2025.9.30

目次
ZTNA(ゼロトラストネットワークアクセス)は、社内外を問わずすべてのアクセスを「信頼しない」ことを前提に、ユーザーやデバイスを厳格に検証してから接続許可するセキュリティモデルです。クラウド利用やリモートワーク拡大で従来の境界型防御が通用しにくくなった現代において、ZTNAはネットワーク内外に潜む脅威から安全に業務システムやデータを守るための技術として注目されています。
本記事では、ZTNAの基本概念からVPNとの違い、主要機能、実装方法、導入メリット、選定ポイントを解説します。
ZTNA(ゼロトラストネットワークアクセス)とは?
ZTNA(Zero Trust Network Access)とは、ゼロトラスト原則に基づくアクセス制御技術です。「信頼せず、常に検証する」セキュリティモデルを採用し、従来のネットワーク境界防御に依存しない仕組みを構築します。
ZTNAの核心は、ネットワーク内部・外部という概念を排除し、すべてのアクセス要求を疑い、継続的に検証することにあります。従来のセキュリティモデルでは、一度ネットワーク接続すれば広範囲にアクセスできる「城と堀」のアプローチを採用していました。しかしZTNAでは必要最小限の権限のみを付与し、アプリケーション単位での細かなアクセス制御を実現します。
また、ZTNAはクラウドネイティブなアーキテクチャに対応しており、場所やデバイスに依存しない一貫したセキュリティポリシーを適用可能です。これにより、自宅でリモートワークする社員や、オフィスで働く社員、パートナー企業のユーザーなど、多様なアクセス形態に対して統一されたセキュリティ体験を実現します。
ZTNAが注目される背景
ZTNAが企業から注目を集める背景には、現代のIT環境とセキュリティ脅威の変化があります。
クラウドファーストとリモートワークの普及
新型コロナウイルスの大流行を契機として、多くの企業がクラウドファーストの戦略を採用し、リモートワークが標準的な働き方となりました。従来の社内ネットワークを前提とした境界防御モデルが機能しない状況が生まれています。
境界型セキュリティの限界と脆弱性が明らかに
従来の境界型セキュリティは「内部は安全、外部は危険」という前提に基づいていましたが、内部ネットワークに侵入した攻撃者による被害拡大や、内部犯行による情報漏洩事件が相次ぎ、この前提の脆弱性が明らかになりました。
ZTNAとVPNの違い
ZTNAと従来のVPN(Virtual Private Network)には、アクセス制御の方針から実装方法まで根本的な違いがあります。
VPNとZTNAのアクセス制御には根本的な差異がある
VPNは、ネットワーク全体への接続許可を前提としたソリューションです。ユーザーが認証に成功すると、企業ネットワーク全体にアクセスできる「ネットワーク拡張」のアプローチを採用しています。
一方でZTNAは、アプリケーション単位の厳密制御を実現します。ユーザーは認証後も特定のアプリケーションのみアクセスでき、ネットワーク全体は見えません。
VPNとアクセス制御の比較表
項目 | VPN | ZTNA |
---|---|---|
アクセス単位 | ネットワーク全体 | アプリケーション単位 |
可視性 | 内部ネットワーク全体 | 許可されたアプリのみ |
権限の範囲 | 広範囲 | 最小権限 |
セキュリティモデル | 境界型 | ゼロトラスト |
セキュリティ・パフォーマンス
VPNは一度接続すると社内ネットワーク全体にアクセスできる仕組みです。利便性は高い反面、アカウントが攻撃されると攻撃者が自由にネットワーク内部を移動でき、被害範囲が広がるリスクがあります。また、すべての通信をVPN機器経由で処理するため、アクセス集中による遅延やパフォーマンス低下が起こりやすく、運用や拡張にも制約が生じます。
ZTNAは「最小権限の原則」に基づき、アプリやサービス単位で個別に認証・認可を行い、必要な権限だけを付与します。攻撃面を最小化し、侵害時の被害拡大を防止できるのが特徴です。さらにクラウドネイティブな設計により、ユーザーやデバイスの状態・場所などを考慮したアクセス制御が可能です。接続・切断操作も不要で、ユーザー体験や業務効率の面でも優れています。
コスト・導入ハードル
初期投資・運用コスト比較では、ZTNAが長期的な優位性を示します。VPNは専用機器の購入・保守が必要ですが、ZTNAはクラウドサービスとして提供されるため、初期投資を抑制できます。
既存インフラとの統合性において、ZTNAは既存のアプリケーションを変更することなく保護機能を追加でき、段階的移行の実現性が高い点が特徴です。
ZTNAの主な機能
ここではZTNA3つの主要機能を紹介します。
高精度なアクセス制御で被害範囲を最小化
ZTNAの中核となるのが、最小権限の原則に基づいたきめ細かなアクセス制御です。ユーザーやデバイスの属性、利用場所や時間帯などのコンテキスト情報を組み合わせ、アクセスごとにリアルタイムで許可・拒否を判断します。業務に必要なアプリやリソースだけにアクセス権を与えられ、万一アカウントが侵害されても被害を最小限に抑えられます。
VPNのように接続後は社内ネットワーク全体にアクセスできる状態とは異なり、侵入後の横移動(ラテラルムーブメント)を防ぐことが可能です。
関連記事:ラテラルムーブメントとは?攻撃手法から検知・対策方法など解説
可視性の高さと監査によるセキュリティ強化
すべてのアクセス試行やユーザー行動を詳細に記録し、誰が・いつ・どこから・何にアクセスしたのかを可視化できるのもZTNAの強みです。ログはインシデント発生時の調査やコンプライアンス報告に活用できるほか、異常な挙動の早期発見にもつながります。可視性が高まることで、事後対応だけでなく予防的なセキュリティ対策の精度も向上します。
認証と認可の統合・管理
ZTNAは、多要素認証(MFA)やシングルサインオン(SSO)、ID管理システムとの統合により、強固で一貫性のある認証・認可基盤を構築できます。ユーザーは一度のログインで必要なアプリやサービスへアクセスでき、業務の効率を損なうことなく高いセキュリティを維持可能です。
接続後もユーザーやデバイスの状態を継続的に評価し、リスクが高まった場合には即座に権限を制限するなど、状況に応じた柔軟な対応が行えます。
関連記事:多要素認証(MFA)とは?仕組み・メリットから導入方法まで解説
ZTNA導入のメリット
ZTNA導入により、以下のようなメリットを得られます。
セキュリティレベルの向上
ZTNAは必要最小限の権限だけを付与することで、万一アカウントが侵害されても被害範囲を最小限に抑えることが可能です。VPNのように社内ネットワーク全体を外部にさらすことがないため、攻撃対象領域を大幅に減らせます。結果として、不正アクセスや内部不正のリスクを低減できます。
セキュリティポリシーの一元管理
ZTNAはクラウド上でセキュリティポリシーを集中管理でき、拠点やアプリごとに個別設定する必要がありません。ユーザーやデバイスの属性、利用場所、業務内容に応じてアクセス権限を調整できるため、組織全体で統一されたセキュリティレベルを維持できます。ポリシー変更も即時に全システムへ反映でき、運用負荷の軽減にもつながります。
高品質な通信環境の確保ができる
ZTNAではユーザーの所在地に近いアクセスポイントや最適な経路を自動的に選択できるため、通信遅延や帯域逼迫を最小限に抑えられます。またクラウドやSaaSアプリケーションへ直接アクセスできる構成のため、VPNにありがちなトラフィック集中による速度低下を回避できます。リモートワークや海外拠点からでもオフィスと同等の快適な作業環境を実現できるのはZTNA導入のメリットです。
ZTNA導入・選定のポイント
ZTNAを導入する際は、機能比較だけでなく業務環境や将来の運用を見据えた検討が欠かせません。以下の観点を押さえることで、導入後の効果を最大化できます。
まずは、自社のアクセス環境とセキュリティ要件を整理しましょう。リモートワーク、拠点間通信、クラウド利用など、実際の利用シナリオを洗い出すことで、必要な機能や性能が明確になります。その上で、ZTNA単体だけでなく、Secure Web Gateway(SWG)やファイアウォールなど他のセキュリティ機能もあわせて提供できるベンダーを選ぶと、クライアントアプリを統一でき運用負荷や相互運用トラブルを減らせます。
また、既存のID管理システムや認証基盤との統合性も重要です。シングルサインオン(SSO)や多要素認証(MFA)をスムーズに組み込めるかどうかは、利便性とセキュリティ面を維持するためにも重要な観点です。
今後の拡張やサポート体制もしっかり確認しておきましょう。クラウドの拠点展開スピード、障害対応の迅速さ、セキュリティ認証の取得状況、機能アップデートの頻度などを確認しておくと安心です。可能であれば試験的な導入を行い、実際の運用環境で性能・操作感・通信品質を検証した上で、本格導入を判断するのがおすすめです。
関連記事:SWGとは?セキュリティ機能や種類、CASBとの違いについて解説
まとめ
ZTNA(ゼロトラストネットワークアクセス)は、「信頼せず常に検証する」というゼロトラストの考え方を実現し、従来のVPNが抱えるセキュリティ上の課題を解消します。アプリケーション単位の厳密なアクセス制御により、攻撃面を最小化しつつ、高いセキュリティと運用効率を両立できます。
セキュリティ強化、ポリシーの一元管理、通信品質の向上といった効果を得るためには、自社の要件に合ったソリューションを選定し、適切に導入することが大切です。
この記事の執筆者

SB C&S株式会社
ICT事業部
ネットワーク&セキュリティ推進本部
野口 綾香
初心者の方にも理解しやすく、役立つ情報を発信することを大切にしています。