【前編】Web3のセキュリティ事情とスマートコントラクト監査
Web3のセキュリティ事情
Web3の到来は、インターネットのあり方を根本から変えると言われています。中央集権的な管理体制から、ブロックチェーン技術を用いた分散型インターネットへ移行することで、ユーザーはデータや資産の所有権を取り戻し、透明性とセキュリティの向上が期待されています。しかし、Web3の新しいエコシステムがもたらす自由には、その分リスクも存在します。特に、スマートコントラクトのセキュリティが非常に重要な課題となっています。
スマートコントラクトの脆弱性
スマートコントラクトは、ブロックチェーン上で自己実行されるプログラムです。これにより仲介者なしで契約や取引を実行できるようになり、大幅な効率化が図られています。
しかし、コードに脆弱性があると、ハッカーにより不正に操作され、大規模な資産流出が発生する可能性があります。これまでにも多くのプロジェクトが、スマートコントラクトのバグやセキュリティの不備によって数百万ドル単位の被害を受けています。
セキュリティプラットフォームImmunefiのレポートによると、2023年にはハッキングによってWeb3業界全体で総額18億ドル(2545億円)の被害が発生しています。*1
*1 出展 Immunifi Crypto Losses Report | 2024 Annual Report https://immunefi.com/research/
スマートコントラクト監査の重要性
スマートコントラクトの脆弱性によるリスクを最小限に抑えるためには、セキュリティ監査が不可欠です。スマートコントラクトのセキュリティ監査は、コードに潜在的なセキュリティ問題がないかを第三者が検証するプロセスです。
具体的には以下のようなポイントが監査されます。
- コードの脆弱性の発見と修正
専門のセキュリティエンジニアや監査企業が、スマートコントラクトのコードをレビューし、バグや脆弱性を発見します。たとえば再入可能性問題、整数オーバーフローなどの脆弱性のチェックを行います。Web2の脆弱性解析手法を活かしつつ、スマートコントラクト特有の攻撃パターンを加味したアプローチが取られます。 - パフォーマンスと効率性の評価
スマートコントラクトが効率的に実行されることも、監査の重要なポイントです。単に機能が正しく動作するかどうかだけでなく、非効率なコードがないかを確認します。非効率なコードは、取引に使用するガスコストの増大やネットワークの遅延を引き起こす可能性があり、これらの問題を事前に特定します。
スマートコントラクト監査のための準備
スマートコントラクトを監査に出す前に、開発者が行うべき準備は以下の通りです。これにより、監査プロセスが円滑になり、時間とコストの節約にもつながります。
- 要件と仕様の明確化
スマートコントラクトのビジネスロジックや設計仕様を明文化します。これにより監査者がコードの意図を把握しやすくなり、レビューの正確性が高まります。 - 静的解析ツールの使用
Mythril、Slither、Solhintなどの静的解析ツールを使用して、一般的な脆弱性を自動検出します。これにより、基本的なセキュリティリスクを事前に排除でき、監査がより深い部分に集中することが可能になります。 - コードの最適化とクリーニング
不要なコードやリソースを削除し、読みやすくメンテナンスしやすいコードに整えます。監査者が容易に理解できるようにしておくことで、問題の発見もスムーズになります。 - ガスコストの最適化
スマートコントラクトのガスコストを意識した設計を行い、最適化します。ガスコストが効率的であることは、エコシステム全体のパフォーマンスにも関わるため、重要な観点です。 - 依存関係とライブラリの確認
使用しているライブラリや依存関係が最新であり、セキュリティ面で問題がないかを確認します。 - テストネットでのデプロイと動作確認
実際にテストネットで動作させ、期待通りの動作を確認します。この段階で実行環境でのエラーや不具合を検証することで、プロジェクトの安定性が高まります。 - 一般的な脆弱性への対策確認
再入可能性攻撃や整数オーバーフローなど、スマートコントラクト特有の脆弱性対策が組み込まれているか確認します。スマートコントラクトセキュリティフィールドガイドやW³VEなどを活用することによって、基本的な見落としを減らすことも重要です。 - フォーマル検証
スマートコントラクトが意図した動作を厳密に守ることを数学的に証明する手法です。特に重要なビジネスロジックやセキュリティ要件について、フォーマル検証を行うと高い信頼性が得られます。
そして、開発プロセスの中にセキュリティを入れるDevSecOpsの観点を取り入れると、開発段階からセキュリティを強化する意識が高まります。スマートコントラクト開発の初期段階からセキュリティが確保され、監査プロセスがスムーズになるだけでなく、全体的な品質が向上します。よって、プロジェクトに適した自動監査ツールをCI/CDパイプラインに組み込み、開発段階から自動的にセキュリティチェックを行うことをお勧めします。
Web3におけるセキュリティの未来
Web3が今後さらに普及するにつれ、セキュリティ対策技術も年々進化しています。AIを活用した自動監査ツールや、分散型のバグバウンティプラットフォームなども、セキュリティ向上の一環として注目されています。
しかし、技術が進化する一方で、常に新たな攻撃手法が開発されるため、セキュリティの強化は一時的な問題ではなく継続的な課題です。プロジェクトオーナーにとって、スマートコントラクト監査は信頼性を確保するための最も重要なステップです。
結論
Web3は新しい可能性を提供すると同時に、従来のインターネットとは異なるセキュリティリスクを伴います。スマートコントラクト監査は、これらのリスクを軽減し、プロジェクトがユーザーの信頼を確保するために不可欠です。分散型の未来を実現するためには、強固なセキュリティ体制を整えた上で、Web3のメリットを最大限に引き出すことが求められています。
関連リンク
この記事の著者:TECHFUND Inc.
web3 領域のセキュリティ監査に注力した「Hi AUDIT」をグローバル展開しています。これまでJPYCなどのステーブルコインや、double jump.tokyoやOASYSなどのGameFi、SBI VCTなどの取引所・ウォレットなどの業界をリードするようなプロジェクトの監査を担当しており、日本でNo.1の実績を持っています。
TIS株式会社
TISインテックグループのTISは、SI・受託開発に加え、データセンターやクラウドなど、サービス型の高度なセキュリティが求められる金融システムで培われたITソリューションを多数用意しています。同時に、中国・ASEAN地域を中心としたグローバルサポート体制も整え、 金融、製造、流通/サービス、公共、通信など様々な業界で3000社以上のビジネスパートナーとして、お客様の事業の成長に貢献しています。
DevOps Hubのアカウントをフォローして
更新情報を受け取る
-
Like on Facebook
-
Like on Feedly