2025.9.30

SSE(Security Service Edge)とは、クラウド環境に特化した新しいセキュリティモデルで、場所や端末を問わず一貫した保護を提供する仕組みです。
企業のワークスタイルがリモートワーク中心に変化し、クラウドサービスの利用が当たり前となった現代において、従来の境界型セキュリティモデルでは対応が困難な状況が生まれています。このような背景から注目を集めているのがSSEです。
本記事では、SSEの基本概念からSASEとの違い、4つのコア機能、導入効果、検討ポイントまで詳しく解説します。
SSEとは
SSEとは、ガートナーが2021年に提唱した新しいセキュリティモデルで、クラウド環境に特化したセキュリティ、ゼロトラストを実現するための仕組みです。SSEは、従来のオンプレミス型セキュリティ機器に代わり、クラウドベースでセキュリティ機能を提供するアプローチを採り入れています。
SSEの核となる考え方は、「セキュリティをネットワークの境界ではなく、ユーザーとアプリケーションの間に配置する」ことです。従来のセキュリティモデルでは、社内ネットワークを信頼できる領域としていましたが、リモートワークやクラウドサービスの普及によってこの境界が曖昧になり、新しいアプローチが必要となりました。
SSEはユーザーがどこにいても、どのデバイスを使っても、一貫したセキュリティポリシーを適用できる仕組みを提供します。クラウド上に展開されたセキュリティサービスを通じて、インターネットアクセス、SaaSアプリケーション利用、社内システムへのアクセスを包括的に保護します。
関連記事:ゼロトラスト(ゼロトラストモデル)とは?重要視される理由と実装するための要素を解説
SSEが注目される理由
SSEが企業から注目を集める背景には、現代のワークスタイルとIT環境の大きな変化があります。
在宅勤務の普及で変わったセキュリティの考え方
新型コロナウイルスの影響をきっかけに、多くの企業がリモートワークを導入しました。これにより、「社内は安全、社外は危険」といった従来のセキュリティの前提が通用しなくなりました。特にVPNに頼ったアクセス方法では、通信の遅さやセキュリティの不安定さが問題になってきています。
クラウドサービスの利用が当たり前に
業務で使うソフトウェアがクラウド型に移行し、Microsoft 365やGoogle Workspace、Salesforceなどを日常的に利用する企業が増えました。こうしたSaaS(クラウドアプリ)利用時の安全をどう確保するかが、企業にとって大きな課題となっています。
「社内と社外を分ける」だけでは守れない時代に
今の企業のIT環境は、社内のシステムに加え、クラウドサービスや外部パートナーとの連携などが混在しています。このような複雑な状況では、「ここから外は危険」といった境界を決めて守る方法では不十分です。すべてのアクセスを信用せず、常に確認しながら接続を許可する「ゼロトラスト」という考え方が必要とされています。
SSEとSASEの違い
SSEとSASE(Secure Access Service Edge)は密接に関連したコンセプトですが、機能範囲と提供価値において重要な違いがあります。
SASEとSSEの関係
SASEは、ネットワーク機能とセキュリティ機能をまとめた包括的なクラウドサービスです。具体的には、SD-WAN(Software-Defined Wide Area Network)などのネットワーク機能と、セキュリティ機能を統合したソリューションを指します。
一方、SSEは、SASEの中のセキュリティ部分だけを取り出したものです。つまり、SSEはSASEのサブセットとして位置づけられます。この関係性により、企業はまずSSEでセキュリティ機能を導入し、その後ネットワーク機能を追加してSASEへと発展させるアプローチが可能だといえるでしょう。
機能の範囲とできることの違い
SSEとSASEの機能範囲と提供価値の違いを整理すると以下のようになります。
機能範囲の比較
項目 | SSE | SASE |
---|---|---|
セキュリティ機能 | ○ | ○ |
ネットワーク最適化 | × | ○ |
SD-WAN機能 | × | ○ |
回線統合管理 | × | ○ |
提供形態 | セキュリティ特化 | 包括的プラットフォーム |
SSEは、インターネットとSaaS、社内アプリの保護に特化しており、SWG、CASB、ZTNA、FWaaSの4つのコア機能を提供します。
一方、SASEは、SSE機能に加えて回線最適化・通信品質向上機能を提供し、SD-WAN機能により複数の回線を効率的に活用します。
SSEの4つのコア機能
SSEは、4つの主要なセキュリティ機能を統合的に提供することで、包括的なクラウドセキュリティを実現します。
SWG(Secure Web Gateway)
SWGは、インターネットへのアクセスを監視・制御する仕組みで、SSEの中核となる機能です。たとえば、業務に関係のないWebサイトへのアクセス制限、ウイルス付きファイルの検知、怪しいサイト(フィッシングサイトなど)のブロックなどを行い、インターネット経由の脅威からユーザーを守ります。
クラウド型のプロキシを通すことで、どこからアクセスしても同じルールで保護されます。また、世界中に分散配置されたインフラにより、セキュリティと快適な通信速度を両立できるでしょう。
関連記事:SWGとは?セキュリティ機能や種類、CASBとの違いについて解説
CASB(Cloud Access Security Broker)
CASBは、企業が使っているクラウドサービス(Microsoft 365やGoogle Workspaceなど)の利用状況を可視化し、リスク管理や情報漏えい防止を支援する機能です。
誰がどのクラウドアプリを使い、どのような操作をしているのかをリアルタイムで把握し、機密情報のアップロードや不適切な共有を防ぎます。また、社内で許可されていない「シャドーIT(未承認で利用されているクラウドサービス)」も検知し、統制を強化できます。
関連記事:CASBとは?必要性や主な機能、導入方法やメリットを解説
ZTNA(Zero Trust Network Access)
ZTNAは、「誰であっても最初から信用しない」というゼロトラストの考えに基づき、細かなアクセス制御を行う機能です。従来のVPNのように社内ネットワーク全体に接続するのではなく、必要なアプリケーションだけに限定してアクセスを許可します。
また、ユーザーの行動や端末の状態、接続場所などを元にリスクを評価し、その都度アクセスレベルを調整します。これにより、不正アクセスや情報流出のリスクを大幅に軽減できるでしょう。
関連記事:ZTNAとは? VPNとの違いや導入メリット、実装方法など徹底解説
FWaaS(Firewall as a Service)
FWaaSは、クラウドで提供されるファイアウォール機能で、Webアプリケーションの内容まで識別して高度な制御を行います。単なるポートやIPアドレスではなく、「どのようなアプリを使っているか」に基づいて通信を管理できるのが特徴です。
不正侵入の防止(IPS)やマルウェア対策、脅威情報と連携した防御機能により、最新の攻撃にも対応可能。クラウド上で集中管理されているため、常に最新のセキュリティ対策を適用できます。
SSE導入で得られる効果
SSEを導入することで、企業のセキュリティ管理やIT運用がよりシンプルかつ強固になり、さまざまな面でのメリットが得られます。
管理の手間を減らし運用を楽にする
SSE導入の大きな利点のひとつは、セキュリティ管理の一元化にあります。これまでは、複数の製品を別々に管理しなければならず、ポリシー設定やログの確認にも手間がかかっていました。
SSEでは、SWG・CASB・ZTNA・FWaaSといった主要な機能を1つのプラットフォームでまとめて扱えるため、設定や監視の手間が大きく減ります。また、クラウドで提供されるため、サーバーや機器の設置・保守も不要になり、IT部門の負担を軽くできるでしょう。
ゼロトラストセキュリティの導入
SSEは、ゼロトラストの考え方、「何も信用せず、すべてを確認する」を実現するための有力な手段です。ユーザーやデバイス、アプリへのアクセスを細かくチェックし、常に状態を見ながらアクセス許可を動的に調整します。
たとえば、ユーザーの行動履歴や端末の状態、どこからアクセスしているかなどを総合的に判断し、必要に応じてアクセス制限を強化。これにより、社内外問わず不審なアクセスや内部からの脅威にも、より柔軟かつ確実に対応できるようになります。
クラウド移行をスムーズに進める
SSEは、クラウド活用を前提とした働き方への移行も後押しします。たとえば、Microsoft 365やGoogle Workspaceといったクラウドサービスを安心して使える環境を整えることで、社外からの安全なアクセスや在宅勤務の促進にもつながるでしょう。
また、CASBの機能により、使われているクラウドサービスを可視化し、リスクのある利用を検出・制御できます。これにより、シャドーITのリスクを抑えながら、クラウド導入を加速できます。
SSE導入時の検討ポイントと注意点
SSEの効果的な導入には、戦略的な計画と段階的なアプローチが重要です。
導入計画の立て方と進め方
SSE導入を成功させるには、自社の課題を整理し、段階的に導入を進めるための明確なステップが求められます。現在のセキュリティ環境、ユーザーのアクセスパターン、利用中のクラウドサービスを詳細に分析し、SSEでカバーすべき範囲を把握します。段階的導入のアプローチには、以下のような例が挙げられます。
- パイロット導入:限定的なユーザーグループでSWG機能から開始
- 機能拡張:CASB、ZTNA機能を順次追加
- 全社展開:全ユーザーへの展開とFWaaS機能の統合
- 最適化:運用データに基づくポリシー調整と改善
現在のセキュリティ環境との連携方法
SSE導入時には、既存のセキュリティインフラとの連携戦略が重要です。オンプレミス型のセキュリティ機器、SIEM、エンドポイントセキュリティなどとの統合により、包括的なセキュリティ体制を構築する必要があります。
API連携やログ統合により、既存のセキュリティツールとの情報共有を実現し、相互補完的な防御体制を構築しましょう。
関連記事:エンドポイントセキュリティとは?主要技術や対策、導入ポイントを解説
SASE完全移行への道筋
SSEは、将来的なSASE完全移行への重要なステップです。セキュリティ機能の安定運用を確立した後、SD-WAN機能やネットワーク最適化機能を追加することで、SASEへの発展が可能です。
ネットワーク要件の評価、回線統合計画の策定、段階的な機能追加により、セキュリティとネットワークを統合した次世代IT基盤を構築できます。
まとめ
SSE(Security Service Edge)は、リモートワークやクラウド利用が進む中で、従来の境界型セキュリティの課題を解決する新たなセキュリティモデルです。クラウドネイティブな設計により、ゼロトラストセキュリティを効率的に実現できます。
SWG・CASB・ZTNA・FWaaSという4つの機能を統合することで、柔軟かつ包括的な保護を提供し、SASEのセキュリティ基盤としても段階的に導入可能です。
導入により、運用の効率化、ゼロトラスト体制の構築、クラウド移行の加速といった効果が期待できるでしょう。成功には、自社の状況に合った導入計画と、既存環境とのスムーズな連携を意識することが大切です。
この記事の執筆者

SB C&S株式会社
ICT事業部
ネットワーク&セキュリティ推進本部
須賀田 淳
最新のトレンドや事例をリサーチ。専門的なテーマも、初めての方が理解しやすいように噛み砕いて発信しています。