クラウド化のメリットや意義を十分に理解しクラウドファーストを標榜しながらも、クラウド移行に二の足を踏んでいる企業様も少なくありません。SAPなどの基幹システムが対象となるとさらに慎重にならざるを得ないでしょう。
今回は、SB C&Sのビジネスパートナーであり特に製造業に強いコベルコシステム株式会社(以下、コベルコシステム社)の担当者様に、大手製造業の情報子会社でのSAPのAzure移行プロジェクトの事例を中心に、クラウド移行に際しての課題や同社が持つSAPクラウド化のノウハウ・注意点に関してお話をお聞きしました。基幹システムのクラウド移行における課題解決には何がポイントになったのか、詳しく見ていきましょう。
SECTION 01きっかけ
具体的な移行ノウハウ、ベンダーコントロールに要する工数がクラウド移行の課題に
1983年、株式会社神戸製鋼所100%出資子会社として創立したコベルコシステム社。その後IBMの資本と知見を取り入れ、ものづくりとITの双方のノウハウを活かした高度なシステム開発を得意としています。ユーザー系SIerとして、現場を重視した現実的かつ実践的なソリューションを提供。さらにシステム稼働後の運用・保守のしやすさや実際の業務遂行までを考え抜いた最適な解をお客様に提案しています。
同社はこれまで製造業を中心としたお客様に対し、多くのクラウド移行を支援してきました。一般的に自社でデータセンターやハードウェアを維持するのは、コストや人材、セキュリティなどのさまざまな面から負担が重く、クラウド志向がますます高まっていることは周知の事実です。しかし実際にいざクラウド移行を進めようとすると、思いのほか多くの課題があると言います。
コベルコシステム社 システム事業部 ICT本部 第2ソリューション部の木下貴文氏は、「今回SAPのMicrosoft Azureへの移行をご支援させていただいたのは、多数のグループ企業の情報システム構築および運用を担当されている某製造業の情報子会社様でした。クラウドファーストを掲げて今後システムを導入していこうという方針をお持ちでしたが、具体的にどのクラウドを使って、実際にどのように移行していけばよいのか、というノウハウをお持ちではありませんでした」と、クラウド移行に際してお客様が抱える課題の1つを説明します。
また、対象のお客様はグループ企業へのシステムインテグレーションだけではなく運用業務も担当されているため、必ずしもリソースが十分ではなく、クラウド移行に際してインフラ基盤の移行、そしてSAPの移行作業などそれぞれのベンダーをコントロールするのは、それに割かれる工数を考慮すると相当困難な状況でした。
SECTION 02施策内容
移行先にはSAPのサポートが充実しコストメリットも高いMicrosoft Azureを採択
今回のSAPのAzure移行に際してポイントとなったのは、まず、オンプレミス環境と同等のパフォーマンスを発揮できるのかということでした。加えて、Azure移行後にお客様で運用される場面で、今までと同様の感覚で運用できるのかという点です。
パフォーマンス面では、クラウド環境はオンプレミス環境との違いがあり、移行しただけでは思ったような結果が得られませんでした。しかし、リソース等を柔軟に変更し、チューニングを施すことで徐々に理想のパフォーマンスを得ることができるようになりました。逆にこのように状況や要求に合わせて臨機応変にパフォーマンス調整やチューニング可能なところがクラウドの強みであるとも言えます。
移行先としてAzureを採択した理由について木下氏は、「今回、SAPのクラウド移行を対象としていたため、お客様にはAzureを前提としてご提案させていただきました。Microsoft社とSAP社のリレーションにより、AzureではSAPを利用するにあたり機能も豊富でドキュメント類も充実しています。Microsoftサポートも品質が高く、サービス仕様の問合せに対して、具体的な手順含めサポート戴けます。また、お客様はOracleデータベースをお使いですが、Azure以外のクラウドだとOracle Linuxを使わなければならないなどの制限があります。Azureの場合はWindowsという馴染みのあるOSをそのまま使えることもAzure選択の理由となりました」と言います。
その他、特にWindowsについてはハイブリッド特典の活用でコストメリットが非常に高く、災害対策などのメニューが充実しているところもAzureを推奨する理由となっているとのことです。
SECTION 03結果
Azure移行により運用工数を大幅削減、パフォーマンス向上にもつながる
今回の移行プロジェクトによってお客様が得られた具体的なベネフィットは、まずオンプレミスのハードウェアを削減することにより、その運用工数を大幅に減らすことができたことです。従来、マシンルーム内のハードウェアに障害などが発生した際には、オペレーターから昼夜問わず電話連絡があり、ハードウェアベンダーと調整しながら復旧作業を実施していましたが、クラウド移行後はその必要が無くなりました。
「移行後はお客様ご自身でクラウドを運用し、さらに活用していく必要があります。それを踏まえて、どのようなことに注意し何をしなければならないのか?そのノウハウを今回のプロジェクトに活かし、お客さまに満足いただく結果になりました。例えばクラウド移行に関して、その後の運用について課題を感じているお客さまがほとんどですが、弊社からは手順書や設計書などの形でドキュメントを納入させていただきましたが、『これで何をどう運用すればよいのかが良く分かった』とお客様からお声を頂いています」(木下氏)
当初懸念されたパフォーマンス低下もリソース調整等によって最終的には解決。移行前よりもむしろ向上しており、夜間バッチの実行時間や検索時のレスポンス時間を短縮することができました。
コベルコシステム社のクラウドインテグレーションサービスの特徴の1つが、アプリケーションからBASIS、インフラまでをワンストップでソリューション提供できることです。これによりクラウド移行時のベンダー間調整が不要になり、なおかつ各ベンダーの責任範囲の間に生じがちないわゆるグレーゾーンが発生することもありません。
「弊社自身、親会社である神戸製鋼所やそのグループ会社および製造業のお客様に対してさまざまなシステム構築などを行っています。そこでは、実際の運用上の課題をしっかりと構築時も反映させることで、運用までを見据えたソリューションを提供しています。クラウド移行に関しても、移行計画支援からIT基盤構築、アプリ移行支援、運用までのすべてのシステムライフサイクルを通した価値ある提案ができます」(木下氏)
またCSP(Cloud Solution Provider)の制度を活用することで、お客様がMicrosoftと直接契約する際の時間と手間を省くことができ、最短3営業日で環境構築することが可能です。
SECTION 04今後の計画
PaaSやSaaSへの活用拡大とクラウドセキュリティサービスの拡充を目指す
今回Azureへのクラウド移行を支援したお客様に対しては、基幹システム(SAP)に続いて情報系やそれと連携しているシステムのクラウド化を提案中。クラウド化対象のシステムによってセキュリティやネットワークに異なった考え方を適用しなければならない場合があり、そのノウハウを含めてさらにクラウド活用に結び付けることができれば、とコベルコシステム社では考えています。
「現在AzureはIaaSとしてご活用いただいていますが、今後弊社DX推進部門とも連携し、PaaSやSaaS機能を活用してお客様のDX推進につなげていくことが、Azureの導入効果をさらに高めていくことになると考えています」(木下氏)
クラウド化が進むのに伴って重要性が増すのがセキュリティです。お客様のクラウド移行を支援する中で、CSPM(Cloud Security Posture Management)やCWPP(Cloud Workload Protection Platform)などのクラウド向けのセキュリティサービスを拡充。これによりさらに安心・安全な環境でクラウドを利活用できる環境を提供し、さまざまな企業様のDX推進をより強力かつ着実に支援してきたいと同社は考えています。
PROFILE
コベルコシステム株式会社
同社は、製造業である神戸製鋼所から受け継いだ「ものづくりや品質へのこだわり」と、IT企業の代表格であるIBMが持つ「優れたITノウハウ」を融合させ、そのシナジー効果でお客様の多様なニーズに応えることを使命に活動しています。
最新の技術・ノウハウ・ナレッジを融合し、より高度で複雑且つ大規模なシステム開発を可能にした、時代の最先端を切り開く企業です。
(https://www.kobelcosys.co.jp/)