このブログでは、マルチクラウド環境におけるVMware Tanzu Kubernetes Gridと、2022年8月末に開催されたVMware Explore 2022 USにて発表されたVMware Tanzu Kubernetes Grid 2.0についてご紹介します。
1. Tanzu Kubernetes Grid(TKG)とは
「Tanzu」とは、主に Kubernetes やクラウド ネイティブ アプリケーションに関連するVMware製品群のブランドであり、その中に Kubernetes ディストリビューションである「Tanzu Kubernetes Grid」があります。
TKGではオープンソース コミュニティで開発・メンテナンスされているアップストリームの Kubernetes が利用されており、一般的に利用できるKubernetesクラスタに、構築/ノード追加削除やアップデートを容易にするライフサイクルの管理や、Kubernetesにアプリケーションを追加するパッケージ管理といった機能が追加されています。
TKGの商用製品としては、これまで主に2つの形式で提供されていました。
- マルチクラウドに対応したTanzu Kubernetes Grid(通称TKGm)
- vSphere with Tanzuに組み込まれたTanzu Kubernetes Grid Service(TKGs)
Tanzu Portfolioのうち「Tanzu Standard」は、マルチクラウド対応をターゲットにしたポートフォリオ(エディション)ですが、アプリケーションを展開するKubernetesの部分は、上記のうちTKGmが名前の通り「マルチクラウド対応」にあたります。
複数環境でのプロビジョニングに対応しているTKGの特徴の1つとして、Kubernetesクラスタのプロビジョニングに「Cluster API」が利用されていることが挙げられます。この仕組みによりTKGでは、クラスタのライフサイクルを管理する「Management Cluster」、アプリケーションの展開に利用する「Workload Cluster」の2つの Kubernetesクラスタを利用します。今回は、このプロビジョニングの様子にフォーカスしてTKGをご紹介します。
2. マルチクラウドでのTanzu Kubernetes Grid(TKGm)
マルチクラウド環境にKubernetesクラスタをプロビジョニングできるTanzu Kubernetes Gridは、通称として「TKGm」と呼ばれており、Tanzu のポートフォリオとしては「Tanzu Standard」で利用できます。
また、昨年のVMworldで発表され無償提供されている「Tanzu Community Edition」は、このTKGのアップストリーム版にあたるものとされています。
TKGmは、プロビジョニング対象として、パブリック クラウドのAWSとAzure、オンプレミスにあたるvSphereといった環境に対応しています。
TKGでは、前述の通り2種類のKubernetesクラスタを利用します。パブリック クラウドにおいても、Management ClusterとWorkload Clusterの、2つのクラスタが構築されます。
たとえば、TKGmをパブリッククラウドのひとつであるAzureに展開した場合は、下記のようにAzureの仮想マシンとして、Management ClusterとWorkload ClusterのKubernetesノードが作成されます。
TKGmをvSphereに展開した場合も、下記のようにManagement ClusterとWorkload Clusterの仮想マシンが作成されます。
このように、TKGmを利用することで、プロビジョニングする環境にかかわらず、マルチクラウドでも共通の仕組みでKubernetesクラスタを管理できるようになります。
3. vSphere with TanzuにおけるTKG(TKGs)
TKGをvSphereの仮想化基盤で利用しやすく組み込んだ機能として「vSphere with Tanzu」というソリューションがあり、そこでの TKGは、Tanzu Kubernetes Grid Service、通称として「TKGs」と呼ばれています。こちらは、Tanzu のポートフォリオとしては「Tanzu Basic」から利用できます。
TKGsについては、以前に投稿した下記のブログも参照してください。
vSphere 7 の新機能「vSphere with Tanzu」とは?
TKGsでは、Management ClusterをvSphere クラスタを拡張した「スーパーバイザー クラスタ」に担当させることができ、エンタープライズ環境においてWorkload Clusterを用意しやすくなっています。なお、TKGsで作成されるWorkload Clusterは、「Tanzu Kubernetes Cluster」(TKC)と呼ばれます。
しかし、TKGsとTKGmとでは、実際には相違点もあり、Kubernetesクラスタを用意する手順や、作成されたクラスタにインストールされるパッケージに差分がありました。そして、製品のバージョンについても、異なるラインとなっていました。
ちなみに2022年9月時点では、TKG はバージョン 1.6 が提供されています。一方でTKGsには個別のバージョンが採番されておらず、機能や利用できるKubernetesバージョンについては、vCenter Serverのバージョンに依存していました。
4. Tanzu Kubernetes Grid 2.0 の発表
2022年8月末に開催されたVMware Explore 2022 USでは、VMware Tanzu Kubernetes Grid 2.0が発表 されました。
TKG 2.0は vSphere 8の発表と合わせて紹介されており、今後はTKGmとTKGsの仕組みが共通化されていくようです。Management Clusterについては、従来のTKGmのように仮想マシンで用意することも、TKGsのようにスーパーバイザー クラスタを利用することも可能になると説明されていました。
また、TKGでのKubernetesクラスタのプロビジョニングで利用されている「Cluster API」についても、アップストリームでの改善が取り込まれ、ClusterClass と Managed Topologies といった機能が利用されるようになります。従来は Kubernetesクラスタごとに個別の設定(YAML ファイルなど)を用意する必要がありましたが、テンプレートを利用して同構成のクラスタを多数作成するような作業が簡素化できるようになります。
さいごに
VMware Tanzu Kubernetes Grid は、マルチクラウド環境に対応した仕組みでKubernetesクラスタを管理するディストリビューションです。VMware Tanzu Kubernetes Grid 2.0での改善により、さらにマルチクラウド/オンプレミスでの運用共通化や効率化が期待できるため、エンタープライズ用途でのKubernetesの選択肢として、Tanzu Kubernetes Grid や vSphere with Tanzuをご検討いただければと思います。
VMware Explore 2022 速報レポート
VMware Explore 2022 USでは、本ブログでご紹介したVMware Tanzu Kubernetes Grid 2.0以外にも数多くの新しい発表がされております。イベント開催中の速報レポートは、別ブログ記事でお伝えしておりますので、まだご覧になっていない方は是非以下URLリンクからご覧下さい。
著者紹介
SB C&S株式会社
ICT事業本部 ICT事業戦略・技術本部 技術統括部 第1技術部
渡辺 剛 - Go Watanabe -
VMware vExpert
Nutanix Technology Champion