2025.9.12

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DLP(Data Loss Prevention)は、企業が保有する機密情報や重要データを自動で特定・監視し、外部への漏洩や消失を防ぐセキュリティシステムです。従来のセキュリティ対策が外部攻撃の防御に重点を置いていたのに対し、DLPは内部からの情報流出や誤送信、USBメモリへの不正コピーなどを防ぐことに特化しています。
本記事では、DLPの仕組みや主要機能、企業が導入するメリットと注意点をわかりやすく解説します。情報漏洩リスクを減らし、コンプライアンス強化を図りたい企業担当者の方はぜひ参考にしてください。
DLPとは
DLP(Data Loss Prevention)は、機密情報や重要データを自動で特定して監視し、漏洩や消失を防ぐシステムのことです。DLPは「データ損失防止」とも呼ばれ、企業にとって重要な情報資産を包括的に保護する技術として位置づけられています。
従来のセキュリティ対策が外部からの脅威に重点を置いていたのに対し、DLPの目的は組織内部からの情報漏洩を防ぐことです。DLPシステムは、あらかじめ設定されたポリシーに基づいて、ネットワーク上やパソコン内のデータを常に監視。機密情報が見つかった場合にはアラートを出したり、送信を止めたりして漏洩を防ぎます。
顧客情報や財務データ、設計図などの機密データが社内に多くある今、DLPはこれらの情報を一元的に管理し、安全に守るための重要な手段です。
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DLPが注目される背景
近年、DLPへの注目度が高まっている理由は、企業を取り巻く情報セキュリティ環境の変化にあります。
機密情報が漏洩すれば、企業の信頼が損なわれるだけでなく、事業継続そのものが危うくなるリスクも生じます。さらに、個人情報保護法やGDPRなどの厳格な規制により、データ漏洩時の法的責任も重くなっており、ひとたび重大な事故が発生すれば、巨額の賠償金が発生するケースも少なくありません。
また、リモートワークの普及により、社外から社内データへのアクセスが日常化する中、従来の「外部から守る」セキュリティでは限界が見え始めています。加えて、社員による意図的な情報持ち出しや、メールの誤送信といった「内部リスク」も深刻化しつつあります。
DLPは、こうした状況に対応するためデータの場所やアクセス状況を常に把握し、不正利用や漏洩の兆候があればすぐに対処できる仕組みです。企業が自らの情報資産を守るうえで、DLPは今後ますます欠かせない存在となるでしょう。
DLPがデータを判別する仕組み
DLPシステムがデータを効果的に保護するためには、まず保護対象となる機密情報を正確に特定することが必要です。主に以下の方法でデータの判別を行います。
特定のキーワードや正規表現
あらかじめ定めたポリシーに基づいて各種データをスキャンし、その中から特定のキーワードや正規表現にマッチするデータを判別する手法です。
たとえば、「機密」や「社外秘」、「極秘」などのキーワードや、クレジットカード番号のパターン(4桁-4桁-4桁-4桁)、電話番号やメールアドレスの構造などを正規表現として設定します。DLPシステムは、これらのパターンに一致する情報を自動的に検出し、保護対象として認識することが可能です。より高度な設定では、複数のキーワードの組み合わせや特定の文脈での出現パターンも考慮できます。
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フィンガープリント
フィンガープリントは、個々のデータにおける特有の「指紋」のようなもので、ファイルの特徴を数値化して一意に識別する技術です。ファイル名が変わったり、一部が修正されたりしても、元のデータと同じものだと判別できます。
登録された機密文書のフィンガープリントがデータベースに保存され、ネットワーク上を流れるデータと照合されます。これにより、機密情報が移動・複製されるのをすぐに検出できるのです。部分的な変更にも対応できるため、意図的にデータを改変して持ち出そうとする行為も効果的に防げます。
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DLPの主要機能
DLPシステムは、包括的なデータ保護を実現するため、複数の機能を組み合わせて運用されます。以下に主要な機能を解説します。
デバイスの制御
USBメモリや外付けハードディスク、DVDなどのリムーバブルメディアへのアクセスを制御し、機密情報が含まれるファイルの外部デバイスへの書き込みを防ぎます。スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスとの接続も監視し、企業データの不正な転送を阻止することが可能です。
コンテンツの監視
ネットワーク上を流れるデータの内容を常にチェックし、機密情報の送信をリアルタイムで検出します。対象となるのは、メールやファイル転送、Webアップロードなど多岐にわたる通信経路です。機密情報が検出された場合、送信を自動的にブロックしたり、管理者に通知を送ったりすることで、迅速な対処を実現します。
印刷やコピー等の制御
機密文書の印刷やクリップボードへのコピー操作を制御し、物理的な情報漏洩を防ぎます。印刷時には透かしを自動挿入し、出力された文書の追跡するほか、画面のスクリーンショットの取得も制限可能です。このように、デジタル的な情報の複製を防ぐことで、様々な経路での情報漏洩を包括的に防止できます。
メール経由感染を防ぐセキュリティ
電子メールの送受信において、機密情報の誤送信を防ぎます。送信先のドメインチェックや添付ファイルの内容検査、メール本文の機密情報スキャンなどを実施。外部宛てのメールに機密情報が含まれている場合、自動的に送信を保留し、管理者の承認を求めることで意図しない情報漏洩を効果的に防げます。
Webサイト経由の感染を防ぐセキュリティ
Webブラウザを通じたファイルアップロードやクラウドサービスへのデータ送信を監視します。機密情報が含まれるファイルの不正なアップロードを検出し、自動的にブロックします。ソーシャルネットワークや個人用クラウドストレージへの機密情報の投稿も防ぎ、様々なWebサービスを通じた情報漏洩を包括的に防止することが可能です。
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企業におけるDLP導入のメリット
DLPの導入により、企業は以下のような具体的なメリットを得られます。
データ漏洩リスクの大幅削減
DLPシステムの導入により、従来の境界防御では防げなかった内部からの情報漏洩も、リアルタイムの監視により効果的に防止可能です。
特に人的ミスによるメールの誤送信やUSBメモリへの機密ファイルの保存、クラウドサービスへの意図しないアップロードなど、日常的に発生しうる情報漏洩を自動的に防げます。
コンプライアンス要件対応
個人情報保護法やGDPR、業界固有の規制など、厳格なコンプライアンス要件に対応できます。DLPシステムは、規制対象となるデータを自動的に特定し、適切な保護措置を講じることが可能です。
また、監査証跡の自動生成により、規制当局への報告書作成も効率化されます。データの取り扱い状況を詳細に記録し、コンプライアンス違反のリスクを最小化します。
組織内部の不正抑制効果
DLPの導入により、従業員の情報セキュリティ意識が向上し、内部不正の抑制効果が期待できます。データの利用状況が常時監視体制にあると認識することで、不正行為への心理的な抑制効果が働くでしょう。
また、実際に不正行為が発生した場合でも、詳細なログ記録により迅速な原因特定と対策が可能になり、組織全体のセキュリティ文化の向上にも役立ちます。
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DLP導入時の注意点
DLPの導入を成功させるためには、以下の点に注意する必要があります。
導入と運用にコストがかかる
DLPシステムの導入には、ソフトウェアライセンス費用やハードウェア投資、導入コンサルティング費用など、相当な初期投資が必要です。また、運用を行っていく際も継続的な費用がかかります。
そのため、費用対効果を適切に評価し、段階的な導入計画を立てることが重要です。まずは最も重要なデータから保護を開始し、徐々に対象範囲を拡大していくアプローチをおすすめします。
デバイスのスペックの確認
DLPシステムは、リアルタイムでのデータ監視とスキャンを行うため、相応のシステムリソースを消費します。既存のデバイスやネットワーク機器が十分な性能を持っているかを事前に確認することが必要です。
特にエンドポイントにインストールされるDLPエージェントは、CPU使用率やメモリ消費量に影響を与える可能性があります。業務に支障をきたさないよう、適切なスペックの確保が欠かせません。
サポートの有無を確認
DLPシステムの運用には、専門的な知識と継続的なサポートが不可欠です。ベンダーが提供するサポートサービスの内容や対応時間、費用などを詳細に確認し、自社のニーズに適合するかを評価することが重要です。
また、トラブル発生時の対応体制や、システムアップデートの頻度なども確認しておく必要があります。
自社における課題解決可能な活用法を考える
DLPは万能なソリューションではありません。自社の業務プロセスやデータの流れ、組織文化などを十分に理解し、実際の課題解決に有効な活用法を検討することが大切です。
導入前には、現在抱えている情報セキュリティ上の課題を洗い出し、DLPでどの程度改善できるかを現実的に評価する必要があります。過度な期待や不適切な設定は、かえって業務効率の低下を招く恐れがあるため、慎重な判断が求められます。
まとめ
DLPは、現代企業にとって重要な情報資産を保護するために欠かせない技術です。機密情報の漏洩リスクが高まる中、従来の境界防御だけでは十分な保護が困難になっています。
DLPシステムの導入により、データそのものを保護し、人的ミスによる情報漏洩の防止やコンプライアンス要件への対応において大きな効果が期待できます。
ただし、導入には費用や専門的な知識が必要なため、自社の課題や環境に適した計画的な導入が欠かせません。適切な導入と運用により、企業の情報セキュリティレベルを大幅に向上できるでしょう。
この記事の執筆者

SB C&S株式会社
ICT事業部
ネットワーク&セキュリティ推進本部
須賀田 淳
最新のトレンドや事例をリサーチ。専門的なテーマも、初めての方が理解しやすいように噛み砕いて発信しています。