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小規模環境でも HCI を実現できる「vSAN」導入 3 つのポイント
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HCI 環境が人気だが、サーバの台数や 10GbE スイッチが必要になるなど、小規模環境には依然ハードルが高い。そこで VMware の HCI「vSAN」の小規模環境への有効性を探る。
ICU の vSAN 導入に見る仮想環境への移行のポイント
2018年5月、「VMware Evolve カンファレンス 2018」において、ソフトバンク コマース&サービス(以下、SB C&S)のICT事業本部 MD本部 ICT ソリューション販売推進統括部 仮想化クラウド販売推進室、大塚正之氏 (VMware vExpert) が、「HCI をすべての人に vSAN 導入事例から見る、HCI 検討のポイント」と題するセッションを行った。
大塚氏は vSAN の導入事例として、国際基督教大学 (ICU) を紹介。ICU では、仮想化基盤が約 40 仮想マシン (VM)、物理サーバが 20~30 台という環境で、仮想環境を使う頻度と重要性が上がるに従い、運用負荷が増大していた。また保守切れとなる物理サーバを仮想環境に移行しようにも、ストレージ拡張のための構成変更が非常に大変だった。
そこで 3 つのポイントで vSAN を提案した。1 つは「ストレージの運用の簡素化」だ。vSAN は「vCenter Server」での運用が可能だ。しかも扱い慣れた x86 サーバで運用できることもメリットである。
2 つ目は、「どこから始めるか」の確認。システム全体の現状を把握するために仮想化健康診断(VOA) を実施した。その結果、仮想環境のリソース使用状況にて CPU 平均使用率は 1%だったことが判明。ピーク時でも 15%程度であり、6CPU の環境を 3CPU にダウンサイジングする提案を行った。なお VOA は導入後に「いつ増強するか」という可視化にも活用できるため、適切なタイミングで無駄のない HCI ノード拡張が実現できる。
そして 3 つ目は、現在の ICU で必要なリソースを必要最小限とし「スモールスタート」を実施した。すると 5 年前に投資したハードウェア予算で運用改善までできることが判明。そこでバックアップを提案したという。「運用改善のために新たに予算を取らなくても投資内容をより濃く効果的にできます。これが VOA の大きなメリットです」と大塚氏は言う。
逆転の発想で、vSAN 移行時に統合バックアップを取る
ICU の事例ではバックアップにも課題が浮上した。ICU ではアレイベースの運用をしていたが、物理サーバのバックアップがうまくできず歯抜けになっていた。vSAN に切り替わるとアレイベースの運用ができなくなるため、バックアップも改善することになった。
この事例において、バックアップの面でサポートしたのは Arcserve Japan だった。同社の谷 恵美子氏は HCI 環境でもバックアップは重要であると言う。vSAN では、データは全てデータストアに格納される。もちろんクラスタが組まれ、スナップショット機能もあるため、直近のデータに戻すことは容易だ。
しかし、データストアでディスクの多重障害が発生したり、ランサムウェア感染や人的ミスでデータを失ったりする可能性はある。しかもそれが 1~2 カ月前となると、バックアップデータから復旧するしかない。多くの人は、VMware の無償のバックアップ/リストア機能 VDP (VMware vSphere Data Protection) を使用するが、このサポート終了が発表されている。そのため別のバックアップ方法を考える必要があると谷氏は指摘した。
そこで Arcserve は、vSAN への移行でバックアップをする方法を提案。利用中の VMware ESXi環境をオンラインでバックアップすると同時に、これから構築する vSAN にリカバリーをかけるという方法だ。これは、バックアップ/リカバリーソフト「Arcserve Unified Data Protection」 (Arcserve UDP) の「仮想スタンバイ」を使うことで実現する。サービスを止めずにデータを吸い上げ、その場でリアルタイムに vSAN 環境にリカバリーすることで、瞬時にサービスを切り替える。しかも P2V と V2V の両方に対応するため、物理サーバを統合する際にも短時間で vSAN 統合が可能だ。
Arcserve ならではの 3 つの特徴
さらに谷氏は、Arcserve ならではの特徴を 3 つ挙げた。1 つは、エージェントレスバックアップでも VM 単位はもちろん、ファイル単位、フォルダ単位でドラッグ&ドロップの簡単な操作で戻せること。2つ目は、新しく立てられた VM を自動的にバックアップすること。新しく追加した vSAN のノードでも、自動検知して漏れなくバックアップする。
3 つ目は重複排除だ。Arcserve はバックアップ対象になるVMはもちろん、物理サーバも含めたバックアップ対象全体で重複排除をかける。ICU の事例では、約 30TB のデータが 1.6TB にまで削減できた。データが小さくなることでバックアップ時間そのものも短くなり、20 分の 1 まで短縮したという。また谷氏は、vSAN 導入の簡素化にもつながるものとして、いわゆる「全部入り」でライセンス使い放題のバックアップアプライアンスも紹介した。
小規模環境でも導入しやすい「2 ノード vSAN」
大塚氏は「HCI は小規模環境では使えないのか」という課題を示した。小規模環境ではサーバ 3台も不要であるし、10 ギガビットイーサネット (GbE) スイッチを使うほどの規模でもない。オーバースペックになってしまう。SB C&S の ICT 事業本部 MD 本部技術統括部第 3 技術部 1 課に所属する稲葉直之氏は、この課題に対して「2 ノード vSAN」の利用を勧める。
vSANは一般的に、vSAN ホスト 2 台、管理ホスト 1 台の 3 台で構築するが、2 ノード vSANは、その名前の通り 2 台の vSAN ホストで構築できる。小規模企業にぴったりな vSAN、HCI の構成である。しかし稲葉氏が紹介した図にはホストサーバが 3 台ある。「これでは割高だ」という大塚氏に対し、稲葉氏は「基本的に HCI なので 3 台のホストは必要ですが、2 ノード vSAN の場合、3 台目は仮想アプライアンスです」と特徴を説明する。つまり物理的なホストサーバは 2 台で済ませることができ、管理用の仮想アプライアンスが動作する環境は既存の vSphere 環境でもいいというわけだ。
また、2 台のサーバを直結することで、通常HCIに必須といわれる 10GbE スイッチが不要になる。大塚氏は「10GbE スイッチがないと、HCI のメリットである拡張性がなくなるのでは」と疑問を呈するが、稲葉氏は、ディスクに空きスロットがあればスケールアップによる容量拡張ができるし、2 ノード vSAN を使い続けて 3 ノードが必要になれば、10GbE スイッチは必要になるもののスケールアウトが可能であるとした。
稲葉氏は 2 ノード vSAN を運用する注意点として、停止時には ESXi の"メンテナンスモードを必ず有効にすること"を挙げた。従来のシャットダウン手順にこれを追加するだけで、後は従来の vSphere 運用と大きく変わらないと説明する。また、大塚氏の「単一障害点はないのか」という質問に対し、vSAN はハードウェアに依存しないように作られているので、基本的に存在しないとした。さらに VM のデータは常に同期されているので、一方にノード障害が発生しても、一般的な vSAN HA の機能でもう一方に移って再稼働できる。仮にvCenterが停まったとしても vSAN に格納されている VM は止まらないとした。
2 ノード vSAN に最適な UPS
稲葉氏は 2 ノード vSAN における注意点として、小規模環境ではオフィスの一角に置かれることもあるため、法定停電や瞬電が起きる可能性があり、UPS (無停電電源装置) も併せて導入を検討すべきとした。オムロンの電子機器統轄事業部 UPS 事業部事業推進部国内営業2課に所属する服部貴明氏は、稲葉氏による「停止時には ESXi のメンテナンスモードを必ず有効にする」について、UPS が停電を検知した際、上に載っている管理ソフトと vCente rが連携して vCenter 経由で VM を停止し、その後 vCenter が止まると説明。メンテナンスモードをオンにする際には VM が載っていないことが条件になるため、管理ソフトを載せるために電源管理用のサーバを別立てで置いているケースが多いとした。
一方で、せっかく 2 ノード vSAN でシンプルな構成になっているのに、別立てで電源管理のサーバを用意するのは避けたい。そこでオムロンは、電源管理用の物理サーバが不要の製品を用意している。それは電源管理用サーバの機能を搭載したネットワークカードだ。これにより、起動もシャットダウンも両方実現し、設定も分かりやすい GUI で簡単にできる。オムロンはヘルスケア商品のイメージが強いが、30 年以上にわたって UPS を提供しており、国内で高いシェアを確保している。
小規模環境が実現できる HCI の形
HCI 環境を実現する vSAN に魅力を感じていても、特に小規模環境ではコストや運用などが問題となり、導入を見送っていた企業も多いだろう。しかし 2 ノード vSAN ならサーバ 2 台で済み、10GbE スイッチも不要。ストレージの管理やバックアップも既存のやり方ででき、電源回りもスッキリできる。導入に際しては、VOA で効果を測れ、移行の際にバックアップを統合できる。サーバやストレージの保守切れが近づく 3 年目に、vSAN による HCI 環境の実現を検討してはいかがだろうか。
※このページはTechTarget Japanの2018年4月に掲載されたコンテンツを転載したものです。
https://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/1807/04/news02.html