MetLife社のDocker MTA導入事例(後編)
こんにちは、クリエーションライン株式会社の鈴木いっぺいです。
普段はロスアンゼレスに在住し、米国各地のオープンソース系のITベンダーとの付き合いを通して、日本とのパイプ作りに専念する毎日です。
今回は、Dockerのユーザーとして多くのイベントに登壇している、MetLife社の導入事例について解説します。
前編では、MetLife社のDockerCon US 2017でのプレゼンテーションをご紹介しました。
後編では、同社のDockerCon Europe 2017でのプレゼンテーションをご紹介したいと思います。
DockerCon Europe 2017
10月16〜19日、コペンハーゲンにて開催された、DockerCon Europe 2017のスライドです。
MetLife社内でのDocker関連プロジェクトはかなり進み、具体的なコスト削減のデータについても紹介をしています。
MetLife社での導入事例について、MetLifeの Docker導入責任者でもある、Jeff Murr氏が登壇しています。
Jeff Murr氏は、今年の春開催されたDockerCon 2017でも登壇し、その時にはDockerの導入専任チームである、"ModSquad" の活動内容を紹介しています。
当時は、一つのアプリをDocker技術でマイクロサービス化することに注力していましたが、今度は、そのコンセプトとノウハウを社内全体のアプリに展開すると同時に、MTAのコンセプトをMetLife内部に導入するプロジェクトを進めています。
今回のプレゼンテーションにおいても、MetLifeが非常にレガシーな企業であり、必ずしもDockerの様な新規技術を受け入れるような企業文化では無いながらも、今後のソフトウエア主体のビジネス戦略を推進する上で避けることができないパラダイムシフトであると判断できた、と説明しています。
新規技術というものは、得てしてコストがかかる、という認識を、Dockerが覆すことができたという点が大きな決定ポイントだったと説明しています。
MetLifeで導入しているMTAは、まずPOCで実証する形で導入しています。
MTAで提唱されている、3段階のステップをもって、ターゲットである、Azureクラウドに順次アプリを移行するプロセスをパターン化しています。 Avanade社がPOC推進のSIとしてコンサルサービスを提供していて、既存のアプリをコンテナ化する作業を支援しています。
最初にMTA化したアプリは、"Do Not Call (Opt-Out)"アプリで、エンドユーザが、自分の個人情報を他の関連パートナー企業(Affiiate)に共有して欲しく無い時にオンラインで登録するアプリです。
実際のアプリは、ここにあります。
https://www.metlife.com/about/privacy-policy/opting-out/online-opt-out.html?WT.mc_id=vu1075
このアプリのコンテナ化を、
- たった1日で実施し(1週間と見込んでいた)
- アプリ全てのレイヤー(App server, Web server, DB server)をDocker EEだけで管理
- ソースコードに一切、手を入れずに実現できた
ただ、MTAの本当の成果は、これに加えてもう一つ大きなポイントがある、ということを強調したいと思っています。
経営者に最も説得力があったのは、徹底的なコスト削減です。
現在、USの事業所を対象に、同様のMTA導入を計画する段階にいて、どれだけのコスト効果が見込めるかを試算しています。
次のような効果が見込まれています。
- VMにかかるコストを70%削減
- CPUコア数を67%削減
- CPUの利用効率を10倍に増加
これを総合すると、US事業所で保有する、593のアプリ全てを対象にした際、66%のコスト削減が実現できる計算になります。
さらに、これはMetLifeグローバルで見た際に、USは世界全体の10%程度のアプリ数になるため、今後グローバル展開を図る際にはさらに大きなコスト効果が期待できることも判明しています。
Docker導入において、留意すべき点もあります。
- スコープ:最初は小さいアプリからスタートし、段階的に、自然に成長させていくことが大事
- 十分なアセスメント:最初に取り組むアプリの選定は慎重に、確実性の高いものを選ぶことが重要
- チーム作り:新しい技術に積極的にプロジェクトに取り組めるチームを作ることも重要
- 既存のオペレーションで利用できるものは利用する
- スプリント的に、小さなサイクルで成果を段階的に出してプロジェクトを進めることも重要
図に示されているのはMetLifeで採用しているDockerのプラットフォームです。
Docker EEによって運用されるコンテナのエコシステムは、マイクロサービスアプリ、レガシーアプリ、3rdパーティアプリを全て統合的にコンテナ化し、統一したセキュリティポリシーに基づいて、開発者、運用管理者の両方が利用できる仕組みです。
MetLifeは今後も新しいアプリを開発しますし、3rdパーティや、SI経由でアプリを購入し導入するケースが継続します。今までのアプリの導入プロセスは、その製品の仕様に基づいてインフラの策定が必要でした。ハード環境、ネットワーク設定、ストレージ要件、等、を確認する必要がありました。当然、このプロセスには時間とコストを要するものであり、そのためにアプリの導入を延期、断念するケースもありました。
これからのDocker Platformに基づくアプリの導入は、これらのインフラの要件を一切考えずにアプリの導入を進めることができるようになります。アプリのスペックだけで導入判断をし、運用する環境については悩まなくても済む、ということは今後のMetLifeのIT戦略に大きな価値を提供します。
Docker Enterprise Editionの導入により、企業にとって非常に重要な要件である、次世代への変化とイノベーションに向けたソフトウェア開発モデルと、複数のITインフラ統合型のIT運用モデル、の両方を実現してくれるソリューションとして評価しています。また、今後もその成果をDockerConを通して発表していきたいと思っています。
まとめ
- MetLifeの抱えているITインフラ、アプリケーションの環境は、日本の大手企業の持つものと非常に似ていて、既存の状態(拠点毎のサイロ化、メインフレーム/サーバクラスタ/クラウドの混在環境)から統合化されたIT開発/リリース/運用モデルを導入するのは並大抵の労力じゃないことが、プレゼンを通して実感できます。
とはいえ、次世代のIT開発/運用手法を導入しないことによるリスクがいかに大きいのか、ということに気づいた、という点がDocker導入へのきっかけになっている、というのは注目すべき点です。 - レガシー企業とはいえども、常に革新を続けることは重要な課題であり、特に新技術に関しては業界内に浸透してからゆっくり後から導入する、というスタンスはもはや企業競争力が問われている時代では通用しない、という姿勢には感心します。
とはいえ、リスクを最小にすることは重要な要件で、次の点に留意しています。
◦ 小さなプロジェクトからスタートさせている
(この場合は、Do Nto Call: Opt-Out アプリを選択)
◦ ノウハウを持っている技術者を保険業界の外から召喚している
◦オープンソースの市場、コミュニティから積極的に情報収集をしている
◦ 小さなプロジェクトでの成功を横展開するために、記録をしっかりとり、ドキュメント化している。
- また、こういった新技術導入に対して、どれだけ開発力が上がったか、であったり、ソフトウェアの運用効率が良くなったか、という技術的な観点での評価に終始してしまいがちですが、企業、特にレガシー企業は、いかにコストを下げ、会社の収益に寄与したか、という経営者の視点からその価値を示すことが重要である、ということを考えさせられます。
MetLife社はその点に注力してプロジェクトを進めていったことが成功につながったのではないかと強く感じます。
次回のブログでは、先日開催された、DockerCon Europe 2017についてご報告いたします。
関連リンク
DockerCon 2017のキーポイント
DockerCon 2017で発表された、Northern Trust社のDocker MTA 導入事例
VISA International社が見出した、Dockerのオーバーレイネットワークの価値
MetLife社のDocker MTA導入事例(前編)
Dockerの製品ページ
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この記事の著者:鈴木いっぺい
アメリカに在住20+年、最近は成長著しいオープンソース系の市場を中心に、有望企業を開拓し、日本への市場展開を支援するITプロフェッショナル。現在は、クリエーションライン(株)の取締役/CSOとして、DevOps、ビッグデータ/分析、コンテナ技術を持つベンダーの日本代理店運営、日本法人/JVの設立、買収/投資、等のプロジェクトを立ち上げ、推進する事に注力。
アメリカのオープンソース系ベンダーとのコネクションは強く、多くのベンダーから日本市場展開に対する相談を受ける。
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