今さら聞けない VDIの話
VDIの運用は大変!?よくある課題や設計のポイントを解説
- 連載記事/コラム
2020年に入ってから広がったコロナウイルス問題(COVID-19)により、多くの企業がテレワーク環境の構築を急速に進めました。
あるいは、テレワークの検討に迫られて、VDI をはじめとした仮想デスクトップ環境について具体的に検討している企業も多いのではないでしょうか。
本記事では、VDI を中心に仮想デスクトップ環境の運用ついて、どのようなことを管理するのか、導入時の設計のポイントや運用時によくある課題について解説します。
新人「ウチの会社でテレワークを本格導入するとなったら運用はどうなるのかって、色々な部署から聞かれることが増えているのですが、いまいちきちんと説明しきれなくって・・・。やっぱりVDIで構築することになるんですか?」
先輩「うーん、仮想デスクトップ環境は導入しておしまいではなく運用こそが大事だからな。どのように運用するかという観点から VDI にするか、他のサービスを使うかを決めることになるだろうな。」
新人「そうですか。IT側の運用もそうなんですが、各部門の現場での運用イメージを事前に洗い出しておきたいって言われることが多いんですよね。」
先輩「それなら、運用という面からVDI について色々話していこうか」
VDIの運用管理で行う3つのこと
先輩「まずは、VDI について簡単におさらいしてみようか」
VDI とは、Virtual Desktop Infrastructure の略でオンプレミスやクラウド上のサーバーに仮想化したデスクトップ環境を構築して、クライアント端末からアクセス・計算処理をする仕組みだ。
VDI は OS やアプリケーションを1箇所にまとめて集中管理できるので、OS のバージョンアップやアプリケーションのセキュリティ対策などの管理・運用がしやすいというメリットがある。
一方で、VDI の導入はサーバーや PC といったハードウェア資産や従業員の働き方、企業データの取り扱いなど、企業や組織全体に大きな影響を与えるから、導入よりも運用こそが大事になってくるんだ。システム担当も導入しておわりではなく、経営層や現場と、導入後の運用についてよくよく確認する必要がある。
VDI で IT 担当として確認が必要となる、運用管理は、主に以下の3つだ。
- アカウントの管理
- 仮想環境のソフトウェア追加・更新
- サーバーの負荷分散・調整
それでは、それぞれ解説していこう。
アカウントの管理
1つ目は、アカウントの管理だ。
VDI では、従業員のクライアント端末から接続が安定的にできる必要がある。従業員が仕事をする上で必要なソフトウェアやファイルは VDI 側にあるわけだから、接続できなくなると当然、業務に支障が出る。
ネットワークを経由しての接続が前提だから、無関係なアクセスができないように安全性も管理しなければいけない。VDI で仮想化されているだけで、デスクトップ自体は従業員それぞれに提供している PC と何ら変わらないわけだから、誰がVDIにアクセスできるのか、その仮想デスクトップからアクセスできる情報は何かなど、接続権限を、既存のユーザー権限としっかりと同期させて管理するのは、セキュリティの面からも重要事項だと言えるだろうね。
仮想環境のソフトウェア追加・更新
2つ目は、仮想環境のソフトウェア更新や追加に関してだ。
VDI を導入した後、VDI 自体のソフトウェア、VDI 上で動く OS、アプリケーションは、環境の変化に応じて追加・更新していく必要がある。
VDI であれば従業員が使用する OS やソフトウェアの追加や更新は、VDI 上でまとめて行えるので、IT担当が個々のデバイスをサポートする必要がなくなるから、作業効率は良くなるし、セキュリティ対応の遅れや漏れも起きにくい。
一方で、VDI 環境そのものも、ハードウェアやソフトウェアの更新が必要になる。サーバーのスペックアップや VDI 環境を構築するソフトウェアのアップデートは、VDI を使用している従業員すべてが影響を受けるため、全体の業務進捗に影響を与えることになる。
VDI の運用時には、仮想デスクトップ上の OS とソフトウェアの追加や更新と、仮想環境自体のアップデートや更新をセットで考えていくのも非常に重要な業務だと言えるだろうね。
サーバーの負荷分散・調整
3つめは、サーバーの負荷分散・調整だ。
VDI では、導入時の想定よりもアクセスが突発的に集中したり、多数の従業員が同時に重い処理をかけるとサーバーに大きな負荷がかかり、他の VDI 利用者の処理にも影響が出てしまう。
DaaS などを利用して、サーバー環境ごとクラウド化してしまえば、アクセスの集中や処理能力を柔軟に拡張することもできるけど、オンプレミスの VDI で運用するのであれば、サーバースペックやロードバランサーの調整、ソフトウェアによる負荷分散が必要になる。仮想デスクトップを利用する従業員の作業内容や業務についてよく確認したうえで、スムーズな業務遂行に支障が出ないようにする必要があるだろうね。
VDI の運用でよくある課題
新人「VDI の運用といっても、導入後よりも導入前の確認の方が大事そうですね。せっかく導入したのに重たくて処理が遅かったり、スペック不足で複数のアプリを立ち上げられないとなると、大変なことになりますもんね。」
先輩「その通り、VDI は仮想化されて便利な半面、影響範囲が大きくなる可能性がある。それだけに事前の確認がより重要になるな。」
新人「事前確認が大事というのは分かりましたが、運用開始後によく出てくる課題って何がありますか?」
先輩「それでは運用が始まってから出てくる課題について話していこうか」
実際に VDI の運用が始まってからのよくある課題としては、以下の2つがある。
一つずつ解説をしていこう。
- メンテナンスコストの増加
- 柔軟な対応が難しい(可用性の低さ)
メンテナンスコストの増加
VDI 運用で良くある課題の1つ目としては、メンテナンスコストの増加が挙げられる。
オンプレミスで構築する VDI は、インフラ側とデスクトップ側両方のハードウェアとソフトウェア、ネットワークまで、すべてを情報システム担当者が把握することになる。管理する項目が広範囲に渡ることで、その分、メンテナンスにかかる手間も増えることになる。
個別の PC 端末についてのサポートは減少できても、VDI 導入から時間が経てば、サーバーのハードウェアは古くなっていくし、逆に仮想デスクトップに求められるスペックは向上していく、従業員数の増加によるデスクトップ利用社数の増加や、テレワーク導入によるリモートアクセスへの対応など、ビジネス環境の変化に合わせて、DVI そのものへの対応も迫られるようになる。
オンプレミス環境であれば、サーバーとネットワーク機器、そして搭載されたソフトウェアのサポート体制もバラバラな事が多いから、トラブル発生時の問題の切り分けと対応をするにも、把握すべき範囲が広い分、解決までの手間と時間が大きくなる。システム担当者の対応範囲が広い事で、日々のメンテンナンス対応、外部要因の変化への適応、トラブル時の解決にも、スムーズに対応するにはそれなりのコストがかかることは、経営層にとっては大きな課題と言えるだろうね。
柔軟な対応が難しい
VDI 運用で良くある課題の2つ目としては、いざという時に柔軟に対応できない、可用性の低さが挙げられる。
オンプレミスで構築する VDI は、物理的なサーバーを調達して導入することになる、サーバーハードウェアのライフサイクルは一般的な PC 端末よりも長く、一般的には5年前後と言われている。
メンテナンスの時にも言ったが、従業員が使用するデスクトップ環境は、年々要求スペックが高くなるし、従業員の働き方に対する柔軟性も同様だ。VDI 導入時に将来の組織の変化を想定した可用性を持たせた設計ができていないと、スペック不足でやりたいことが実現できなかったり、想定外の再投資が必要な状況に陥ってしまう。
ここでも、VDI を導入するときの事前の想定として、どのように VDI を利用して業務を行うかを、経営層、IT部門、実際の運用者の3者でしっかりと共有できていないと、それが運用後の課題になってしまうということになるんだ。
VDI の運用を設計する際のポイント
新人「VDI 導入後の運用をスムーズにするにも、事前の確認や設計が重要なんですね。」
先輩「運用後の課題を引き起こさないために、なによりも必要なのが事前の運用設計と言えるな。つぎは、運用設計で押さえておくべきポイントを解説していこう」
VDI の導入は、導入費用の面からも、ほとんどは長期間に渡っての利用が前提になる。
だからこそ、導入時点で運用を見据えた設計をしっかりしておくことが大事だ。
運用設計のポイントは以下の2つになる、それぞれを詳しく見ていこう。
- 運用にあわせたサイジング
- 運用状況の数値化と把握
運用にあわせてたサイジング
運用設計のポイントの1つ目は、運用にあわせたサイジングをするということだ。
オンプレミス環境での VDI では、柔軟なデスクトップ環境が構築できる半面、あらたに利用者数を増加するには、サーバー側にそれだけの余裕が必要になる。逆に、物理サーバーを調達する以上、利用者が少ないからといってインフラのコストが抑えられるわけではないんだ。
だから、利用実態よりも大きなサイジングをしてしまうと、実際は利用しない部分までを含めた無駄なコストが発生してしまう。
逆に利用実態よりも小さくサイジングをしてしまうと、運用を開始してから仮想デスクトップの動きが遅くなったり、接続数の増加に対応できないなど実際の業務に支障が出てしまう可能性がある。
適切なサイジングをするためには、利用者となる従業員の現在の作業実態と、将来に利用者がどのように変わっていくのかを把握して、運用状況の予測を立てる必要がある。
従業員の変化については、人数だけではなく、例えば、アクセスが集中しやすい朝のピークはどの程度と読むのか、動画のレンダリングなど重たい計算処理が今後どの程度発生するのか、といった経営や実務に関わる部分での具体的な利用状況の想定が必要になる。
このことからも、VDI の運用設計において適切なサイジングをすることは、IT 部門だけではなく、経営層や現場との連携が重要なポイントだと言えるだろうね。
運用状況の数値化と把握
運用設計のポイントの2つ目は、運用状況を数値化して把握することだ。
VDI で障害が発生した場合、想定される原因の範囲は、サーバー側とOS、ソフトウェア側、そしてクライアント端末側、その接続ネットワークまで幅広い可能性を考えなければならない。
発生した事象に対して素早く正確な対応をするためにも、サーバーや OS のパフォーマンス状況の把握だけではなく、クライアント側やネットワークについても数値で運用状況を把握しておく必要があるんだ。
VDI は、メンテナンスがしやすいメリットがある一方で、トラブル発生時の悪い影響が全体に広がりやすい。
トラブルを未然に防いだり、発生した際にスムーズな原因究明と対応を行うためにも、導入時点から状況を数値化して把握できるようにしておくことが、運用設計のポイントだと言えるんだ。
VDI の運用コスト
新人「VDI というと、導入時のコストだけに目が行きがちですけど、運用で発生するコストもけっこうかかりそうですね。」
先輩「運用がなによりも重要なシステムだからこそ、VDI を導入した際のコスト試算は慎重にしておかないとな。想定よりもコストがかかるというのも、よく聞くトラブルの一つだ。」
VDI の導入に掛かるコストの内訳は大まかに以下のようになる。
- VDI 環境のためのサーバー、ストレージ、ネットワーク機器
- VDI 環境を構築するソフトウェア
- VDI 環境動かすための OS とアプリケーションのライセンス費
- VDI 環境にアクセスするためのクライアント端末
運用にかかるコストには、上記のサーバーとネットワークのハードやソフトウェアのメンテナンス、VDI 環境へのアクセスや接続に関する従業員へのサポート、などが主なコストとして発生するな。
まとめ
新人「VDI を運用するといっても、会社でPCがどのように使われているのかを理解してないとだめという事ですね」
先輩「新型コロナウィルス(COVID-19)の影響もあり、VDI はパンデミックも含めた BCP 対策の一環として注目されるようになってきている。これまでの社内で特定の人が使用するものから、従業員の誰もが利用するものへと変化してきているんだ。
現在は、オンプレミスでの VDI 以外にも、クラウドを使用した DaaS や、従業員が使用するアプリケーションを使えるようにしたワークスペース環境をクラウドで提供するデジタルワークスペースというソリューションもある。 導入前に、これらの運用時の課題やコスト面について、社内で共有したうえで、どのような仮想デスクトップサービスを従業員に提供するのかを、IT 部門でも見極めるのが重要だな。
VDI の運用では、IT 部門はシステムだけじゃなく従業員の働き方まで、幅広い範囲を把握していないと適切な設計ができない。日本では、IT 部門はまだまだ縁の下の力持ちという印象が強いが、海外ではIT部門こそが会社の生産性を向上させるための鍵として、その企業を主導しているところも少なくない。
これからは、IT 部門も会社全体を見渡す広い視野が求められるようになるだろうな。」
本記事では、VDI の運用について、運用内容と運用後に課題になりやすいことや運用設計のポイントを解説しました。VDI の導入を検討するにあたって、どういった設計をすべきかは、IT 部門だけではなく、経営層から現場レベルまでが運用における課題を共有することが必要です。
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