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Azure Stack HCI とは? ~ Dell が贈るハイブリッドクラウド型 HCI ~

ストレージ / HCI
2023.07.27

皆さんこんにちは。SB C&SDell Technologies社の製品プリセールスを担当しております、湯村です。本記事では、ハイブリッドクラウド型HCI(Hyper-Converged Infrastracture)として注目されている、Azure Stack HCIについてご紹介します。Azure Stack HCIは、様々なハードウェアベンダーのサーバーを基盤として構成することができますが、今回はDell Technologies社のサーバーを基盤とした構成に焦点をあててご紹介します。

HCI についておさらい

HCI とは?

HCIHyper-Converged Infrastructure)のことを知るうえで、3Tier構成の仮想化基盤と比較するとわかりやすくなります。3Tier構成は、サーバー・SANスイッチ・ストレージの各ハードウェアで構成され、仮想化基盤のスタンダードとなっています。ストレージの拡張性をそれほど考慮しない構成であればコストを抑えることができるので、現在も幅広く利用されています。

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しかし、近年の多様化するワークロードや増加する業務トランザクションに比例して、CPUやメモリ等のリソース使用率と共にデータ量も増加する傾向にあり、「3Tierシステムではストレージ拡張時の作業コストが高く、作業自体も複雑であるため、拡張性に限界がある」「より効率よく、ストレージを含めたリソース全体を増やしたい」という企業の声もかなり多くなっています。そこで登場したのがHCIです。HCISANスイッチとストレージの専用ハードウェアを排除し、複数のサーバーのストレージデバイスを仮想的に統合して、単一のデータストア(共有ストレージ)として扱える構成です。リソースが足りなければHCI用のノードを1台追加するだけで簡単に拡張することができます。HCIは拡張性以外にもサービスの継続性・運用管理性に秀でており、3Tier構成で課題となっていたことを丸々解決してくれます。

Dell Technologies の HCI

HCIの根幹であるSDS技術にはハイパーバイザーに予め備わっているものやHCI独自のもの等、様々な種類があります。Dell Technologiesのポートフォリオには4つのHCIがあり、SDSの種類毎に分類すると以下のようになります。

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vSAN Ready Node」「VxRail」は、VMware vSANSDSとして利用されています。vSAN Ready Nodeは様々なハードウェアメーカーのサーバーを基盤としており、ハードウェア・ソフトウェアを自由に組み合わせることができる製品です。また、VxRail"Dell TechnologiesVMwareが共同開発した唯一のHCI" であり、迅速なデプロイ・シンプルな運用管理・自動アップデート等、vSphere基盤のHCIとして最先端を走る製品です。

今回の記事でとりあげるのは、SDSMicrosoftS2DStorage Spaces Direct)を利用した「Azure Stack HCI」です。vSANベースのHCIと何かと比べられやすいAzure Stack HCIですが、一体どのようなHCIなのかご紹介します。

Azure Stack HCI の概要

Azure Stack HCI とは?

Azure Stack HCIを端的に説明すると、「オンプレミスのプラットフォームとMicrosoft Azureのサービスを一緒に使えるハイブリッドクラウド型HCI」です。

一般的なHCIは、オンプレミス環境内で完結しているものが多いですが、Azure Stack HCIはパブリッククラウドでよく知られているMicrosoft Azureと連携し、Azureの各種サービスを利用することができます。つまり、ハイブリッドクラウド型のHCIとなります。

ハイブリッドクラウド型HCIと言われてもイメージが湧きにくいと思います。そんな時は、Azure Stackに関連するソリューションの全体像を把握するとイメージしやすくなります。

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Azure Stack関連ソリューションには、「Azure Stack HCI」だけでなく「Azure Stack Hub」というものがあります。どちらもオンプレミスにハードウェア基盤を設置しますが、Azure Stack HCIが「Azureと連携することで、Azureのサービス・機能をハイブリッドに利用できる」ソリューションであることに対して、Azure Stack Hubは「Azureのサービス・機能をオンプレミスで全て実現する」ソリューションになります。つまり、以下のように分類されます。

  • 完全にオンプレミスだけでAzureサービスを利用する「Azure Stack Hub」
  • 完全にクラウドだけで運用する「Azure」
  • オンプレミスとクラウドのいいとこ取りで運用する「Azure Stack HCI」

このように、Azure Stack関連ソリューションはクラウド環境を導入したいお客様のあらゆる需要を満たしています。システム基盤の移行や刷新を行う際、クラウド基盤を導入することで初期費用を抑えたり、リソースの管理性を高めたいという需要が増えていく一方で、システムによってはオンプレミス基盤で運用しなければならないものもあり、オンプレミス基盤の需要が無くなることは考えにくいです。このような板挟みの状態を解決してくれるのがAzure Stack HCIです。

Azure Stack HCI の特徴

Azure Stack HCIの特徴としては以下のようなものがあります。先に説明したものと一部被りますが見ていきましょう。

特徴① 「Azure "で" 使う」

繰り返しになりますが、Azure Stack HCIはオンプレミスとクラウドの良いところを取ったハイブリッドクラウド型HCIです。オンプレミス側で管理することも、Azure側で管理することもできます。もう少し具体的に言うと、オンプレミス側で管理する際は「Windows Admin Center」、Azure側で管理する際は「Azure Portal」というツールを利用します。どちらもサーバーや仮想マシンの管理等の基本操作を行えますが、主な用途が少し異なります。

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Windows Admin Centerは、Webブラウザを利用してWindows Serverの管理ができる無償ツールです。主に、Azure Stack HCIの初期セットアップやファームウェア・ドライバのアップデートを行う際に使用されますので、ハードウェア側の管理作業を行う目的で使用されます。

一方Azure Portalでは、作成した仮想マシンの管理だけではなく、それらと関連するAzureサービス等のソフトウェア側の管理作業を行う目的で使用されます。Azure Stack HCIを一度導入してしまえば、通常運用はAzure Portalで、定期的な保守作業(拡張・アップデート・トラブルシューティング等)はWindows Admin Centerで行うというように使い分けることが多いです。つまり、通常運用ではAzure "" 使うことが想定されていますので、Azure Stack HCIはAzure Portalから管理を行う前提のHCIと捉えてください。

特徴② 「単一のソフトウェアで作るHCI」

現在、Azure Stack HCIは専用のOSAzure Stack HCI OS」で構成されています。OSの中身はWindows Serverですので、Windows Server純正機能の「Hyper-V」と「S2D」を有効化することでHCIとして利用できるようになります。ここでひとつ疑問が生じる方もいらっしゃると思います。

Azure Stack HCI OSではなく、Windows Server OSで作るHCI"単一のソフトウェアで作るHCI" と同じではないのか?」

たしかに、両者とも構成されているハードウェアが全て同じですのでHCI基盤としては同じものができますが、明確な違いがちゃんと存在します。違いを理解する上で、Azure Stack HCIがリリースされた当時を振り返るとわかりやすくなります。

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Azure Stack HCIがリリースされたのは2019年ですが、当時は専用OSではなく、Windows Server OSを使用してHCIが構築されていましたが、ある時を境に専用OSを使用したHCIがリリースされました。現在、私達が「Azure Stack HCI」と呼んでいるものはこちらを指します。その代わりに、従来のAzure Stack HCIのようなWindows Server OSを使用したHCIを「Windows ServerベースのHCI」と呼ぶようになりました。

では、並行して存在する2種類のHCIには、名称やOSの他にどのような違いがあるのでしょうか?

「運用形態が違う」

Azure Stack HCIは「Azure "" 使う」とご紹介しましたが、Windows ServerベースのHCIは「Azure"一緒に" 使う」ことが想定されたHCIです。しかし "一緒に" といっても、Azure Portalから仮想マシンのプロビジョニングはできず、モニタリング用途として主に使われます。そのため、通常運用ではAzure Portalから管理を行うことは少なく、ほぼオンプレミス側のWindows Admin Centerを使用して管理するといったオンプレミス中心の運用形態になります。

「課金モデルが違う」

Windows ServerベースのHCIで必要になるコストは、ハードウェアコストを除くと「Windows Server Datacenter Edition のライセンス費用のみ(買い切り)」になります。Windows Server Datacenter Editionは、Hyper-V上に構築されたゲストOSのライセンスが不要となるため、仮想マシンが無制限に作成し放題になります。一方、Azure Stack HCIAzure Stack HCI OSとその上で稼働するゲストOSは別々で費用が発生します。Azure Stack HCI OSはサブスクリプション(コア課金)で提供され、ゲストOSのライセンスは個別で用意する必要があります。一見Azure Stack HCIのライセンス費用のほうが高くなりそうですが、Azure Stack HCI OSは「物理コア1つあたり$10/月」といった課金方法であるため、初期費用を抑えることができ、ゲストOSはAzureサービスを利用する時と同様に従量課金(使った分だけ)であるため、運用費用も抑えることができます。

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これら2つの違いの他にも、使用できる機能等に差異があります。簡単にいうと「Azure Stack HCIのほうがWindows ServerベースのHCIよりも、できることが多い」です。詳しくはこちらの比較表をご覧ください。オンプレミス環境のHCI仮想化基盤として運用を行うのであればWindows ServerベースのHCIでも十分ですが、Azure Stack HCIはAzureサービスの恩恵を多く受け取ることができます。

どちらも "単一のソフトウェアで作られる" HCIですが、改めて特徴をまとめると以下のようになります。

  • Windows ServerベースのHCI
    実用的な運用はほぼWindows Admin Centerから行うため、オンプレミス中心の運用モデル。必要なライセンスはWindows Server Datacenterのライセンスのみであるため、かかる費用がシンプルでわかりやすい。一度購入してしまえば仮想マシンを作成し放題。

  • Azure Stack HCI
    通常運用はAzure Portalから行う、クラウド中心の運用モデル。必要なライセンスはAzure Stack HCI OS(サブスクリプション:物理コア1つあたり$10/月)とゲストOS(従量課金)のそれぞれで必要。初期費用も運用費用も抑えられる。

特徴③ 「古いシステムの延命をサポート」

お客様が普段から運用しているシステムには、サポートが終了した古いOSの上で稼働しているものもあります。「サポートが終了しているのはわかっているけど、すぐに新しいOSに移行するのは技術的にも工数的にも難しい...」といったケースも多いのではないでしょうか。Azure Stack HCIはAzureと連携することで、サポートが終了したOSの拡張セキュリティ更新プログラム(ESU)を3年間無償で利用できます。つまり、Azure Stack HCIに移行することで古いシステムを延命することができるのです。対象となるソフトウェアは以下のものになります。

  • Windows Server 2008 / 2008 R2 2024年1月14日まで延長サポート(1年間延長されました!
  • SQL Server 2008 / 2008 R2 2023年7月12日まで延長サポート1年間延長されました!
  • Windows Server 2012 / 2012 R2 2026年10月頃まで延長サポート(※現時点)
  • SQL Server 2012 / 2012 R2 2025年7月頃まで延長サポート(※現時点)

注目するべきは、Windows Server 2012 / 2012 R2の延長サポートについてです。Windows Server 2012 / 2012 R2は2023年10月10日にサポートが終了してしまいます。つまり、このOSで稼働しているシステムが既存環境にあるお客様は、移行先としてAzure Stack HCIを選択することで3年間延命することができるのです。その3年間の間に新しいバージョンへのWindows Serverへ移行させることで古いシステムから新しいシステムへの切り替えが可能となります。

Dell Technologies の Azure Stack HCI「AX シリーズ」

冒頭でもご紹介した通り、Dell TechnologiesAzure Stack HCIは「AXシリーズ」としてHCIポートフォリオの一部を担っています。AXシリーズはDell TechnologiesMicrosoftが共同開発・検証を実施している、認定済みのハードウェアです。国内で圧倒的な導入実績を誇ります。

幅広いワークロードに対応した構成モデル

昨今、クラウドやオンプレミスのどちらかに偏った運用をするのではなく、両者の良いところをバランスよく利用する運用形態が注目されています。Dell Technologiesはいち早くその流れを察知し、様々なワークロードに対応した構成モデルを用意しています。8.png

現在(20237月)、工場出荷されているモデルは4種類あります。15世代PowerEdgeをベースとし、CPUIntelもしくはAMDのどちらにも対応しています。上の表に記載しているものはオールフラッシュモデルのみとなりますが、もちろんハイブリッドモデルもあります。オールフラッシュ構成であればSSD単体だけでなく、NVMe単体もしくはNVMeSSDを組み合わせた構成も可能です。選択できる全てのディスク構成オプションは10構成となり、お客様のどのようなニーズにも合致しやすくなっています。その他詳しいスペック情報についてはこちらのスペックシートをご覧ください。

その他注目する点として、幅広い用途に合ったNVIDIA GPUに対応していることがあげられます。主に2ソケットモデルのAXノードになりますが、オフィス用アプリケーション等に適しているA16に始まり、3D CADOmniverse等のグラフィックス処理を必要とするアプリケーションに適しているA40、そしてAIHigh Performance Computing等の最先端の高度なワークロードに適しているA30に至るまで、想定されるユースケースに全て対応したGPUを搭載することができます。

Dell Technologies ならではの拡張機能

Windows Admin Center」によってハードウェア管理を行うと先ほどご紹介しましたが、Windows Admin Centerには拡張機能があります。その名も「OpenManage Integration with Microsoft Windows Admin Center(OMIMSWAC)」と呼ばれています。少々長い名称ですが、便利な機能なので覚えておくとよいでしょう。 

では、具体的にどのような機能が拡張されたかというと、「OpenManage Integration」とあるように、Dell Technologiesが提供している管理ツール「OpenManageシリーズ」の便利な機能がWindows Admin Centerに統合されているというものです。OpenManageシリーズには様々な製品が含まれていますが、簡単に言うと、「サーバー管理を一元化するツール」として知られています。 

このシリーズの中で一番よく知られているのは「iDRACIntegrated Dell Remote Access Controller)」や「OpenManage Enterprise」があり、Dell Technologies製品を運用されている方であれば一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。 

iDRACはクライアント端末とサーバーをひとつずつ繋ぐため、11で管理するツールです。一方でOpenManage Enterpriseはクライアント端末と複数のサーバーを繋ぐことができるため、1nで管理するツールです。OpenManage EnterpriseはiDRACと連携することができますので、クライアント端末ひとつで複数のハードウェアのiDRACコンポーネントを管理することができます。

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話を戻しますが、OMIMSWACはこのOpenManage Enterpriseの機能がWindows Admin Centerに統合されているというイメージと捉えてください。つまり、Azure Stack HCIのような複数のノードで構成される物理基盤でOMIMSWACを併用すると、全てのノードのハードウェア管理をより効率よく行うことができます。

困ったときに助けてくれる強力なサポート体制

HCIは基盤上に多くの仮想マシンを稼働させているため、ハードウェアやソフトウェアに障害が発生すると、稼働しているサービスにもその影響が及んでしまいます。そのため、サービスがなるべく停止しないように設計することが大切です。しかし、そうはいっても想定外の障害に遭遇してしまうことがあります。その際、迅速に障害から復旧させる必要があります。Dell Technologiesでは、障害復旧にかかる時間を削減できる協力なサポート体制をとっています。

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お客様が運用しているAzure Stack HCIに何かしらの障害が発生した場合、様々な方法でサポート窓口へチケットを発行することができます。電話やメールを使用してお客様主導でDell Technologiesのサーバー保守窓口へチケットを発行することもできますが、Secure Connect GatewaySCGを導入しているのであれば、障害発生時に自動的にエラーを窓口へ送付してくれます。SCGによって通報されたエラーを窓口が受け取ると、サポート担当者からお客様へ連絡およびチケットの発行が同時に行われます。お客様がリアルタイムで障害が発生したことを把握していなくても、初期対応が勝手に行われるため、迅速な障害復旧を可能にしてくれます。 

サーバー保守窓口で解決できなかった障害については、ハードウェア障害であればDell TecnologiesL3エンジニアに、ソフトウェア障害であればMicrosoftL3エンジニアにエスカレーションされますので、お客様はサーバー保守窓口への連絡手段さえ知っていれば、あとはワンストップでサポートを受けることができます。

まとめ

以上、Azure Stack HCIの概要についてご紹介しました。まだまだご紹介しきれていない情報も数多くありますが、本ブログでご紹介した内容で概要を理解できると思います。 

HCIを選択する理由として、「既存の3Tier仮想化基盤を刷新したい」という理由だけでなく、昨今は仮想マシンで稼働するワークロードが多様になってきていますので、「より高いパフォーマンスや管理性が求められる基盤へのシフトチェンジ」が今後の流れになっているのではないでしょうか?その基盤のひとつの選択肢としてAzure Stack HCIは最適なソリューションです。 

また、20231010日にはWindows Server 2012/2012 R2のサポートが終了するというイベントが待ち受けています。現行でWindows Server 2012/2012 R2を運用しているお客様は、これを機に「新基盤へ移行するのか」悩まれていると思います。Azure Stack HCIは昔からあるWindows Serverの純正機能を使用していますので、従来の運用と大きく変わることなくHCIを運用することができます。もちろんAzureの運用管理は新たに慣れる必要がありますが、Azureを使わないのであれば「Windows ServerベースのHCI」を選択すれば問題ありません。 

このように、Azure Stack HCIはオンプレミス環境、クラウド環境、ハイブリッド環境のどのニーズにも応えてくれる万能なHCIです。

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著者紹介

SB C&S株式会社
ICT事業本部 技術本部 第1技術部 2課

湯村 成一 - Seiichi Yumura -