2025.9.12

目次
多要素認証はパスワードに加えて所持情報や生体情報など、複数の異なる認証要素を組み合わせることで、セキュリティを格段に強化します。
本記事では多要素認証の基本的な仕組みや導入メリット、運用成功のポイントまで詳しく解説します。
多要素認証(MFA)の基礎知識
ここでは多要素認証の基本的な概念と、重要視されている理由について解説します。
多要素認証とは?
多要素認証(MFA)とは、ユーザーの身元を確認する際に、複数の異なる認証要素を組み合わせて行う認証方式です。従来のパスワードだけによる認証では、現在の高度化したサイバー脅威に対して十分な防御とはいえません。
パスワードの使い回しや推測されやすい単純なパスワード設定、フィッシング攻撃による漏洩など、パスワードが不正に取得されるリスクは多岐にわたります。一度漏洩すると攻撃者はユーザーになりすましてシステムにアクセスできてしまうことが懸念点です。
多要素認証ではこうしたリスクに備え、複数の認証要素を組み合わせることで、一部の認証情報が侵害された場合でも、要素が防御層として機能しセキュリティを大幅に強化できます。たとえばパスワードに加えてスマートフォンアプリからの認証コード入力を求めることで、パスワードが漏洩しても不正アクセスを防ぐことが可能です。
関連記事:サイバーセキュリティとは?サイバー攻撃の種類や代表的な対策方法を解説
なぜ多要素認証が重要視されるのか
多要素認証が重視される背景には、パスワード認証だけでは十分なセキュリティを確保できないという背景があります。近年のサイバー攻撃はパスワードを狙った攻撃が増加しており、パスワードだけでは企業システムを守り切れなくなっています。
実際に、総務省が発表した「令和6年版 情報通信白書」では、2015年から2023年の9年間でサイバー攻撃関連通信数が約9.8倍に増加していると報告されています。
さらに、ゼロトラストセキュリティ実現の必須要件として多要素認証が位置づけられています。ゼロトラストでは「何も信頼しない」という前提に基づき、すべてのアクセスを検証する必要があるため、多要素認証は実装するための技術として不可欠です。
多要素認証(MFA)方式の種類と特徴
多要素認証を実装するには、様々な認証方式から適切なものを選択する必要があります。ここでは認証要素の詳細と実装方式について説明します。
認証要素の詳細分類
要素 | 具体例 | 特徴・注意点 |
---|---|---|
知識要素 「知っているもの」 |
|
最も一般的であるものの、記憶に依存するため忘れやすく、推測や盗聴により侵害される可能性がある |
所有要素 「持っているもの」 |
|
物理的な所有を前提とするため、知識要素よりも高いセキュリティレベルを提供できる |
生体要素 「その人自身」 |
|
偽造や盗取が困難で非常に高いセキュリティレベル |
MFAではこれらの要素を組み合わせることで、一部の認証情報が侵害された場合でも、残りの要素が防御の役割を果たします。パスワード(知識要素)とスマートフォン(所有要素)を併用する方法が、身近な例としてよく使われています。
実装方式別の比較検討
方式 | セキュリティレベル | 利便性 | コスト | 特徴 |
---|---|---|---|---|
SMS認証 | 中 | 高 | 低 | SIMスワップ攻撃などの傍受リスクがあるが、利便性が高い |
認証アプリ(TOTP) | 高 | 中 | 低 | インターネット接続なしでも動作し、SMS認証よりセキュリティが高く、バランスが取れている |
ハードウェアトークン | 最高 | 中 | 高 | コストが高く管理が複雑であるが、最も高いセキュリティレベル |
FIDO2/ WebAuthn | 最高 | 高 | 中 | パスワードレス認証でフィッシング攻撃に対する耐性が非常に高く、次世代標準規格 |
関連記事:OTPとは?ワンタイムパスワードの意味・仕組みから導入方法まで多要素認証の要を解説
実装方式の選択はセキュリティ要件と利便性のバランスが重要です。一般的な企業では認証アプリ(TOTP)が推奨されますが、高度な機密情報を扱う場合はハードウェアトークンやFIDO2/WebAuthnの導入を検討することがおすすめです。
多要素認証(MFA)導入のメリット
多要素認証の導入により、企業は以下のようなメリットが得られます。
セキュリティの向上
多要素認証のなかでも特に注目すべきメリットは、セキュリティの大幅な向上です。ヒューマンエラーやパスワード紛失、デバイス紛失等によるリスクを最小化。従業員がパスワードを忘れたり、フィッシングメールに騙されて入力してしまったりしても、追加の認証要素により不正アクセスを防げます。
統計によると、多要素認証を導入することで、アカウント侵害のリスクを99%削減できるとされています。攻撃者がパスワードを入手しても、他の認証要素を突破することは極めて困難です。
参考:https://arxiv.org/pdf/2305.00945
デジタル施策の実現
多要素認証の導入により、企業はリモートワークやオンラインサービスなどのデジタル施策に、安心して取り組めるようになります。これまでセキュリティへの不安から導入を躊躇していたデジタル化も、多要素認証による強固な認証基盤があれば、安全性を確保しながら進められるでしょう。
特にリモートワークの普及において、多要素認証は欠かせない存在です。従業員が自宅や外出先から企業システムにアクセスする際に、VPN接続に加えて多要素認証を活用することで、セキュリティレベルを維持しながら柔軟な働き方を実現できます。
セキュリティレスポンスの向上
多要素認証システムでは、疑わしいログインの試行を検出した場合、すぐにアラート(警告)を送信します。普段とは違う場所や時間帯からアクセスがあった場合など、異常なパターンを検知し、リアルタイムでセキュリティ担当者や本人に通知が届く仕組みです。
たとえ攻撃者が最初の認証要素を突破しても、追加認証で阻止され、その間にセキュリティチームが対応を開始できます。
多要素認証(MFA)導入時の選び方
多要素認証を効果的に導入する際に押さえておきたいポイントを紹介します。
セキュリティレベル vs ユーザビリティ
多要素認証を導入する際は、利用シーンに応じて、適切な認証方式を選ぶことが欠かせません。一般的なオフィスワークでは認証アプリが適しており、高機密情報へのアクセスではハードウェアトークンなど、より安全な方法が必要になります。
政顧客向けのオンラインサービスでは、まずSMS認証のような手軽な方法から導入し、徐々にセキュリティを高めていく段階的なアプローチが効果的です。
また技術に不慣れなユーザー向けには、直感的で使いやすい方式を選択するのがおすすめです。新しい認証方式を導入するには適切な教育プログラムが必要なため、時間とコストも考慮しましょう。
技術的・運用的考慮事項
導入前は既存システムとの統合性を十分に検討することが大切です。現在利用している認証システムやディレクトリサービスとの互換性、API・SSO(シングルサインオン)との連携可否も検討材料です。
導入コストだけでなく、日常の運用負荷やユーザーサポートにかかる手間、トラブル時の対応など、長期的な視点での運用コストも見落とせません。
多要素認証(MFA)運用成功のポイント
多要素認証の導入を成功させるには、システムを導入するだけでなく、運用面での配慮も欠かせません。ここでは導入から定着までのポイントを見ていきましょう。
ユーザー教育と社内での展開方法
多要素認証を導入する前に、MFAの必要性とメリットについて説明し、セキュリティ意識の向上を図る必要があります。実際の操作方法について、動画やマニュアルを活用した効果的な教育プログラムを用意するとよいでしょう。
また、いきなり全社で展開するのではなく、限定した部署やグループで運用をスタートさせ、運用上の課題を洗い出して改善します。こうした段階的な導入が混乱を防ぎ、スムーズな全社展開につながります。
段階的導入とフィードバックの活用
多要素認証は重要度の高いシステムから段階的に導入するのが基本です。各段階でユーザーからのフィードバックを収集し、不便さや問題点を明らかにして改善を進めましょう。
さらに、ユーザーエクスペリエンスを高めるため、認証プロセスの簡素化や自動化も検討してみてください。条件付きアクセスや信頼できるデバイス登録など、利便性向上に役立つ機能を積極的に取り入れていくことをおすすめします。
継続的な振り返りと自社に合った認証方式を取り入れる
MFAシステムの運用開始後も、定期的な評価と改善が必要です。効果測定やユーザビリティの評価、コスト効率の分析を行い、より最適な認証方式の見直しを実施します。
また、技術の進歩により新しい認証方式も登場しています。たとえば「FIDO2」や「WebAuthn」のような次世代標準にも注目し、自社に合った形で取り入れることで、セキュリティとユーザビリティの両立を目指せるでしょう。
まとめ
多要素認証は現代のサイバーセキュリティにおいて不可欠な技術です。パスワード認証だけでは対応できない脅威に対して、複数の認証要素を組み合わせることで大幅なセキュリティ向上を実現できます。
技術の進歩により、多要素認証はより使いやすく、より安全になっています。企業規模や業界を問わず、導入を検討し、組織のセキュリティレベルを向上させることが急務といえるでしょう。
この記事の執筆者

SB C&S株式会社
ICT事業部
ネットワーク&セキュリティ推進本部
若園 直子
専門的な内容でも、読者にとって親しみやすく、実践につながる形で伝えることを大切にしています。