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今後はマルチクラウドへ VMware vSAN による HCI が強力な支持を得た意外な理由とは
- マルチクラウド
VMware vSAN によるハイパーコンバージドインフラ(HCI)は、2016年初めからの 2 年で、国内導入ユーザー数が約 6 倍に達した。この急速な成長の過程で見られた意外な事実とは。そして VMware vSAN による HCI の明日は、どちらを向いているのか。
ソリューションビジネス本部 ハイパーコンバージドインフラ シニアプロダクトスペシャリスト
望月一平氏
「ハイパーコンバージドインフラ(HCI)など、日本では普及していないし、これからも普及しない」。そういう人もいる。ここは、企業の IT インフラにおいて、PC やサーバにおけるインテルと比較できる存在であるヴイエムウェアに、事実を確認するのが適切だろう。
実際に聞いてみると、売り上げは急速な成長を遂げているという。また、地方で非常に人気が高いなど、意外ともいえる事実がさまざまにあることが分かった。
「おかげさまで、国内ビジネスは順調に伸びており、2016年の年初からの 2 年間で、国内の導入ユーザー数は約 6 倍になっています」と、ヴイエムウェア ソリューションビジネス本部 ハイパーコンバージドインフラ シニアプロダクト スペシャリストの望月一平氏は話す。
これには少々注釈が必要だ。望月氏が言及しているのは、VMware vSAN(以下、vSAN)としての伸び。vSAN はヴイエムウェアのストレージソフトウェア(Software Defined Storage:SDS)製品。「SDS 機能と HCI の関連性が明確ではない」という読者もいるだろう。
確かに vSAN は、仮想化プラットフォームである VMware vSphere(以下、vSphere)に組み込まれた 1 機能であり、クラスタ機能として有効化するだけで設定可能なストレージソフトウェアだ。ハードウェアを含むものではない。
だが、vSAN はヴイエムウェアが展開している「vSAN Ready Node」プログラムに基づいてサーバメーカー各社が提供するハードウェアと組み合わせた形、すなわち HCI として販売されている。昨今では、「HCI が搭載している SDS 機能」を軸とした市場調査も行われており、今後の HCI 検討には、SDS 機能に注目すべきだろう。
一般的に HCI 製品で最もよく聞かれる不満は、構成が限られること。しかし、SDS 機能として、vSAN を採用した HCI の場合、vSphere で認定を受けているサーバの幅広い構成で利用できるため、ユーザー企業は自社の要件を無理に「HCI の都合」に合わせる必要はない。
vSAN による HCI は、課題解決の現実解
「当初は確かに、『ストレージ専用装置ベンダーの数が多い日本で、vSAN は受け入れられるのか?』と疑問を持つ人もいました。しかし、HCI のメリットに関する理解が広がるにつれて、強い支持を得るようになってきました」(望月氏)
では、なぜ HCI の採用が広がってきたのか。第 1 の理由として望月氏は、ストレージ運用に関する従来の課題を挙げる。
ストレージ専用装置はどうしても、運用が難しく、複雑になりがちだ。これは必ずしもストレージ専用装置が悪いということではない。サーバ環境が仮想化中心になったことで、ストレージに求める姿が変わってきたのだ。
企業における IT では、アプリケーションの機動性と柔軟性、そしてこれに伴う IT インフラ運用のシンプル化が重要課題になってきた。現在の企業 IT が、ほぼ例外なく(サーバあるいはデスクトップの)仮想化をベースとするようになってきたのは、IT インフラの運用をアプリケーションに同期させるためだ。
一方、ストレージ専用装置は、LUN やボリュームといった、物理サーバを接続するためのアーキテクチャが踏襲された考え方に基づいている。ストレージのために、ストレージの都合に合わせた複雑な構成と運用が必要となり、しかもこれがアプリケーションの運用と同期することはない。従って、残念ながら、ストレージ運用が足手まといになってしまっている。
こうしたユーザー企業が現実に抱えている課題を、現実的な意味で解決できる存在として、HCI が注目されるようになってきたと、望月氏は考えている。
しかも、vSAN に基づく HCI の場合、vSphere ユーザーにとってのメリットを追求した形で提供されている。その一例として、運用ツールである vCenter は、vSAN の管理ツールでもある。つまり運用担当者にとっては、vSphere ベースの仮想化環境で慣れ親しんだ運用ノウハウを、ストレージまで仮想化された HCI に生かすことができる。
vSAN による HCI が特に地方で受けている理由
パートナー SE 本部 パートナー SE 部 システムズ エンジニア
兒玉伊佐央氏
vSAN は北海道や九州をはじめとする地方で、特に引き合いが強いのだという。これは、ある意味で意外だ。IT の世界では、新しいトレンドやそれを体現した製品は、日本の場合、まず東京や大阪などで採用が広がり、徐々に地方へと波及することが多いからだ。
ヴイエムウェア パートナー SE 本部 パートナー SE 部 システムズエンジニアの兒玉伊佐央氏は、その背景を次のように表現する。
「地方では、ユーザー企業の運用担当者も、システムインテグレーターのシステムエンジニアも、1 人 1 人の責任範囲が広い企業が多いのが特徴です。このため、自社が IT で目指しているゴールに直結するような考え方をしていただけます」
こうした企業では、導入設計や運用に余計な工数やコストは掛けられない。例えばサーバ仮想化やデスクトップ仮想化の環境をオールフラッシュで動かしたい。これを、コスト効率よく、面倒な運用なしに行えるようにしたいと考えると、自然に HCI に行き着いたと話す人が多いという。
「特に、『止めることのできない重要な業務システムを、安定的かつ高速に、しかも運用に手間を掛けずに稼働したい』という理由で、選んでいただける場合が多いと感じています」(兒玉氏)
ゴールに直結する思考をする人に、HCI は役立つ
ICT 事業本部 MD 本部 ICT ソリューション販売推進統括部 仮想化クラウド販売推進室
大塚正之(VMware vExpert)
地方であっても、東京や大阪であっても、上述の「ゴールに直結するような思考ができる人たちに HCI は広がっています。そして HCI は、運用改善の後押しをすることができます」と、vSphere および vSAN のディストリビューターである SB C&S の ICT 事業本部 MD 本部 プラットフォーム販売推進統括部 仮想化クラウド販売推進室、大塚正之(VMware vExpert)は言う。
大塚は好例として、国際基督教大学(以下、ICU)を挙げる。
ICU では、vSphere の仮想環境を二重化構成で運用していた。ファイバチャネルで接続したストレージ専用装置を 2 台設置。ストレージ装置のレプリケーション機能を用いてストレージ装置間でデータ複製を行っていた。だが、次第にバックアップ環境の保守費用や運用負荷に疑問を抱くようになる。
そこで ICU では、SB C&S が提供するアセスメントサービス「仮想化健康診断」を実施。実際の稼働状況に関するデータに基づき、過剰であると診断されたサーバの台数を減らした。同時にファイバーチャネルストレージから vSAN へ移行し、ストレージ間複製を仮想マシンイメージのバックアップに変えた。これにより、ストレージの運用負荷とコストを同時に削減した。
ちなみに SB C&S の「仮想化健康診断」とは、ヴイエムウェアの運用監視ツール「vRealize Operations Manager」を搭載した PC を顧客のネットワークに接続、1 カ月といった期間にわたって vSphere 環境の稼働データを収集。稼働環境の健全性や効率を確認できるというものだ。
ICU の事例は、単に支出が減ったということではない。IT インフラ支出を「腹落ちする」、つまり納得できるものにできたということだ。同大学では、サーバとストレージへの支出の無駄を抑える一方で、イーサネットスイッチやバックアップ、セキュリティに投資した。稼働状況の可視化とこれに基づく最適化を通じた運用改善が、この事例のポイントだと、大塚は説明する。
「仮想化では、ワークロードが刻々と変化します。IT はビジネスに追随するべきですから、これが当たり前ですし、正しい姿です。従って、日常の運用を柔軟に行いながら、定期的に仮想化環境の健康を診断し、vSAN による HCI の柔軟性を生かして足りない部分のみを追加投資により強化する。こうした取り組みにより、戦略的に IT をビジネスに同期させ続けることができます」(大塚)
今後の注目ポイントは運用高度化とマルチクラウド
3 人は異口同音に、今後の HCI の使いどころとして、「運用の高度化」と「マルチクラウド」の 2 点を指摘する。
まず、運用の高度化では、例えば既に、vSAN の「ストレッチドクラスタ」機能を活用した事例が出てきている。これは、近距離だが離れた 2 カ所のデータセンターで、単一の vSAN クラスタを構成できるという機能。これによる災害対策(以下、DR)では、本番拠点とバックアップ拠点をアクティブ―アクティブ構成とすることで無駄をなくせる。さらにデータは双方へ同時に書き込むため、災害復旧時にも、文字通り最新のデータを使えることになる。言い換えれば、RTO(Recovery Time Objective)はゼロに設定できる。
こうした、従来は想像できなかったようなソリューションが、従来とは比較にならないコスト効率で実現できる。これまで DR を採用できなかった組織、アプリケーションで、ようやく対策が可能になったというケースが出てくる。
このように、vSAN による HCI は、もはや単なるコスト削減の手段ではない。これまでコストや機能の問題からやれなかったことを、実現するための手段として使えるようになってきているのだ。
「2018年以降は、マルチクラウドがもう 1 つの焦点になると思います」(望月氏)
ヴイエムウェアでは、以前より、マルチクラウドを視野に入れたソフトウェア製品を提供しているが、2017年にはクラウドサービス型のソリューションを追加して、マルチクラウドを実現する一連のサービス・製品群である「VMware Cloud」を発表した。
一方で、Amazon Web Services(以下、AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud Platform、IBM Cloudとは、それぞれ異なる提携を発表した。Microsoft Azure と発表した「VMware Horizon Cloud on Microsoft Azure」は、2018年2月に日本で提供開始。一方、AWS と発表した「VMware Cloud on AWS」は、2018年中に日本での提供開始が予定されている。
これらの提携を通じ、ヴイエムウェアはオンプレミス、パブリッククラウドの活用における選択肢を増やし続けている。オンプレミスとパブリッククラウド間の垣根をなくすことで、運用管理やセキュリティ管理などを統一しながら、オンプレミスとパブリッククラウドの双方の利点を活用できる。さまざまな IT インフラ製品・サービスの組み合わせを、ユーザー企業自身が主導権を持ち、自社のビジネスニーズに対して最適な環境を提供できることが重要だ。
マルチクラウドを見据え、vSAN による HCI を採用するメリットは広がっている。
※このページは、@IT の2018年3月に掲載されたコンテンツを再構成したものです。
http://www.atmarkit.co.jp/ait/articles/1803/05/news011.html