2018.03.28

TIS株式会社の技術部門が推進する、インフラ構築・テストの自動化

中村真実
初代DevOps Hub編集長
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DevOps Hubでは、DevOpsを実践している企業のインタビューをお届けしています。第7回は、TIS株式会社の技術部門が取り組む、インフラ構築・テストの自動化について、お話を伺います。
(写真:TIS株式会社 IT基盤技術本部 IT基盤技術推進部 OSS推進室 倉持健史氏)

TIS株式会社は、1971年に創業、2008年 東京に設立。幅広い業界・分野で実績を持つ、トータルSI企業です。

エンジニアの技術力向上を部門横串で支援

──貴社の事業と特長について、教えてください。

倉持:弊社は、独立系のSIerなのですが、他社にない強みとしましては、金融業界のお客さまが多く、長い間お取引をさせていただいている点が挙げられます。銀行やカード会社のお客さまに対して、多数のインテグレーション実績がございます。

──倉持さんが所属している部署では、どのような業務を行っているのですか。

倉持:私が所属するIT基盤技術本部では、インフラ技術を主体として、お客さまのIT基盤の構築、保守、運用を行っています。大体400名くらいの技術者を抱えていますね。
私のチームは、10名弱の技術特化メンバーがいる小規模なチームなのですが、IT基盤技術本部を横串で支援しています。社内のエンジニアのバックグラウンドサポートとして存在している部隊になります。

──インフラの技術部門だけで400名とは、大人数ですね。倉持さんのチームでは、技術者全体のスキルの底上げを目標とされているのでしょうか。

倉持:そうですね。お客さまからご要望をいただく前に、新しいテクノロジーを社内で啓蒙するというミッションを掲げています。案件を担当するメンバーは、新しい技術をキャッチアップする時間が取り辛いことがありますので、私達のチームが技術的な支援や、お客さま先でのご提案のサポートをしています。

インフラ自動構築・テストのフレームワーク「SHIFT ware」を活用し、自動化を推進

──貴社の中でDevOpsの定義はありますか。また、DevOpsという言葉について、どういった印象をお持ちでしょうか。

倉持:特にこれといった定義付けはしておりません。

DevOpsという単語は、ソフトウエア・アプリケーションの開発手法という意味合いが大きいものの、インフラの人達から見ても影響のある言葉だなと思います。弊社では、アプリ開発部隊とインフラ部隊が一緒にプロジェクトを回す案件で、お客さまのリクエストに応じてDevOps的な考え方で開発や運用をしていますね。

IT業界の流れとしても、インフラ技術はソフトウエアのベストプラクティスを利用して構築、運用、保守を行うようになってきていると感じています。特にクラウドが出てきてその動きが顕著になって、それに拍車をかけるように便利なツールがどんどん出てきている。インフラも新しい方法で、品質・生産性・効率を上げる働き方に変えていなければならない、と感じている人達が徐々に増えてきていると思いますよ。

──インフラ部門への技術啓蒙を進めることになった、きっかけはありますでしょうか。

倉持:仕事のやり方の変化としては、IaC(Infrastructure as Code)の登場が切っても切り離せない重要なポイントでした。IaCを活用するために、私達ができることは何なのか、しこたま考え続けていました。

そこで、大量のサーバーを手組みで設定したり、テストの目視確認を繰り返し行ったりと、膨大な時間・人手をかけている部分を、改善していかなければいけないと気づきました。

2015年から、インフラエンジニアにも解釈しやすいようにIaCを「インフラの自動構築・テスト」とやわらかい表現に落とし込んで、啓蒙し、案件の中で活用してもらうことを目標にしました。同時に標準化も意識していました。

──Opsですと、安定稼動をゴールとしたマインドセットが強いと思うのですが、その上で改革に取り組まれる姿勢は素晴らしいですね。

倉持:確かに安定稼働していれば、このままでもいいっていう人が大多数なんですよね。もっと改善できることがあるとわかっている人もいますが、その人達がすぐに実行できないことも多かったのです。そこで、我々推進チームが「やるぞ!」って決めて、計画を立てて実行したメンバーの力があってこそ、ここまで来れたと感じています。


180329_tis_01.jpgTIS株式会社 IT基盤技術本部 IT基盤技術推進部 OSS推進室 倉持健史氏

──インフラの自動化を推進していくにあたって、課題はありましたか。

倉持:課題は、たくさんありましたね。新しいツールを活用すれば、圧倒的に時間を短縮して、品質の良いものができるとわかっても、それを使うところまで持っていくのがすごく大変なんですよ。勉強会を開いて参加者を集めるというところまではできるのですが、次のステップとしてプロジェクトや個人で実行してもらうまでにパワーが要りました。

弊社はセキュリティー上、PCやネットワークの利用を非常に厳しく管理していますので、新しいツールをサクッと試すことが難しい状況です。2016年から、まずは社内に技術を学び、オンデマンドで学習できるハンズオン環境を作りました。お客さま先に常駐しているエンジニアに対しては、訪問してお客さまと一緒に勉強会を行ったりと、色々な工夫を進めていきました。

さらに、ITインフラ環境の自動構築・自動テストを実現する『SHIFT ware(シフト・ウェア)』という独自のツールも開発しました。

──SHIFT wareとは、どのようなツールなのでしょうか。

倉持:オープンソースのインフラ自動構築とテストのフレームワークです。Microsoft Excelのシートに値を入れていくだけで、サーバーテンプレートができて、それをコピーして流し込むだけで、サーバー構築ができるツールです。勉強してコードを書いて自動化を実装できればベストなのですが、インフラ技術者ですと、なかなかハードルが高い。皆さんが仕事で一番よく使っているツールといえばExcelですよね。これなら誰でも使えますので、Excelを起点として自動化できるようにしたらいいんじゃないかと考え、作り上げました。社内で活用した末、昨年10月にオープンソースとして公開しました。

──SHIFT wareをオープンソース化して、社外から反響はありましたか。

倉持:オープンソース化した際に、プレスリリースを出したところ、お客さまより、営業経由で「どんなツールか説明してほしい」「無償なの?」「使ってみたい」と数多くの反響をいただきました。外部でSHIFT wareの勉強会を開催した際も、インフラの構築やテストに関わっている方々からは「こういうツールが欲しかった」ですとか、誰でも使えるツールなので「目の付け所がいいね」といったご意見をいただきましたね。

トライアル段階で、工数を3割減。作業を大幅に効率化

──インフラ自動化を進めた結果、どのような効果がありましたか。

倉持:サーバー百台単位の大規模な案件があったのですが、初めてトライアルとしてインフラの自動化をしたところ、当初の見積もり工数の7割ぐらいで収めることができました。今までは、膨大な人的リソースをかけてマンパワーで構築、テストを行っていましたが、自動化のフレームワークを適応したことで、効率化できました。協力会社の方に作業をお願いする場合も、同じ仕組みを展開して、受け入れテストに活用することができましたね。

──トライアル段階で工数が3割減とは、物凄い効果ですね。現場のメンバーの作業が楽になったという声はありますか。

倉持:お客さま先に常駐しているメンバーから作業効率化ができたと感想を貰っています。そのメンバーはお客さまから、毎日VMを十数台作成する業務を任されていました。スペック表、テンプレートは用意されているのですが、コンフィグレーション、テスト、チェックの作業に結構な工数がかかっていました。そこで、フレームワークを使ってもらんたんですね。そうしたら、テストも含めて毎日3時間くらいかかっていた作業が1時間も経たないで終わるようになり、エラーやミスが無くなって、品質も高まりました。時間が短縮できたことで、今までできなかった業務、スキルアップの時間が確保できてよかったと言っていましたね。

Dockerを中心としたコンテナ技術を社内に啓蒙

──今後の展望について教えていただけますでしょうか。

倉持:現段階では、自動構築とテストは、OS部分をメインに実施しています。それだけでも大きな効果を出せていますが、構築、運用、保守でよく使うミドルウエアなどはフレームワークにテンプレートとして入れて、標準化していきたいです。それを社内に横展開して、さらに生産性を高めていきたいです。

──これからチャレンジしていきたいテクノロジーや取組みはありますか。

倉持:コンテナ技術ですね。コンテナは、インフラの人達も知っておくべきだと思います。仮想化環境がエンタープライズ向けに採用されはじめる過渡期は、SIerも足踏みしていたタイミングがあると思うんですよね。今はその状況と似ているなと感じています。コンテナ自体はアプリ開発会社が作るケースが多いですが、その基盤そのものの構築をSIerが行う時、インフラ技術者がやることになりますので、準備をどんどん進めてなきゃいけないと考えています。来年度からは、Dockerを中心にコンテナテクノロジーを啓蒙して、インテグレーション レディな体制にしていきたいです。

また、SHIFT wareのオープンソース化をきっかけに、「IaC活用研究会」というIaCを活用してエンジニアの労働生産性の向上を目指すコミュニティを立ち上げました。たくさんの企業や団体と、イベントや勉強会を実施しています。他社さまやユーザーさまとIaCのノウハウや経験を共有しながら、技術者の皆さんがハッピーになれる活動を継続していきたいです。

社内に新しい取り組みを啓蒙することはハードルが高いですが、たくさんの工夫や改善を積み重ねていくことで実現できるのだなと思いました。お話しいただき、ありがとうございました!

この記事の著者:中村真実

初代DevOps Hub編集長

2017年7月~2018年9月まで、DevOps Hubの立ち上げと初代編集長を担当。


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