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【ワイヤレスブログ 第5回】MIMOとは

ネットワーク
    2019.08.27

    みなさん、こんにちは。

    今回はMIMOについてのお話です。
    「マイモ」と読みます。
    MIMOとは「Multi Input Multi Output」の略語で、日本語にすると、多重入力/多重出力といったところでしょうか。

    MIMOの導入における最大のメリットはスループットの向上です。
    まずはMIMOの話に入る前に無線LAN通信の特性からおさらいしたいと思います。


    無線LANは半二重通信

    有線LANの環境においては送信と受信が同時に行われる全二重通信が行われています。
    これに対して無線LAN環境においては半二重で通信が行われています。

    ある特定の時間を切り出してみると、その時間帯に行われている同一の周波数帯(チャネル)での通信は、
    クライアント1台からの送信か受信のいずれか一方のみとなります。

    1台のアクセスポイントに数10台のクライアントを接続して、同時に動画を受信しているような環境でも、
    同時に通信しているのは1台のクライアントのみであり、時間単位で細かく分割し、
    複数のクライアントが順番に通信することで、あたかも同時に通信しているように見えています。
    この手法を時分割多重と呼んでいます。


    半二重.jpg


    MIMOにおけるスループット向上のカラクリ

    今までは時間軸での分割手法しかなかった無線LAN環境において、別軸での分割手法を提供できるようにするのがMIMOの技術です。
    (実際には周波数を分けて運用する周波数分割多重の手法もありますが、これはまたどこか別の機会で...)

    MIMOでは複数の送信アンテナから同時にデータを送信し、そのデータを複数の受信アンテナで受信することで、同時に送信できるデータの量が増加します。
    この手法を空間分割多重と呼びます。

    無線LANアクセスポイントのデータシートなどを見ると「4×4:4ss」などと表記されますが、
    この「4ss」の部分が空間の多重化の数(空間ストリーム数)を表した数字で、この例では空間を4つに分割してデータの送受信が可能となりますので、単純計算で4倍のデータ量の送受信が可能となります。


    MIMOの種類

    MIMOには大きく以下の2つがあります。

    SU-MIMO(Single User MIMO)
    MU-MIMO(Multi User MIMO)

    はじめに802.11nでSU-MIMOが採用され、802.11ac wave2にてMU-MIMOが採用されました。
    そして802.11axではMU-MIMOがさらに拡張されました。

    それでは細かい違いを見てみましょう。


    SU-MIMO

    SU-MIMOはシングルユーザとある通り、送信側と受信側は常に1:1の関係となります。
    ある時間軸で切り出した時に通信しているのは1台のクライアントのみとなります。

    例えばアクセスポイントからクライアントに対する下り方向の通信を考えたときに、双方とも4ストリームに対応していた場合は、アクセスポイントから4つのアンテナを利用してデータを送信し、クライアントは4つのアンテナからデータを受信できますので、4倍の速度でデータの転送が可能になります。

    ではアクセスポイントが4ストリーム、クライアントが2ストリーム対応の場合はどうなるでしょうか。
    この場合は少ない方のストリーム数に合わせますので、2ストリームでデータの転送が行われます。

    これは上り方向(クライアント→アクセスポイント方向)でも同様となります。

    またSU-MIMOはアクセスポイント/クライアントの双方が対応している必要があります。


    SU-MIMO.jpg

    現時点では4ストリームに対応しているアクセスポイントは複数ありますが、4ストリームに対応しているパソコンはまだまだ少なく、あっても高額となります。
    またスマートフォンに関してはアンテナ1本の1ストリーム対応が主流となります。

    クライアントが1ストリームの場合、SU-MIMOの利点を活かすことができません。
    これを改善するために登場したのがMU-MIMOの技術です。


    MU-MIMO

    SU-MIMOが送信側と受信側が1:1の関係であったのに対して、MU-MIMOでは1:多の関係となります。
    つまり同じ時間軸で複数のクライアントが同時に通信することが可能となります。


    MU-MIMO.jpg

    MU-MIMOですが、802.11ac wave2で定義されているのはDL-MU-MIMO(ダウンロードMU-MIMO)となり、
    アクセスポイントからクライアント方向に対する下り方向のみのサポートとなります。

    MU-MIMOで同時に接続できるクライアント数は最大で4台となります。
    また1クライアントあたりの最大ストリーム数は4となり、アクセスポイント全体での最大ストリーム数は8です。

    例えばアクセスポイントが4ストリーム対応の場合、1ストリーム対応のスマートフォンであれば同時に4台の通信が可能となり、2ストリーム対応のパソコンは同時に2台の通信が可能となります。

    MU-MIMOにおいてもアクセスポイント/クライアント双方がMU-MIMOに対応している必要があります。

    MU-MIMO対応とSU-MIMO対応のクライアントの混在環境では下記の図のような動作となります。



    MU-MIMO混在.jpg

    さらに802.11axではアップリンク方向のMU-MIMOにも対応し、同時接続可能なクライアント数が4台から8台に増加しています。
    少し前の話ですがGalaxy S10シリーズが802.11ax対応として話題になりましたね。
    機会があれば検証してみたいものです。


    少し長くなりましたが、MIMOの話はこれでおしまいとなります。

    次回もお楽しみに。

    著者紹介

    SB C&S株式会社
    技術統括部 第2技術部 1課
    藤ノ木 俊