セールスセンター2022.05.10
トラッキングファイルは拒否すべき?リスクや対策を解説
GDPR(EUデータ保護規則)や改正個人情報保護法の影響から、個人情報の取扱いに関する制限が増えています。これには、インターネット上でやり取りされる情報も含まれます。そこで注目すべきが、ブラウザなどに含まれる「トラッキング(追跡)」機能です。
今回は、とある企業のIT部門に所属するセキュリティに精通した中山部長(44歳)と新人セキュリティ担当の石塚さん(24歳)の会話から、インターネット上での個人の行動履歴が含まれるトラッキングファイルについて、基礎知識やリスク、拒否する方法などを学んでいきましょう。
1. トラッキングファイルとは
以前から気になっていたんですが、初めて閲覧するWebサイトであるにも関わらず、自分が過去に検索した化粧品や洋服の広告が出てくるんです。これってWebサイトの運営者に監視されているんでしょうか。
それは、トラッキングという技術で石塚さんのネット上での行動を追跡して、行動履歴に沿った広告を出しているんだよ。
えっ…! じゃあ、やっぱり誰かに監視されているということですか?
監視とは少し違うかな。トラッキングに使用される情報は石塚さん自身が保持していて、第三者に提供しているんだ。
そんな情報を提供した覚えはないのですが…。
確かに、石塚さんには自覚がないかもしれないね。でも、トラッキングをオンにしているということは、そういうことなんだ。ちなみにトラッキングは、いつでも自由に拒否できるよ。
ぜひ拒否する方法を知りたいです!
ではまず、トラッキングの解説から始めようか。
トラッキングファイルとは、閲覧者の行動履歴や属性、個人情報などが含まれるファイルを指します。広告配信などマーケティングのための材料として活用されることが一般的です。
トラッキングとは
トラッキングとは「追跡」を意味する言葉で、Webサイト閲覧者の行動履歴を追跡する施策、または機能のことです。広告配信をはじめとしたWebマーケティングでは、トラッキングの活用を前提としたものが数多く存在しています。
また、トラッキングには以下のようにいくつかの種類があり、それぞれ異なった特徴を持っています。
Cookie(クッキー)
Cookieは、Webページのステータスを管理するために、Webブラウザに記録されるデータです。Web上でのトラッキングは、大半がCookieを使用して行われます。
ブラウザフィンガープリント
ブラウザフィンガープリントは、ブラウザ本体が持つ「OS情報」や「設定情報」をハッシュ値として管理し、その値をもとにブラウザを識別し、トラッキングに活用する技術です。
アプリトラッキング
おもにスマートフォンなどで用いられるアプリトラッキングは、端末内のさまざまな情報をアプリで取得し、トラッキングに活用する技術です。具体的には、位置情報やアドレス帳、センサー、ストレージに関する情報が活用されます。
広告ID
広告識別子とも呼ばれ、こちらもおもにスマートフォンで活用されています。現状では、Android端末の「AAID」とiOS端末の「IDF」があります。ブラウザ単位でトラッキングを行うクッキーとは異なり、広告IDは端末単位でのトラッキングが可能です。
SensorID
スマートフォンに搭載されているジャイロセンサーや加速度センサーから得られるデータを活用し、端末のトラッキングを行う技術です。
トラッキングファイルとは
トラッキングの根拠となる情報が含まれたファイルで、2022年時点では多くの場合において「Cookieそのもの」を意味します。そのため、ここではCookieを活用したトラッキングを前提として解説していきます。
Cookieは、Webサーバーへの初回接続時に、サーバーからクライアントに付与されるデータです。一般的には、Webブラウザ経由でデバイス(PC、スマートフォン)内の指定の場所に、テキストデータとして保存されています。
また、Cookieの内容はWebサイトの性質によって異なります。具体的な例としては、「ユーザー名・IPアドレスなどの接続情報」や「閲覧した商品」「ショッピングカートの内容」「住所・氏名・電話番号など個人情報」などがあげられます。
トラッキングファイルの種類
Cookieを用いたトラッキングでは、「ファーストパーティCookie」と「サードパーティCookie」が使われます。
ファーストパーティCookieは閲覧中のWebサイト(ドメイン)が直接発行するファイルです。これに対し、サードパーティCookieは、閲覧中以外のWebサイト(ドメイン)から付与されたファイルを指します。
ファーストパーティCookieは閲覧中のWebサイト以外のドメインからはトラッキングできないため、これまではサードパーティCookieの活用が主流でした。
サードパーティCookieは、再訪問時や他サイトの訪問時にブラウザからWebサーバーへと提供され、アクセス解析、広告配信、レコメンド表示などに活用されてきました。
なるほど。私のスマートフォンやPCに保存されているサードパーティCookieをトラッキングファイルとして使うことで、私のネット上での行動や入力した情報がWebサイト側に伝わっているということですね。だから初めて訪問するWebサイトに、以前検索した商品の広告が出るのですね。
確かに便利ですけど、よく考えてみれば断りもなく自分の行動履歴や個人情報が使われていると思うと、不安ですね…。
そうだね。普通に考えたら、なぜ勝手に…と不安になってもおかしくないよね。実は、サードパーティCookieをトラッキングファイルとする方法については、既に規制が始まっているんだ。個人情報保護の観点から危険視する声も高まりつつあるからね。
2. 過度なトラッキングから生ずるリスク
近年、個人情報保護の観点からサードパーティCookieの利用を制限する風潮が強まっています。過度なトラッキングによる以下のようなリスクの発生を抑えるためです。
セッションハイジャック
セッションハイジャックとは、Cookie情報に含まれるセッションIDを推測または窃取することでセッションが乗っ取られる状態のことです。
セッションの乗っ取りは「偽の身分証を使用して行動する」ことと同義であり、さまざまな不正・犯罪の温床となります。
個人情報の漏洩
サードパーティCookieを使い続けると、さまざまな情報を断片的に、複数のWebサイトにばらまくことにつながります。とはいえ、どのWebサイトにどのような情報が保存されるのか、閲覧者が完璧に把握することは難しいため、ばらまきを防ぎながら使用し続けることも困難です。
また、断片的な情報を第三者が収集し、メールアドレスやIPアドレスをキーとしてつなげた場合、一意の個人情報になる可能性があるため、情報漏洩のリスクも否めません。
つまり、私が知らないうちに犯罪に加担してしまったり、個人情報が漏れたりするということですか?
悪意を持った第三者が時間と労力をかけてCookieを悪用すれば、不可能ではないね。ただし、Cookie自体は無害なテキストファイルだから、トラッキングを拒否しておけば大きな問題にはならないはずだよ。だから過度に心配する必要はないと思うよ。
よかったです! でも、念のため拒否する方法も知っておきたいです。
3. トラッキングファイルを拒否する方法
ここでは、主要ブラウザにおけるトラッキングファイルの拒否方法を解説します。
ブラウザのトラッキング拒否機能を活用する
SafariのITP(Intelligent Tracking Prevention)
iPhoneでは「設定」アイコンから「Safari」をタップし、「サイト越えトラッキングを防ぐ」をONにします。
また、Macでは「プライバシー」から「サイト越えトラッキングを防ぐ」のチェックをONにします。
FirefoxのETP(Enhanced Tracking Protection)
左上のハンバーガーメニュー(三本線マーク)から「設定」を選択し、「プライバシーとセキュリティ」をクリックします。
遷移後の画面で「強化型トラッキング防止機能」から、トラッキングブロックのレベルを選択します。
「厳格」を選択することで、一般的なトラッキングの大半がブロックされます。
Google Chromeでのトラッキング拒否
ブラウザ右上の3点マークから「設定」を選択します。
遷移後の画面で「セキュリティとプライバシー」を選択し、「Cookieと他のサイトデータ」をクリックします。
以下のように全般設定の画面で「サードパーティのCookieをブロックする」を選択します。
IEでのトラッキング拒否
右上の歯車マークから「セーフティ」を選択します。
次に「トラッキング拒否要求を有効にする」をクリックします。
ポップアップ画面で「有効にする」をクリックします。
広告ブロックツールの活用
広告ブロックツールのなかに含まれるトラッキング拒否機能を活用することでも、トラッキングの拒否は可能です。
セキュリティソフトで定期的にチェックする
セキュリティソフトにも、トラッキング拒否機能が含まれることがあります。「アンチトラック」「トラッキングCookieの検出」といった機能があれば、トラッキング拒否が可能です。
ブラウザでトラッキング拒否設定ができるのですね。今まで気が付きませんでした。
そうだね、GDPR(EU 一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)の影響を受けて、現在使われているブラウザの大半がトラッキング拒否機能を持っているよ。
また日本でも、2022年4月から施行される改正個人情報保護法で、仮名加工情報制度や個人関連情報利用時の本人同意の取得義務などの項目が新設されるから、トラッキング拒否機能もより一般的になっていくだろうね。トラッキング拒否機能とセキュリティソフトを併用することで、トラッキングファイルから発生するリスクはかなり減らせると思うよ。
どちらもすぐに調べてみます!
大切なのは、トラッキングの状況を把握し、管理することだよ。一部のブラウザやセキュリティソフトには、トラッキングファイルに関するコントロール機能が実装されているから、まずはチェックしてみるといいね。
4. まとめ
トラッキングファイルはおもにマーケティングのために使用されてきました。しかし、なりすましや個人情報漏洩のリスクにもつながることから、利用制限が始まっています。
ブラウザの機能とセキュリティソフトの機能を組み合わせながら、トラッキングのリスクとメリットをコントロールしていきましょう。