュリティに関する工夫が必要だったと言います。

「Accessには、ある特殊なファイルをローカルに置くと強固なセキュリティが掛けられる仕様があります。オンプレの環境では、これが全ての利用者の端末に入っていました。しかし、クラウドに移行した場合、この機能は利用できません。クラウド上で起動するAccessを利用者がシェアして使うことになるからです。そこで、Accessの認証関係を全て作り直し、クラウド上でも稼働できるようにする作業が必要でした」(菊池さん)

この他、ローカルの環境で使っていたのでシステムの性能に配慮していなかった部分にも対策がなされました。たとえば、移行に際して存在しなかったインデックスが作成され、移行後も良好なパフォーマンスを実現するためのチューニングは現在も続けられています。

オンプレ環境をクラウドに移行する際、オンプレとクラウドでシステムを並行稼動する手法を取ることが一般的ですが、各拠点の100を超えるユーザーに並行稼働を強いるのは困難であると判断し、並行稼働なくAzureへ切り替えました。一気にAzureに切り替えるという決断は、その後の修正や調整が遠隔操作できるという利点もあったためです。

また、カットオーバーの前にはテスト期間が必要ですが、これは前月に締めを終えたデータの複製をテストデータとして使ってもらい、とことん使い倒してもらったと言います。人事や給与、税金という、正確性が求められ、かつ遅延が許されない業務システムゆえ、チェックには細心の注意を必要としたことが伺えます。

結果

操作研修は不要 オンプレの操作性を最大限維持した移行が実現

今回の移行事例では、Access関連の処理がトピックになっています。しかし、移行に際してトレーニングなどは必要なく、ユーザーに対しては、良好な操作環境がスムーズに提供できたそうです。

従来のオンプレ環境をAzure上に移設すると、今まではなかったログインの作業が必要になります。ただ、その後はリモートデスクトップのアプリケーション画面が表示され、迷いなく作業が始められます。この画面は従来のオンプレ環境のものと同じで、その後の操作や作業フローは従来の環境と違いはありません。

システムをAzure上に移設したことによって、慈恵医大が危惧していた3つの課題はすべて解消されることになりました。また、今後はパッチの適用に代表されるような保守管理もすべてクレオ側が提供することになり、慈恵医大側はその負荷から開放されることになります。

マーケティング統括部 平田恵輔さんは「慈恵医大様に関わらず、人事部門におけるクラウドシフトから業務付加価値向上を目指す傾向は急速に高まっています」と言います。

人手不足が深刻化していく昨今、企業の採用活動や人材育成が経営課題として、重要性を高めているため、人事部門がそれらの業務に注力して取り組めるようにする必要があります。クラウドシフトには困難が付きものですが、結果的に本来やるべき業務に集中できる環境を作れたことは、両社の信頼関係をより深めたといえるでしょう。

今後の計画

デジタルトランスフォーメーションを見据えた カスタマーサクセスのために

既に稼働しているシステム環境をクラウド上に移すには、一般的には現在のビジネス内容を調査し、業務プロセスの整理や見直しの後に移行作業が始まります。しかし、先に触れたように、今回はシステムをまるごとクラウド上に構築し、その上で改善点や問題箇所を修正するという手法が採られました。

特に、多くのサブシステムが存在する環境では、一般的にクラウド移行は困難な場合が多いようです。SIerに相談しても断られるケースや、オンプレ環境を抱える企業側が最初から諦めている場合もあります。

今回のケースも困難の連続でしたが、それでも移行作業に取り組めた理由を、平田さんは「クレオには“カスタマーサクセス”を追及するという使命があるから」と言います。

普段はプラットフォームに関する開発を手掛けるトップクラスのエンジニアが、SEの立場で10ヶ月もつきっきりになった背景には、クレオの“カスタマーサクセス”精神が根付いていることが感じられます。

このところ、巷間では“2025年の崖”に向けたデジタルトランスフォーメーション(DX)への必要性が声高に叫ばれています。DXにはレガシーなシステムの更新が必要ですし、その移行先にAzureのクラウド環境はフィットするでしょう。今回、お話を伺ったクレオのお2人は「お客様と協力し合いながら目指さなければ、本当の意味でのDXの実現は難しい。今後も、その姿勢をもってユーザーをサポートしていきたい」と語ります。

株式会社クレオ
クレオは企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支えるためのITサービス管理ツールや基幹系アプリケーションの開発販売、業務自動化サービスやクラウドシフト支援のほか、クラウドを基盤としたビジネスサポート、官公庁・自治体のシステム開発など、多岐にわたるソリューションを展開しています。これまでに培った開発実績と業務ノウハウに先進的なITの革新的活用を加え、企業や団体の新たな価値創造に貢献しています。

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