2025.9.12

目次
脆弱性診断(セキュリティ診断)は、企業のITシステムやWebアプリケーション、ネットワーク機器に潜む弱点を自動ツールや専門家の手動テストで検出し、サイバー攻撃の入り口となる脆弱性を事前に塞ぐためのセキュリティ検査です。
デジタル化の進展とともに、企業が直面するサイバーセキュリティリスクは日々増大しています。その中で、システムやアプリケーションの弱点を事前に発見・対処する脆弱性診断の重要性が高まっています。
本記事では、脆弱性診断の基本概念から実施方法、ツール選びのポイントまで、企業が知るべき重要な情報を解説します。
脆弱性診断の基礎知識
脆弱性診断を効果的に活用するためには、その基本概念と重要性を正しく理解することが重要です。
脆弱性診断とは?セキュリティ検査の概要
脆弱性診断(Vulnerability Assessment)とは、システム・アプリケーションの弱点発見を目的とした包括的なセキュリティ検査です。企業が利用するITシステム、Webアプリケーション、ネットワーク機器などに存在する既知の脆弱性や設定不備を体系的に発見し、セキュリティリスクを評価します。
脆弱性診断は、自動ツールによるスキャンと手動テストによる包括検査を組み合わせて実施されます。自動ツールは既知の脆弱性データベース(CVE、NVD等)に基づいて短時間で多くの項目をチェックし、手動テストでは専門家の知見により複雑な脆弱性や設定ミスを発見する方法です。
この2つを組み合わせた診断手法は、予防的セキュリティ対策の基盤として位置づけられ、攻撃者に悪用される前に脆弱性を発見・修正することで、セキュリティインシデントの発生を防止します。
脆弱性診断が重要な理由
現代の企業にとって脆弱性診断が重要な理由は、主に3つの観点から説明できます。
サイバー攻撃の入り口となる脆弱性の除去
サイバー攻撃者は、システムに存在する脆弱性を起点として侵入を試みます。SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング(XSS)、バッファオーバーフローなどの技術的脆弱性は、攻撃者にとって格好の標的となります。脆弱性診断により、これらの攻撃の入り口を事前に塞げれば、侵入リスクを大幅に軽減することが可能です。
関連記事:サイバーセキュリティとは?サイバー攻撃の種類や代表的な対策方法を解説
開発・運用プロセスでの品質向上
脆弱性診断を開発ライフサイクルに組み込むことで、セキュアなシステム開発を実現できます。開発段階での早期発見により、修正コストを大幅に削減しつつ、リリース後のセキュリティインシデントも防止できるため、有効な対策といえるでしょう。運用段階では、システム変更やアップデート後の診断により、新たに発生した脆弱性を迅速に発見できます。
コンプライアンス・監査要件対応
金融業界、医療業界、政府機関などでは、法的規制や業界標準により定期的な脆弱性診断が義務付けられています。PCI DSS、HIPAA、SOX法などのコンプライアンス要件では、システムの脆弱性管理が重要な評価項目です。また、取引先からのセキュリティ監査においても、脆弱性診断の実施履歴と結果が重要な判断材料となります。
関連記事:エンドポイントセキュリティとは?主要技術や対策、導入ポイントを解説
脆弱性診断の主な種類
脆弱性診断は、対象システムの特性に応じて異なるアプローチと手法を用います。主要な診断種類を理解することで、自社のシステム構成に最適な診断計画を策定できます。
アプリケーション診断
アプリケーション診断は、企業が開発したWebアプリケーションに内在する脆弱性を発見する診断手法です。ECサイト、顧客管理システム、社内業務システムなど、Webブラウザからアクセスするアプリケーションが主な対象となります。
検出される主要な脆弱性
脆弱性の種類 | 攻撃手法 | 影響 |
---|---|---|
SQLインジェクション | データベースへの不正クエリ実行 | 機密情報の窃取・改ざん |
クロスサイトスクリプティング(XSS) | 悪意のあるスクリプト実行 | セッション乗っ取り・情報窃取 |
クロスサイトリクエストフォージェリ(CSRF) | ユーザーの意図しない操作実行 | 不正なデータ変更・削除 |
ディレクトリトラバーサル | ファイルシステムへの不正アクセス | システムファイルの閲覧・窃取 |
アプリケーション診断では、動的検査(DAST)と静的検査(SAST)の両方のアプローチが用いられます。動的検査では実際にアプリケーションを動作させながら脆弱性を検証し、静的検査ではソースコードを解析して潜在的な脆弱性を発見します。
プラットフォーム診断
プラットフォーム診断は、Webアプリを利用するためのネットワーク機器やOS、サーバーなどに脆弱性がないか、設定に問題がないかを診断する方法です。アプリケーションを支える基盤インフラのセキュリティを評価します。
主要な診断対象と内容
ネットワーク機器診断 |
|
---|---|
サーバーOS診断 |
|
ミドルウェア・データベース診断 |
|
プラットフォーム診断では、CVE(Common Vulnerabilities and Exposures)データベースに登録された既知の脆弱性を中心に、自動スキャンツールによる効率的な検査が可能です。
脆弱性診断のやり方
脆弱性診断の実施方法は、利用するツールや専門性のレベルによって大きくわかれます。企業の規模、技術力、予算に応じて最適な手法を選択してください。
自動診断ツールを活用
自動診断ツールは、手軽にWebブラウザから使えて、診断から結果までが最短5分程度で完了するものもあり、技術的な専門知識がない担当者でも脆弱性診断を実施できます。
自動診断ツールの特徴
メリット |
|
---|---|
主要なツール種類 |
|
自動診断では、既知の脆弱性データベース(CVE、CWE)に基づいたシグネチャマッチングにより、効率的な脆弱性検出が可能です。ただし、複雑なビジネスロジックの脆弱性や、複数の条件が組み合わさった脆弱性の検出は困難な場合があります。
手動診断・専門家による検証
手動診断は、サイバーセキュリティの専門知識を持つ専門家により、対象のWebアプリケーションやシステムを詳細に検査する手法です。自動ツールでは発見困難な複雑な脆弱性や、ビジネスロジック固有の問題を発見できます。
専門家による高度な検証では、複数の脆弱性を組み合わせた攻撃シナリオの検証や、アプリケーション固有のビジネスロジックの脆弱性発見が可能です。また、認証バイパス・権限昇格の可能性、セッション管理の詳細分析、暗号化実装の強度確認など、自動ツールでは検出困難な項目を専門家の経験と知見により検証します。これにより、企業固有のシステム構成や業務要件を考慮した実践的なセキュリティ評価を提供できるでしょう。
脆弱性診断とペネトレーションテストの違い
脆弱性診断とペネトレーションテストは、いずれもシステムのセキュリティ評価を行う手法ですが、目的とアプローチが大きく異なります。脆弱性診断が特定の基準をもとにテストを実施して判定するのに対し、ペネトレーションテストはシステムにあわせた攻撃シナリオを用いてシステムに侵入できるかどうかを検証します。
比較項目 | 脆弱性診断 | ペネトレーションテスト |
---|---|---|
主な目的 | 既知の脆弱性の網羅的発見 | 実際の侵入可能性の検証 |
検証方法 | 標準的なチェックリストに基づく診断 | 攻撃者の視点からの実践的攻撃 |
実施範囲 | システム全体の網羅的スキャン | 特定の攻撃経路に絞った深い検証 |
必要時間 | 数時間〜数日 | 数日〜数週間 |
コスト | 比較的低額 | 比較的高額 |
関連記事:ペネトレーションテスト(ペンテスト)とは?脆弱性診断の違いや実施プロセスを解説
脆弱性診断ツールの選び方
効果的な脆弱性診断を実施するためには、自社の要件に適合したツールの選択が重要です。技術的機能だけでなく、サポート体制や運用面での実用性も考慮して総合的に判断する必要があります。
専門家のサポートが受けられる
脆弱性診断ツールの選択において、専門家のサポートが受けられることは極めて重要な要素です。診断結果の適切な解釈と効果的な対策実施のためには、専門知識を持つサポート体制が不可欠です。
検出された脆弱性の実際のリスクレベル評価では、技術的な脆弱性が実際のビジネスにどの程度の影響を与えるかを専門家が評価し、対応の優先順位を明確にします。また、自動診断ツールでは誤検知(False Positive)が発生することがあるため、専門家による判別支援により、実際に対応が必要な脆弱性を正確に特定できます。
さらに、発見された脆弱性に対する具体的な修正手順の提示や、継続的な運用サポートにより、診断後の改善活動を効果的に進めることが可能です。特に社内にセキュリティ専門家が不足している企業では、外部専門家のサポートが診断の価値を最大化する重要なポイントとなります。
関連記事:SOC(Security Operations Center)とは?主な機能や役割、構築から運用体制まで解説
関連記事:CSIRTとは?主な種類や役割、導入する方法を解説
検出する脆弱性の範囲や深さで選ぶ
診断ツールの検出能力は、カバーする脆弱性の種類、検出精度、診断の深度によって大きく異なります。自社のシステム構成とリスクプロファイルに応じて、適切な検出能力を持つツールを選択することが重要です。
診断種類 | 対象システム | 主要な検出項目 |
---|---|---|
Webアプリケーション診断 | Webアプリ・API | SQLインジェクション、XSS、CSRF等 |
ネットワーク診断 | サーバー・NW機器 | OS脆弱性、設定不備、不要サービス |
クラウド診断 | AWS・Azure・GCP | IAM設定、ストレージ公開設定等 |
費用で選ぶ
脆弱性診断ツールにはさまざまな費用体系があるため、企業の規模や使用頻度に適した料金モデルを選択できます。初期導入コストだけでなく、運用コストや将来的な拡張性も含めて総合的に判断することが重要です。
ライセンス型では、買い切り型が長期利用で割安となる一方、年間ライセンスは定期更新により最新機能を利用できるというメリットがあります。クラウド型(SaaS)は初期投資を抑えた導入ができるほか、月額課金や従量課金により利用規模に応じた柔軟な料金設定が可能です。サービス型では、専門家による診断代行や年間契約により、社内リソースが不足している企業でも効果的な診断を実施できます。
コスト最適化においては、社内の技術者リソースと外部委託のバランスを考慮し、診断頻度と対象システム数に基づいた費用試算を行うことが大切です。また、将来的な事業拡大を見据えた拡張性も含めて、長期的な視点でツール選択を行う必要があるでしょう。
まとめ
脆弱性診断は、現代企業にとって不可欠なセキュリティ対策として位置づけられます。システムやアプリケーションに潜む脆弱性を事前に発見・修正することで、サイバー攻撃のリスクを大幅に軽減できます。
また、ペネトレーションテストとの違いを理解し、それぞれの特性を活かした使い分けを行うことで、より効果的なセキュリティ管理体制を構築できます。ツール選択においては、検出能力、サポート体制、費用の3つの観点から総合的に判断し、自社の要件に最適なソリューションを選択することを心がけましょう。継続的な脆弱性診断の実施が、変化する脅威環境に対応できる堅牢なセキュリティ基盤の構築につながるはずです。
この記事の執筆者

SB C&S株式会社
ICT事業部
ネットワーク&セキュリティ推進本部
若園 直子
専門的な内容でも、読者にとって親しみやすく、実践につながる形で伝えることを大切にしています。