
みなさん、こんにちは。
このワードに誘われる方は現在のIT市場において非常に多いのではないでしょうか。
もちろん、オンプレミスだけでなくクラウド環境も含め、仮想マシンの移行は多くのIT担当者にとって避けて通れない課題です。
そこで今回ご紹介させていただくのは、NetAppが提供する「NetApp Shift Toolkit」です。
本ツールは、仮想マシンのイメージを迅速かつ安全に「Hyper-V」または「KVM互換のハイパーバイザー」に変換・移行することを目的に設計されています。
本記事では、NetApp Shift Toolkitの基本的な機能、ユースケースなど、本ツールを選定する上でのポイントについて詳しく紹介します。
NetApp Shift Toolkit |
NetApp Shift Toolkitは、
「マルチハイパーバイザー間の仮想マシン移行を高速かつ安全に実施できる無償ツール」
です。
現在リリースされているバージョンでは、VMwareから様々なハイパーバイザーへの移行をGUI形式で分かりやすく操作できる仕様になっています。

NetApp Shift Toolkitは以下の機能を提供します。
▼VMwareからHyper-Vへの移行
- 仮想ディスク変換(VMDK → VHDX)
- 変換後の仮想ディスクをHyper-Vへ登録
- 最適化処理(VMware Toolsの削除、ネットワーク設定の引継ぎなど)
▼VMwareからKVM互換のハイパーバイザーへの移行
- 仮想ディスク変換(VMDK → QCOW2)
※仮想ディスク変換以降の処理は手動にて実施する必要があります。
※NetAppマニュアル上に記載されている移行可能なKVMは以下です。
▪Linux KVM
▪Oracle Linux KVM
▪Red Hat OpenShift Virtualization
▪Proxmox
Hyper-Vへの移行の場合、仮想ディスクの変換だけでなく、Hyper-Vへの仮想マシン登録、VMware Toolsの削除、ネットワーク設定など、ボタン1つでエンドツーエンドの仮想マシン移行を実行できます。
KVM互換のハイパーバイザーへ移行する場合は、仮想ディスクの変換のみサポートしていますが、QCOW2の仮想ディスクを利用する多くのKVMに対して手動による移行が可能となります。
動作イメージは以下になります。
また、動作要件は以下になります。
【NetApp Shift Toolkitインストール要件】
- インストール先:Windows Server 2019~(専用の仮想マシンを推奨) ※物理も可
- 各種リソース:CPU vCPU×4、メモリ 8GB以上、ディスク 100GB以上
【ONTAP要件】
- ONTAPバージョン:ONTAP 9.14.1~
- SVM:既存のSVMとは別に移行用のSVMを作成することを推奨
- qtree:Hyper-Vへの変換の場合、変換されたVHDXの配置先としてFlexVol配下にqtreeが必要
【ハイパーバイザー要件】
- VMwareバージョン:vSphere 7.0.3~
- Hyper-Vバージョン:Windows Server 2019~
- KVM互換ハイパーバイザー:指定なし
※NetApp Shift Toolkitとの連携が未サポートのため、理論上QCOW2を仮想マシンとして認識できるKVMで利用が可能です。
※実際に利用する際は、十分な検証を行ったうえでご利用ください。
【ゲストOS要件】
- Windows 10~
- Windows Server 2016~
- CentOS 7.x
- RHEL 6.7~、RHEL 7.2~、RHEL 8.x、 RHEL 9.x
- Ubuntu 2018~
- Debian 10~
- SUSE 12~
【移行時のストレージプロトコル要件】
- VMware:NFSデータストア
- Hyper-V:SMB/CIFS共有ボリューム
【その他の要件】
- Shiftサーバー、Hyper-V、ONTAPは同じADドメインに存在する必要がある
- ADとONTAPの時刻同期がされている必要がある
動作要件の詳細は以下のマニュアルをご参照ください。
ユースケース |
次に、NetApp Shift Toolkitを利用するいくつかのユースケースについてご紹介いたします。
①:コストを最小限に抑えたお手軽移行
この場合、移行先となるHyper-Vに関連するコスト(サーバー、Windowsライセンス)のみで安価に移行が可能です。

NetApp Shift Toolkitを利用する際の注意点の1つとして、「移行元、移行先ともにNetAppのNASボリューム上に仮想マシンを配置する」必要があります。
特に移行元となるVMwareの環境では、一般的にiSCSIやFCといったSANのボリュームを利用することが多いと思いますが、NetAppは元々VMwareのデータストアとしてNASのボリュームを利用するよう提案しているケース(NetApp NFS Plug-in for VMware VAAIやSnapCenter Plug-in for VMware vSphere連携ができるため)が多いと思いますので、このような構成でご利用いただいている環境は少なくないのではないかと思います。
②:ストレージとハイパーバイザーをリプレースする
この場合、Hyper-Vへの移行による仮想化ライセンスの削減のほか、他社のストレージからNetAppストレージへ切り替えることによる機能メリット(充実したランサムウェア対策機能、無停止でのボリューム容量増減など柔軟なストレージリソース管理)を存分に利用できる形となり、より最適化された運用が可能となります。

ここで注意が必要になるのは、移行元のストレージ環境です。
NetApp Shift Toolkitによる移行処理時はNetAppストレージ上に仮想マシンが存在する必要があるため、事前にStorage vMotionにより仮想マシンを移動させておく必要があります。
Storage vMotion自体には多少なりとも時間が必要ですが、仮想マシンのダウンタイムという観点では、移行処理のタイミングしか発生しないという点でユースケース①と変わりません。
③:複数のハイパーバイザーを統合する
VMware環境も継続したうえで、アプリケーションやシステム合わせたマルチハイパーバイザー環境を構築するパターンです。

NetAppストレージはSVMという仮想ストレージ機能を有しており、今回のようなケースでは、VMware用のSVM、Hyper-V用のSVM、OpenShift用のSVMといった形で1台のストレージ上に仮想的なストレージを用途別に構築することが可能です。
これにより、運用/管理をする際に各SVMを明確に切り分けて利用したり、SVM毎にネットワークやプロトコル、ドメインなどを論理的に分割するマルチテナント機能を利用できるため、マルチハイパーバイザーという複雑な環境下でも柔軟にストレージリソースを利用することができます。
このように、NetAppストレージの柔軟性、多機能性といった特徴により、様々な移行シナリオにおいてメリットを提供できる形となっています。
本当に高速かつ安全なの? |
ここからは、NetApp Shift Toolkitの特徴である「高速」と「安全」の理由を探っていきます。
NetApp Shift Toolkitの仮想マシン移行では、FlexCloneというボリューム/ファイル単位のクローン技術が利用されています。
例えば、VMwareなどの仮想化システムによるクローンやバックアップSWによるデータコピーがオリジナルデータのフルコピーをするのに対し、FlexCloneでは、メタデータと呼ばれるオリジナルデータの参照情報のみをコピーするアーキテクチャのため、最小限の容量で高速なコピーを実現します。
また、最小限の容量ということは、当然コピー後のボリュームサイズも大きく変動しません。
例えば、100GB程度の仮想ディスクをFlexCloneでコピーした場合でも数MB程度の差分しか発生しないため、移行時のコピー分の容量増加を気にせずに計画を進めることが可能です。
そして、実際の移行プロセスでは、コピーした仮想ディスクを変換していくため、万が一移行に失敗したり、移行後の仮想マシンで不具合が発生した場合でも、移行元となる仮想マシンを起動すれば、即座に切り戻しが可能です。
このように、NetAppの技術と連動した移行方法により、「高速」かつ「安全」な仮想マシンの移行を実現できるわけです。
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著者紹介

SB C&S株式会社
ICT事業本部 技術本部 技術統括部 第1技術部 2課
河村 龍 - Ryu Kawamura -