本ブログ記事では、VMware Explore 2023 Las Vegasで発表されたTanzuを中心としたアップデート情報について、内容をピックアップしてご紹介します。
VMware Explore 2023 Las Vegas開催時の速報レポートは下記のブログ記事でお伝えしておりますので是非ご覧ください。
また、本ブログ記事にはリリース前の製品・機能の紹介も含んでおり、具体的な実装等は今後変更される可能性があります。より正式な情報については、メーカーによるプレス リリースや、製品の正式リリース後のドキュメント等をご確認ください。
プラットフォーム エンジニアリングへの注力
今年のExploreで軸のひとつとされていた「アプリケーション デリバリの迅速化」については、特に「プラットフォーム エンジニアリング」にフォーカスが当てられていました。プラットフォーム エンジニアリングとは、組織内部の開発者の生産性を向上させるためのプラットフォームを用意する、という考え方であり、ガートナーによる「2023年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド」のひとつとしても紹介され注目されています。
プラットフォーム エンジニアリングでは、プラットフォーム自体をプロダクト(製品)として扱い、利用する開発者にとって本当に必要なもの(ツールチェーンやワークフローなど)を改善をかさねつつ提供するというアプローチをとります。
そして用意するプラットフォームでは、次のようなことを意識することで、開発者体験・生産性の向上を目指します。
- 開発や運用における認知負荷を軽減する
- 開発者自身がセルフサービスで利用できる
- デフォルトでセキュアな状態にする
これらのキーワードはジェネラルセッションやキーノート セッションだけでなく、ブレークアウト セッションでも頻繁に登場していました。
また、これまでVMwareによってTanzu製品が説明される場合には「Build・Run・Manage」という3つの観点で説明されていましたが、今年のExploreでは「Develop・Operate・Optimize」という観点で説明されるようになりました。
VMware製品を扱うチームがパブリック クラウドもあつかう上で、これまでよりもコラボレーションを推進できるようにするという目的があり、ソリューション キーノートでの説明をもとにすると、それぞれ次のような意味合いも込められているようです。
- Develop → 商用環境への「ゴールデンパス」となる標準化されたツールチェーンを、ポータルやIDEを含めて用意する。
- Operate → アプリケーションのインフラが、土台となるKubernetesクラスターに更新があったとしても、アプリケーションをシームレスにデプロイ・管理・スケーリングできるようにする。
- Optimize → 稼働中のアプリケーションのコスト、パフォーマンス、およびセキュリティを継続的に最適化する。
そして、これらを実現するための代表的な製品として「Develop」と「Operate」ではTanzu Application Platform、「Optimize」ではTanzu Intelligense Servicesが位置づけられています。そして「Operate」では、今回発表されたTanzu Application Engineも重要な役割を担うようです。
このアプローチの流れもあってか、一部のAria製品についてリブランドも発表されました。
一部のAria製品のTanzuへのリブランド
今年のVMware Exploreで発表されたTanzuとAriaの発表のうち、特に皆さんにインパクトが大きいものとしては、いくつかのAriaブランドの製品が、Tanzuブランドに変更されたことではないでしょうか。
昨年発表されたVMware Ariaソリューションの一部が、次のように "Tanzu" にリブランドされました。
- VMware Aria Hub ⇒ VMware Tanzu Hub
- VMware Aria Cost powered by CloudHealth ⇒ VMware Tanzu CloudHealth
- VMware Aria Guardrails ⇒ VMware Tanzu Guardrails
- VMware Aria Migration ⇒ VMware Tanzu Transformer
- VMware Aria Business Insights ⇒ VMware Tanzu Insights
これらの製品は、もともとAriaブランドではありましたが、アプリケーションのプラットフォームを構築するうえで重要な要素となります。
VMware Tanzu Hubは、これまでは名前の通りAria製品群のハブとして開発が進められていたようですが、これからはTanzu製品群のハブとしての機能も追加されるようです。たとえば後述する新機能「Tanzu Application Engine」も、VMware Tanzu Hubと連携するデモが紹介されていました。
また Aria Automation Secure Clouds については、VMware Tanzu Guardrailsに集約されています。Tanzu Guardrailsによって、クラウド セキュリティ ポスチャ管理(CSPM)だけでなく、クラウドのアカウント作成時のようなオンボーディング時のセキュリティ ガバナンスなどにも対応しやすくなると考えられます。
一方で、VMware Ariaブランドには、Aria Operations、Aria Automationの製品群が残っています。これらの製品群についても新機能の紹介が発表されていましたが、この記事ではTanzuを中心に紹介するため割愛いたします。
Tanzu Application Platform
Tanzu Application Platformは、プラットフォーム エンジニアリングを実装するうえでセルフサービスのツールチェーンやポータルを提供する製品です。直近にリリースされた1.6の新機能などについては、開発者体験とプラットフォーム エンジニアリング チーム体験の向上、大規模なエンタープライズ向けセキュリティ、ソフトウェア サプライ チェーンの合理化、といった3つの軸で紹介されていました。
これらの詳細については VMware Japan Blog にて紹介されていますので、下記ブログをご参照ください。
- VMware Tanzu Application Platform 1.6発表
https://blogs.vmware.com/vmware-japan/2023/08/tanzu-application-platform-1-6.html
ちなみに、従来はTanzu Application Platform GUI(TAP-GUI)と呼ばれていたBackstageベースのポータルが「Tanzu Developer Portal」と呼ばれるようになりましたが、これはさっそくデモでも利用されていました。
Tanzu Application Platformは、Kubernetesクラスターにアプリケーションを「Source-to-URL」で展開する機能やポータル、IDEプラグインなど、アプリケーションの開発者に向けた機能が、引き続き改善されつつ提供されています。
その一方で、開発者よりもプラットフォーム エンジニア側で活用できる機能として、あらたにTanzu Application Engineが発表されました。
Tanzu Application Engine
新たに発表されたTanzu Application Engineは、おもに「Operate」に位置付けられ、Tanzu Application PlatformとKubernetesクラスターとの間にありつつもインフラ側に近いものと考えられます。
Tanzu Application Engineでは、「Tanzu Application Spaces」(スペース)という新たなレイヤを用意することで、Kubernetesクラスターをアプリケーションから抽象化できるようになります。これにより、開発者の関心事(アプリケーションのデプロイやスケール)とプラットフォーム エンジニアの関心事(Kubernetesクラスタのスケールやアップグレード、セキュリティ実装など)を明確に分離できるようになります。具体的には、Tanzu Application Engineでは、アプリケーションのHAフェイルオーバー、PCI DSSコンプライアンスを満たしたセキュアなアプリケーション間通信、無停止でKubernetesクラスターをアップグレードするためのコンテナのリスケジューリングといった機能が提供される予定であることが説明されていました。
ここでひとつ、Tanzu Application Engineによるメリットの例を紹介してたいと思います。
これまではアプリケーションを展開するとなると、(Tanzu Application Platformを活用したとしても)基本的には単一のKubernetesクラスターがアプリケーションの展開先となっていました。これには、Kubernetesクラスターのアップグレードのようなメンテナンス作業の場合は、展開されているアプリケーションでも停止や移動の対応が必要となります。
しかし、Tanzu Application Engineによる「スペース」にアプリケーションを展開しておくことで、プラットフォーム エンジニアがKubernetesクラスターをアップグレードする際に、アプリケーション側への影響を低減できるようになるはずです。
Tanzu Application Engineの概要については、下記のVMwareブログもあわせてご確認ください。
- チームのコラボレーションとアプリケーションのベロシティを向上するTanzu Appliation Engineの発表
https://blogs.vmware.com/vmware-japan/2023/08/introducing-vmware-tanzu-application-engine.html
ただ実際のところ、この記事の執筆時点ではまだTanzu Application Engineについての具体的な情報がほとんど公開されていません。そこで、ソリューション キーノート「Accelerate Application Delivery for Continuous Innovation」で紹介されていたデモをもとにTanzu Application Engineの様子をご紹介します。実際の製品デモでは、Tanzu Application PlatformやTanzu Hubに統合されたかたちで紹介されていました。
これまでのTanzu Application Platformでは、アプリケーションを展開する際は、下記のようなコマンドを実行していました。このコマンドのオプションでは、Kubernetesの名前空間(--namespace)を指定しています。つまり、アプリケーションの展開先は、名前空間を提供する特定のKubernetesクラスターとなっていました。
$ tanzu apps workload apply --file <YAMLファイル> --namespace <名前空間名>
そして、Tanzu Application Engineを利用する場合のコマンドは、名前空間のかわりにスペース(--space)を指定しています。このように、アプリケーションの展開先となるKubernetesクラスターが抽象化できるわけです。
$ tanzu apps workload apply --file <YAMLファイル> --space <スペース名>
デモでは、下記のようにコマンドが実行されていました。
展開されたアプリケーションは、Tanzu Application PlatformのTanzu Developer Portalで確認できます。アプリケーション(Workload)には、それぞれ「Space」が割り当てられていることがわかります。
Tanzu Application Engineで展開されたアプリケーションは、Tanzu Hubでも確認できるようになります。左側のメニューにTanzu Application Platformに関連するものが追加され、その中にはTanzu Application Engineの「Spaces」メニューも見受けられます。
Tanzu Hubで「Spaces」を展開されると、その中に2つのAvailability Zoneがあり、それらを横断してServise Meshが構成されています。
ここでは、片方のAvailability Zoneにトラフィックを寄せることでダウンタイム無しでのKubernetesアップグレードを実施する様子が紹介されていました。他にもService Meshによって、HTTP遅延の可視化、サービス間でのPII(個人情報)データのフローの確認などを実施する様子についても紹介されていました。
VMware Tanzu Intelligence Services
AriaからTanzuにリブランドされた製品群については、クラウド全体でアプリケーションのコスト、パフォーマンス、セキュリティを最適化(Optimize)する「VMware Tanzu Intelligence Services」とよばれる製品ファミリーとされることが発表されました。
おもな製品としては、次のものが含まれます。※それぞれカバーすることになる対象を付記します。
- VMware Tanzu Guardrails(セキュリティ ガバナンス)
- VMware Tanzu Insights(パフォーマンスなど)
- VMware Tanzu Transformer(マイグレーション)
- VMware Tanzu CloudHealth(コスト)
VMware Tanzu with Intelligent Assist
最後にもうひとつ、「VMware Tanzu with Intelligent Assist」を紹介します。注目度の高い生成AIに関連するためか、「Accelerate Application Delivery for Continuous Innovation」だけでなく「Technology Innovation Showcase」のソリューション キーノートなどでも紹介されていました。
VMware Tanzu with Intelligent Assistは、Tanzu Hubのコンソール上でチャット画面が提供され、生成AIを活用した会話型チャットボットによって開発環境の運用最適化を実現するものです。そして、セキュリティ脆弱性の調査、コスト最適化といった用途でも利用できるように説明されていました。
下記のような画面で、チャットで具体的なエンティティを含む解答文を得られるだけでなく、そのままTanzu Hubの検索機能と連動して対象エンティティを表示できるようになります。
また将来的には、マルチクラウドでの管理を自動化するためのコードを生成することもできるようになるようです。予定では、Terraform、VCT(Aria Automationで利用されるVMware Cloud Template)、Pulumiのスクリプトが自動生成できるようになります。
本ブログ記事ではVMware Explore 2023 Las Vegasで紹介された、Tanzuを中心としたアップデートをピックアップしてお届けしました。VMware Exploreで発表された様々なアップデートは 別ブログ記事 でもお伝えしていますので是非ご確認ください。
参考URL
- プレス リリース:VMware、Tanzuの拡張によりエンタープライズ規模での、アプリのデリバリを加速
https://news.vmware.com/jp/releases/20230823_explore_map_jp - Develop, Operate, and Optimize with VMware Tanzu: A VMware Explore Roundup
https://tanzu.vmware.com/content/blog/vmware-tanzu-accelerates-app-delivery-and-innovation - VMware Tanzu Application Platform 1.6発表
https://blogs.vmware.com/vmware-japan/2023/08/tanzu-application-platform-1-6.html - チームのコラボレーションとアプリケーションのベロシティを向上するTanzu Appliation Engineの発表
https://blogs.vmware.com/vmware-japan/2023/08/introducing-vmware-tanzu-application-engine.html
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著者紹介
SB C&S株式会社
ICT事業本部 ICT事業戦略・技術本部 技術統括部 第1技術部
渡辺 剛 - Go Watanabe -
VMware vExpert
Nutanix Technology Champion