2025.9.12

目次
エンドポイントセキュリティとは、企業のPC・スマートフォン・サーバーなどの端末をマルウェア感染や不正アクセスから保護するセキュリティ対策です。
デジタル化の進展とリモートワークの普及により、企業のセキュリティ環境は大きく変化しています。特に従業員が使用するPCやモバイル端末などのエンドポイントは、サイバー攻撃の主要な標的です。これらを適切に保護することが重要な課題となっています。
本記事では、エンドポイントセキュリティの基本概念から最新技術、効果的な導入方法まで詳しく解説します。
エンドポイントセキュリティとは
エンドポイントセキュリティとは、PCやスマートフォン、タブレット、サーバーなどの端末を包括的に保護するセキュリティ対策です。これらの端末は企業ネットワークへの入口となるため、攻撃者にとって狙いやすい標的です。
従来のアンチウイルスソフトだけでは不十分なため、現在のエンドポイントセキュリティは多層防御アプローチを採用しています。マルウェア検知やネットワーク監視、データ暗号化など複数のセキュリティ技術を組み合わせることで強固な防御体制を構築しています。
現在では「社内ネットワークは安全である」という従来の前提が成り立たなくなりました。そこで注目されているのが、すべての端末を信頼せずに監視する「ゼロトラスト」という考え方です。この観点から、エンドポイントセキュリティは企業にとって欠かせない存在となっています。
エンドポイントセキュリティが重要な理由
エンドポイントセキュリティの重要性が急速に高まっている背景には、現代のビジネス環境が抱える様々な課題があります。
まず、リモートワークの普及により攻撃対象面が大幅に拡大したことが挙げられるでしょう。従来のオフィス中心の業務形態では、企業ネットワークの境界が明確でしたが、在宅勤務やモバイルワークの増加により、従業員は様々な場所から様々な端末を使用してネットワークにアクセスするようになりました。この変化により、攻撃者が悪用できるエントリーポイントが飛躍的に増加しています。
また、高度持続的脅威(APT攻撃)という新たな脅威への対策も欠かせない課題です。APT攻撃は、長期間にわたって標的組織内に潜伏し、機密情報の窃取や破壊活動を行う巧妙な手法が用いられています。これらの攻撃は従来の境界防御では検知が困難であり、エンドポイント単位での詳細な監視と分析が不可欠です。
さらに、内部脅威や特権昇格攻撃の防止も見逃せません。悪意のある内部関係者による情報漏洩や、外部攻撃者が正当なユーザーの認証情報を窃取して権限を昇格させる攻撃に対して、エンドポイントレベルでの監視と制御が重要な役割を担っています。
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エンドポイントセキュリティの主要技術
エンドポイントセキュリティには、複数の技術が組み合わされており、より強固な防御体制を構築できます。ここでは代表的な技術を3つに分類して紹介します。
EPP(Endpoint Protection Platform)
EPPは、エンドポイントセキュリティの基盤となる包括的な保護システムです。従来型のアンチウイルス機能を中心としながら、より高度な防御機能を統合した次世代の保護技術といえるでしょう。
EPPの中核機能には、シグネチャベースの検知とヒューリスティック検知があります。シグネチャベース検知では既知のマルウェアのパターンをデータベースと照合して脅威を特定し、ヒューリスティック検知ではプログラムの動作パターンを分析して未知の脅威を検出可能です。
また、EPPには統合ファイアウォールとデバイス制御機能も含まれます。これらにより、ネットワーク通信の制御やUSBメモリなどの外部デバイスの使用制限を行い、データ漏洩や外部からの攻撃を防止できるのです。
EDR(Endpoint Detection and Response)
EDRは、エンドポイント上で発生するすべてのアクティビティをリアルタイムで監視し、異常な振る舞いを検知・分析する高度なセキュリティ技術です。
EDRの最大の特徴は、リアルタイム監視と詳細な行動分析機能にあります。システム上で実行されるプロセスやファイルの変更、ネットワーク通信など、あらゆる活動を継続的に記録・分析し、通常とは異なるパターンを検出します。
また、インシデント発生後の詳細調査機能も欠かせない機能です。攻撃の痕跡を時系列で追跡し、感染経路や影響範囲を特定することで、効果的な対応策の策定と再発防止につながります。
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次世代エンドポイント技術
最新のエンドポイントセキュリティでは、従来技術の限界を克服するための革新的なアプローチが採用されています。
機械学習とAI技術の活用により、未知の脅威に対する検知能力が大幅に向上しました。大量のデータから学習したアルゴリズムが、従来のシグネチャベース検知では発見できない新しい攻撃パターンを識別できるようになっています。
ゼロトラストアーキテクチャとアダプティブセキュリティの概念も大きな進歩です。すべてのアクセスを継続的に検証し、リスクレベルに応じて動的にアクセス制御を調整することで、より柔軟で効果的なセキュリティを実現しています。
エンドポイントセキュリティの対策方法
エンドポイントセキュリティでは、複数の視点からの対策が必要です。ここでは主な対策を4つ紹介します。
マルウェア検知
マルウェア検知は、エンドポイントセキュリティの最も基本的かつ重要な対策です。マルウェアが侵入した際にいち早く検知して注意を促すだけでなく、感染した可能性がある場合には被害を最小限に食い止める対策も含まれます。
現代のマルウェア検知技術では、従来のシグネチャベース検知に加えて、振る舞い分析や機械学習を活用した高度な検知手法が採用されています。これにより、未知の脅威やゼロデイ攻撃に対しても効果的な防御が可能です。リアルタイムでの脅威対応が実現されています。
ハードディスク暗号化
PCに内蔵されているハードディスクやSSDなどの記憶領域を暗号化することで、端末の紛失や盗難が発生した場合でも機密情報の漏洩を防げます。
現在では、OSレベルでの暗号化機能や専用ソフトウェアにより、ユーザーの利便性を損なうことなくデータ保護が行えるようになっています。特に、BitLockerやFileVaultなどの標準機能を活用することで、企業は低コストで効果的な暗号化を導入可能です。
振る舞い検知
ネットワーク上のデータの流れや通信パターンから普段とは異なる異常な振る舞いを検知し、脅威を検出する仕組みです。
正常なユーザー行動やシステム動作のベースラインを学習し、それから逸脱した活動を自動的に識別することで、従来の手法では発見が困難な高度な攻撃や内部脅威を特定できます。AI技術の進歩により、誤検知を減らしながらより精度の高い脅威検出が可能になっています。
ID管理
ユーザーのアカウント情報を一元管理し、アクセス権限を適切に付与することにより、許可されたユーザーのみデータへのアクセスを可能にする仕組みです。
現代のID管理では、多要素認証やシングルサインオン、権限の最小化原則などが組み合わされ、セキュリティと利便性のバランスを取りながら効果的なアクセス制御を実現しています。また、定期的なアクセス権の見直しや、離職者のアカウント無効化の自動化により、セキュリティリスクの継続的な軽減が図られています。
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エンドポイントセキュリティを導入する際のポイント
エンドポイントセキュリティの導入では、単に製品を導入するだけでなく、自社の環境に合った選定と設計が求められます。以下の観点で検討することが大切です。
ウイルスの検知方法
エンドポイントセキュリティ製品を選択する際、採用されている検知技術の種類と精度は最重要な評価項目です。シグネチャベース検知だけでなく、ヒューリスティック分析や機械学習、振る舞い検知など、複数の検知手法を組み合わせた製品を選択することが推奨されます。
特に未知のマルウェアやゼロデイ攻撃に対する検知能力は、現代の脅威環境において不可欠な機能といえるでしょう。
インシデント対応のサポート
セキュリティインシデントが発生した際の対応体制とサポート内容も重要な選択基準となります。24時間365日のサポート体制や専門アナリストによる脅威分析、インシデント対応の支援サービスなど、製品の機能だけでなくサービス面でのサポートも考慮に入れる必要があります。
他社製品サービスとの連携
現代の企業環境では、複数のセキュリティツールやITサービスが併用されることが一般的です。選択するエンドポイントセキュリティソリューションが、既存のシステムや他のセキュリティ製品と適切に連携できるかどうかは重要な判断材料となります。
SIEM(Security Information and Event Management)システムとの連携、クラウドサービスとの統合、API連携の可用性などを確認し、統合的なセキュリティ運用が可能な製品を選択することが求められるでしょう。
まとめ
エンドポイントセキュリティは、現代のサイバーセキュリティ戦略において欠かせない役割を果たしています。この分野への注目が高まっている背景には、リモートワークの普及や高度な脅威の増加があります。従来の境界防御だけでは十分な保護が困難になっている現状において、各端末レベルでの包括的な防御体制の構築が不可欠です。
EPPによる基本的な保護機能からEDRによる高度な監視・分析機能、さらには機械学習やAIを活用した次世代技術まで、エンドポイントセキュリティは継続的に進化を続けています。マルウェア検知やデータ暗号化、振る舞い分析、ID管理といった多様な対策を組み合わせることで、多層防御の実現が可能になります。
導入に際しては、検知技術の評価やインシデント対応体制の確認、既存システムとの連携性の検証といったポイントを慎重に検討することが大切です。適切なエンドポイントセキュリティソリューションの導入により、組織の重要な資産を効果的に保護し、安全で生産性の高いデジタル環境を実現できるでしょう。
この記事の執筆者

SB C&S株式会社
ICT事業部
ネットワーク&セキュリティ推進本部
須賀田 淳
最新のトレンドや事例をリサーチ。専門的なテーマも、初めての方が理解しやすいように噛み砕いて発信しています。