テレワークを定着させ「あたりまえ」にするために
テレワーク導入に伴う4つの課題とその対策
- 連載記事/コラム
テレワークが広がってきた中で、あらためて自社に導入するべきか、また一時的なテレワーク対応を恒常的なものにするかを検討している企業が数多くあります。
一口にテレワークの導入と言っても、パンデミックによる出社制限が起きた前後では、対策すべきポイントや考慮する内容が大きく変わってきています。
今回のコラムでは、これからのテレワーク導入を考えるにあたっての課題と対策についてまとめました。働き方が変わってきた今だからこそ、テレワークについて改めて考えてみてはいかがでしょうか。
新人「テレワークを実施している企業は増えていますが、実際どのぐらいの企業がスムーズに導入できているんでしょうか。」
先輩「テレワーク自体は以前から導入していた企業もあるけど、パンデミックによる非常事態宣言を受けて急ぎ導入したところも多いし、そういうところはスムーズとは言えないかもな。」
新人「テレワークをやめて以前と同じ勤務形態に戻している企業の話も聞きますね。本格的なテレワークの導入ってやっぱりハードルが高いんでしょうか?」
先輩「働き方を変えるわけだから企業が本腰を入れないと難しいかもしれないな。まずは、テレワーク導入で論点になる課題の確認から始めようか。」
テレワーク導入に伴う4つの課題
先輩「まずはテレワーク導入に際して確認しておくべき4つの課題だ。」
働き方改革や、パンデミックによる在宅ワークの推奨をきっかけにテレワークを導入する企業は多くなったが、テレワーク導入に伴う課題を見過ごしたままにすると、結果として大きな損失をもたらす事態になりかねない。
テレワーク導入に伴う課題は、大まかに以下の4つに分類できる。
1:業務内容の課題
業務内容の課題は、業務の中でも「テレワークにできない業務」や「テレワークに不向きな業務」が存在するという事だ。これらの業務は、導入そのものができなかったり、従業員間に不公平感が生まれる原因になったりもする。
実際の現場にいないと仕事にならない業務や職種としては、接客や製造など現場での業務を求められる仕事がある。これはテレワーク化することが基本的に難しい。
また、自社の多くの職種がテレワーク化できても、一部がテレワークにできないなど、所属する部署によって不公平な状況が発生してしまうこともある。
2:環境整備の課題
オフィス外での業務が生じるということは、これまで社内だけで作業していた従業員に、モバイル端末の貸与や業務で使用するためのネットワーク環境、紙による書類で回していた社内フローのペーパーレス化、データをやり取りするためのファイル共有の仕組み作りなどのインフラ整備も課題になる。
当然ながら、テレワーク業務を円滑に行うためのインフラ整備にはコストがかかる。
特に、機密情報を扱うような業務では、リモート環境から社内のデータへのアクセスをどういう仕組みで安全に行えるようにするのかは、重要な検討課題になるだろう。
クラウド型のサービスを利用している場合、これまで社内ネットワークからだけのアクセスでセキュリティを担保していたのであれば、テレワークに移行した際には社外からもクラウドサービスに安心して接続できる環境にする必要がでてくる。
また、実際に業務を進めるためのコミュニケーション環境やマネジメント面における勤怠管理といった課題も環境整備として関わってくる。
こうした部分は、テレワークをあたりまえの働き方とするためには、企業がしっかりと考えないといけない部分になるな。
3:セキュリティ対策の課題
テレワークの実施や導入で、上位に挙がってくるのがセキュリティ面での課題だ。これまで一部業務だけで持ち出されていたノート PC が、テレワークでは常にオフィス外に持ち出されることになり、企業ネットワーク外でエンドポイント化していくことになる。
それに対応するために、企業やIT部門では、モバイル端末の管理、情報漏洩のリスク、端末の紛失・盗難リスク、社員へのセキュリティポリシー教育、BYOD(Bring Your Own Device: 私物端末の業務利用)への対応など、企業におけるセキュリティレベルを維持・強化するための、さまざまな課題をクリアしていく必要がある。
とりわけ業務で使用する端末の管理については、企業側が頭を悩ますさまざまな課題を抱えている。
- ウイルスやサイバー脅威への対策
- 端末の紛失や盗難時の対策
- 持ち出される端末での機密情報の取り扱い
- システムやアプリケーションのアップデートやパッチ対応
- 事前に許可されていない端末によるクラウドサービス利用
- 業務に関係ないWebサイトの閲覧など業務外での端末使用
これらに起因して起きる情報漏洩やデータ紛失を懸念して、全面的なテレワーク導入に踏み切れない、という企業は意外と多いと思う。
4:マネジメントの課題
最後は、マネジメント面の課題、具体的には、業務管理・評価・労務管理における課題だ。
テレワークにおいては、部下に業務の指示出しや情報共有を適切にできるか、部下が悩んでいることをキャッチできるのか、といったことがこれまでよりも困難になると考えられる。
同じ場所で仕事をしていないため、業務過程での勤務態度や仕事に対する取り組みなどが見えにくくなり、成果で評価する場合も、企業として成果での評価に対応できていなかったり、職種によっては成果が個人と紐付きにくく評価しづらい場合もある。
環境整備のところでも触れたが、これまでオフィスでの入退室で勤怠管理をしていた場合は、別途テレワーク用のシステムを導入するなど、正確な業務時間をいかに把握するかも問題になってくる。
評価や勤怠は、給与に結びついてくる項目だけに、テレワークでは残業・休憩時間の定義による就労時間、社員の健康、労働状況をこれまでよりも、正確に把握できる仕組みやシステムを検討する必要があると言えるだろう。
テレワークの導入課題に対する対策とは
新人「なるほど、一部ならともかく、全社的にテレワークを導入しようとすると、検討すべき課題がたくさんありますね。」
先輩「そうだな。ただ、本当の意味でテレワークを導入して、働き方を改革していく上では、これらの課題を一つずつ対策して解決していかなくてはならないわけだ。」
それぞれの課題に対してどのような対策があるのかを解説していこうか。
1:テレワーク可能業務の棚卸しをする
テレワーク導入が難しいように思われる部署や業務も、あらためて業務内容を洗い出すことで、テレワークへの移行が可能になる場合もある。
なぜ、会社や現場への出勤が必要なのか、テレワークを妨げる根本の原因を確認することで、原因を取り除くのに必要なツールや施策をリストアップすることができる。
どうしてもテレワーク化が難しい業務が発生しているとしたら、担当する従業員のシフトを見直すなど、運用面を工夫するのも現実的な対策の一つだと言える。
2:テレワーク環境の整備
まずは、自社にテレワークを導入する上で必要なツールを精査することが重要になる。一般的な企業においては、以下のようなツールが必要になる。
- モバイル端末(業務用に従業員へ貸与している PC を持ち出し可能なモバイル PC へと変更)
- 従業員のネット環境(オフィス外でのインターネット通信の環境を確保)
- コミュニケーションツール(Web やテレビ会議システム、チャットツール、ファイル共有など、対面・非対面での従業員間のコミュニケーション手段の確保)
- 大容量データの共有ツール(社内サーバを経由していたファイル共有方法の確保)
- 社外との連絡手段(オフィスの電話に代わる、社用スマートフォンの貸与など)
- 勤怠管理システム(オフィス外から利用可能なもの)
- 社内限定のローカルアプリケーションやシステムへのオフィス外からのアクセス(VPN やクラウド化などの検討)
これ以外にも、自社の環境や業務ごとに、テレワークを進めるにあたって必要となる環境を洗い出してリスト化し、対応ができているか、台数やアカウントの追加で可能なもの、新たに対策が必要なものという風に、対応策を検討していく。
それぞれの施策で発生するコストも合わせて算出することで、テレワーク実施にかかる費用と期間、テレワークの効果も考えて導入を進めることが重要となる。
また、テレワークを安全な環境で運用するためには、セキュリティ対策のツールやシステムの見直しも必要となる、これについてはもう少し詳しく説明していこう。
3:ツール、システム、規定、教育によるセキュリティ対策
テレワークの導入において、セキュリティ対策は大きく3つに分けられる。
- ツールやシステムによる対策
- 規定による対策
- 教育による対策
ツールやシステムによる対策は、ウイルス対策ソフトやデバイス監視ツールといったサイバー脅威に対応するものと、仮想デスクトップ、ID統合管理、2要素認証によるアクセス管理などの従業員の業務環境やネットワークインフラへの対策になる。
テレワークによって、パソコンやモバイル端末が社外に持ち出されることによって危惧されるのは、何よりも情報流出のリスクになる。
最新のウイルス対策ソフトだけでは不十分で、より高度なクラウドやエージェントを利用したセキュリティシステムの導入を検討する必要がでてくる。
しかし、持ち出した端末内部にデータがある場合は、常に情報流出のリスクを内包してしまう。それを回避するために、デスクトップ仮想化や DaaS によるデジタルワークスペースを検討するのも一つの方法と言えるだろう。そうすることで、持ち出された PC やモバイルデバイスの紛失といった物理的なリスクを排除することができる。
また、最新のゼロトラストセキュリティの考え方を取り入れて、業務で使用するインフラを見直して、あらゆるタイミングでアクセスを管理するというのも、これからのセキュリティ対策としては選択肢の1つになる。
規定による対策は、会社としてルールをきちんと整備するということになる。情報セキュリティポリシーがテレワークを見越した内容になっているか。特にテレワークをベースとした働き方に変化した中で、ネットワークやアクセス権が従来のままでは不都合な場合も起きるため、業務内容と合わせてしっかりと見直す必要がある。
また、ルールを決めてもそれを従業員へ周知していなければ意味がない。従業員に規定を正しく理解して守ってもらうために、従業員へのセキュリティ教育はこれまでよりも重要な要素となってくるだろうね。
4:テレワークを前提としたマネジメント
最後はテレワークを前提としたマネジメントだ。これは、業務管理、評価制度の見直し、労務管理の徹底などが挙げられる。
業務管理については、社員の業務状況を把握できる方法を確立する必要がある。日報の作成や定期的な対面によるコミュニケーションも有効だが、テレワークに対応した業務マネジメントツールを活用することも有力な選択肢だ。
従業員への評価は、テレワークで見えづらくなった業務過程と成果の両方をバランスよく考慮することが企業には求められることになってくる。 成果に至るまでの過程をどう報告させるか、それをどう評価するか、うまくコミュニケーションを取りながら双方納得いく評価をしていく必要があるだろうね。
そして、労務管理も、場合によってはツールを使って報告させるだけではなく、端末のログを監視するようなツールを導入して、より厳密に従業員の状況を把握することも必要になってくるかもしれない。 その前提として、テレワーク前よりも労働時間に関するルールを周知徹底することも必要になってくるね。
テレワーク導入の課題解決で働き方も改革できる
新人「テレワークを導入する際の課題と対策を見てみると、テレワークだけに限らず、これからの企業での働き方を見直す機会にもなりそうですね。」
先輩「そのとおり。テレワーク導入はあくまでも働き方の選択肢を増やすだけで、すべての業務をテレワークにすることは現実的ではないんだ。もちろんテレワークが可能になれば従業員の働き方が大きく変わるし、優秀な人材を確保することにもつながってくる。これからテレワークを導入する企業や、一時的という形でテレワークを導入した企業も、テレワークを運用する際の課題を洗いなおして、それぞれの対策をしっかり検討することは重要だと思う。」
新人「課題と対策を見ると、IT 部門が活躍しないといけないものが多そうですね。」
先輩「そうだな、ツールの選定から実際の導入まで、常に最新のソリューションとその有効性は知っておかないと、これからの IT 部門は務まらないだろうな。」
新人「テレワークになっても、楽はできないなぁ・・・」
テレワークには、多くのメリットがある一方で、企業にとっては制度の見直しの負担、ツール導入のコスト増など、今までなかった負荷も発生することになります。
テレワーク導入を成功させるためにも、テレワークにおける課題と対策について事前に検討を重ねて、導入を進める必要があります。
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