サービス導入の壁! 経営層にクラウド導入を
認めさせるにはどうすればいいのか?
2017.06.07
オンプレミスやデータセンターで管理・運用している情報システムをクラウドへ移行する場合、情報システム部員には、技術面以外でも行わなければならないことがあります。それは、社内の決裁者にクラウドの導入を承認してもらうことです。
そこでは、エンジニアとしての技術力だけではなく、決裁者に認めてもらうためのプレゼンテーション力も必要になりますが、では、上長や経営層に何をどのように訴えていけばよいのでしょうか。
小さな決裁から通してみよう
オンプレミスのIaaSへの移行や、全社の業務の一斉変更を伴うようなクラウドの導入は、情報システム部門にとって一時的に負荷が大きくなるのはもちろんですが、全社的にもシステムの運用コストやスタッフの管理コストに大きな変化を生みます。
しかし、急激で大きな変化というのは、往々にしてあまり歓迎されないものです。クラウドの導入についてもそれは同じこと。大々的に、派手に行えばよいというものでもありません。まずは情シスとして見つけた、部門内の小さな課題を解決するための、小さなクラウド導入から図ってみるというのも1つの手です。
小さな「クラウド導入」
小さなクラウド導入とは、たとえば次のようなものです。
1)インフラをクラウド化するのではなく、使いたいサービス単位でクラウド化する
2)全社スタッフに向けて一気に導入するのではなく、グループ単位・課単位といった小さな単位で徐々にクラウド化を進めていく
3)社内のルール変更の影響が小さい範囲でクラウド化を行う
4)不都合があったときに止めやすい領域でクラウド化を行う
1)と2)は、クラウドの規模を小さくすることで、より下位レベルの決裁権限で導入を可能にしようという作戦です。全社規模の予算ではなく、部門予算で動くことになるので小回りがききます。
また3)は人的コスト・負担を大きくしないための工夫であり、あるいは4)であれば問題が発生した場合の影響を小規模に抑えられるので、決裁者に大きな負担をかけることなくチャレンジを促すことができます。
このようなクラウド導入の例としては、部門単位でファイル共有やグループウェアのようなSaaSを活用したり、あるいは社内システムのテスト用にWebサーバーを立てる場合に、それを簡単に構築するためにPaaSを利用するといったものが挙げられます。
クラウドへの大規模なシステム移行を計画するのであれば、このように小さなクラウド導入を図ってみるのは、社内の決裁手続きを考慮した現実的な作戦といえます。より少額の決裁で、かつ、できるだけ情シススタッフに近い決裁者の決裁ですむような小さな「クラウド導入」から入るのです。
自分に近いポジションの決裁者を巻き込んでいく
このような小さな決裁から始めることの利点としては、直属の上司など、身近な決裁者を味方に引き入れやすいことがあります。もっとも親しい決裁者とは、普段から顔を合わせており話すことも多いのでクラウドを導入する熱意も伝えやすく、理解もしてもらいやすいはずです。
そしてその決裁者がクラウドの利便性を理解してくれれば、今後、より大きな導入をする際にはあなたの強力な味方になってくれます。そこで「小さなクラウド」導入の際のポイントをご紹介しましょう。
インパクトを小さくする
少額決裁でクラウド導入が試せれば、仮にそれが不調に終わっても、経営に対して大きなインパクトを与える可能性は低いはずですし、資産管理の面からもクラウドは有利です。
というのも、導入に失敗したときの投資金額が少額だとしても、サーバーやアプリケーションを購入するタイプの場合は、余計な資産が増えてしまうので管理する側からはあまり歓迎されないものだからです。
その点クラウドは、利用期間も必要な間だけと短く設定できますし、解約後に不要な資産が発生することもありません。それでも「クラウドにチャレンジした」という実績と経験は残るので、部門としても不満はないでしょう。
仮に自社のメールサービスをクラウド化したいと考えているのであれば、一度に全社への導入をはかるのではなく、まずは部門のスタッフ分の人数で契約し、内部だけで利用してみるフェーズを検討してはいかがでしょうか。インパクトが小さければ、それだけチャレンジできる可能性も回数も高まります。
小さな成功体験を身近な決裁者にも感じてもらう
身近な決裁者に小さな成功体験をしてもらうことは、将来の大規模なクラウド導入を見すえると、戦略としては重要なフェーズです。
もし、結果的にクラウドのことをわからなかったとしても、「クラウドサービスを試してみたら、費用も手続きも簡単だし、余計な資産化もなくチャレンジしやすい。しかも簡単な割には効果が出ている」というクラウドの特徴を体験してもらえれば、その後の、より大きなクラウド化を進めようというあなたの提案にも、首を縦に振ってもらいやすくなるはずです。
迅速な導入スピード、管理や契約の柔軟性、容易な規模の調整といったクラウドの優位点と、導入に成功したらどのような環境になるのかを身近な決裁者に知ってもらう工夫をしてみましょう。
上長にも味方をつくる
身近な決裁者を味方にすれば、大きなシステムにも手を出しやすくなります。
導入規模が大きくなればなるほど、より上位の決裁者の許可が必要となりますが、日本では一般的に、決裁者が上位になった分、現場で利用する技術についての理解は薄くなっていくものです。
もし、いきなり大規模なクラウド導入を計画してしまうと、直属の上司だけでなく、現場のことをそこまで知らない上長まで、一気に説得する必要があります。技術を微細に渡って説明しながら、それによって経営上のどのような課題まで解決が可能なのか説明するのは骨が折れますし、そもそもそのようなことが苦手なエンジニアは、決して少なくないでしょう。
しかし小さなクラウド導入を成功させ、まず身近な決裁者を味方にしておけば、その決裁者に、さらに上の上長に対する説得をお願いできる可能性もあります。その繰り返しで、味方になる上長を少しずつ増やし、いつか目指す大規模なクラウド導入の際に、経営者層にリーチするための下地をつくっておくのです。
技術と経営に理解を示せるエンジニアに
段階的に、味方となる決裁者を増やしていくことができれば、あなた自身にも自然に少しずつ、経営的な要素を背景に話を進めていくことの重要さがわかってくるはずです。つまり長い目で見れば、視野の広いエンジニアになっていくことができるのです。そうすれば、社内でのチャンスもその分広がっていくことでしょう。
小さなクラウドの導入によって成功体験を通じ、いずれは大規模なシステムの変革と自分自身のビジネスキャリアの上積みを目指してみてはいかがでしょうか。
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