皆さん、こんにちは。
ワイヤレスブログ第11回では、「DFS」についてお話させて頂ければと思います。
DFSとは「Dynamic Frequency Selection」の略称です。名前からではイメージしにくいため最初に簡単に説明してしまいますと、無線LANで利用する特定のチャネルは、気象レーダーなども利用しており、それらレーダー波を検知した場合には、他のチャネルへ変更する必要があります。この機能のことが「DFS」機能と呼ばれており、この機能の搭載は法的に義務付けられています。
「法的義務で勝手に切り替えてくれる機能があるなら別に気にしなくていいのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、それですと今回のブログが終わってしまいますし、何よりDFSに絡めて無線LAN環境を設計する上で役立つ内容も書いていきますので、もう少しお付き合いいただければと思います。
まずは「電波の干渉」についてお話していきたいと思います。
電波の干渉について
以前のワイヤレスブログ第3回にて、2.4GHz帯と5GHz帯の電波干渉について触れており、『「5GHz帯」の方が「2.4GHz帯」よりも電波干渉が少ない。』と説明しておりました。
確かに2.4GHz帯では電子レンジやBluetooth機器などの電波干渉の原因となるものが多いのは間違いないのですが、5GHz帯におきましても「少ない」というのがポイントで、干渉が全くないわけではありません。ではどんな干渉があるのかといいますと、冒頭で触れました「レーダー波との干渉」の可能性があるのです。
冒頭の話をもう少し具体的に説明しますと、5GHz帯の「W53,W56」では「気象レーダー」や「航空機レーダー」も利用しているため、これらのレーダー波との干渉の可能性があります。またこの帯域を利用する優先権が「気象レーダー」や「航空機レーダー」側にありますため、無線LANで「W53,W56」を利用する際にはレーダーに影響を与えてはいけません。そのための搭載が義務付けられている機能が「DFS」機能です。
具体的にどのような機能かといいますと、
・レーダー波を検知した場合、チャネルを変更し変更前のチャネルは30分間利用停止
・チャネルを切り替えた後に干渉が再度発生しないか1分間スキャンが必要
という内容になっています。つまりレーダー波を検知したアクセスポイントは1分間データ通信が出来なくなります。
5GHz帯のチャネルについて
・・・さて、上記でさらっと「W53」や「W56」という単語が出てきました。ワイヤレスブログの連載をご愛読頂いている皆さんはピンときたかもしれませんが、ワイヤレスブログ第2回で「別の回で紹介します!」としていた内容です。
覚えていただいておりましたでしょうか?
5GHz帯のチャネルはいくつかのタイプに分類されており、すべてがDFS機能必須というわけではありません。下記の表にまとめてみました。
W52、W53、W56の3つのタイプに分けられ、DFS機能が必須かどうか以外にも屋外利用の可否についても違いがあります。屋外利用は2018年6月に条件付きでW52の利用が解放されました。
条件付きの詳細につきましては話が逸れてしまいますので本ブログでは割愛しますが、気になる方は下記総務省のページを参照ください。
https://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/others/wlan_outdoor/index.htm
本ブログで触れておきたいのは、5GHzのチャネル数についてです。5GHz帯では以前は最大19チャネルだったのですが、2019年7月より144chが利用できるようになり最大20チャネルとなりました。
「何だ、チャネルが1つ増えただけか・・・」と思うかもしれませんが、「チャネルボンディング」という点で考えますと、5GHz帯の利用における選択肢が広がっています。
チャネルボンディングについて(メリット編)
チャネルボンディングとは、チャネルを複数同時に利用してデータ通信を高速化する技術です。
例えば、上記5GHz帯の36chと40chの2つを束ねて、40MHz( 20MHz×2 )の帯域として利用することが出来ます。同様に4つのチャネルを束ねて80MHz、8つのチャネルを束ねて160MHzとして利用可能です。
また、8つのチャネルを束ねるチャネルボンディングには「160MHz」と「80+80MHz」の2種類あります。
■ 160MHz
40MHz、80MHz同様に「連続する」8つのチャネルを束ねる方式。
5GHz帯で2パターン作ることができます。
■ 80+80MHz
「連続する」4つのチャネルを「2つ」を利用し「合計8つのチャネル」を束ねる方式。
こちらはもともと4パターンでしたが、144chの開放により7パターンに増えました。
2.4GHz帯でのチャネルボンディングも可能ではありますが、もともと2.4GHz帯では干渉せずに利用できるチャネルが実質3つ(※)であり、うち2つのチャネルで40MHz( 20MHz × 2 )にボンディングした場合、利用できるチャネル数は2つのみになってしまいます。
そのためcisco社でいいますと、2.4GHz帯でのチャネルボンディングをサポートすらしていません。
※日本ではIEEE802.11bにおいてのみ、14chが利用できるため最大4ch利用できる設計も可能です。ですが、日本独自のため14chが利用できない機器もあるようです。
(例:一部海外メーカーのスマートフォンで2.4GHzの14chには接続できない・・・など)
このように5GHzでは、2.4GHz帯に比べて電波干渉が少ない以外にもチャネルボンディングによって通信速度を高速化できるというメリットがあることが分かりました。
しかし、このチャネルボンディングにはもちろんデメリットもあります。
チャネルボンディングについて(デメリット編)
チャネルボンディングの利用する上で理解しておかないといけないデメリットは下記です。
・使用できるチャネル数が減る
・電波干渉の可能性が増える
複数のチャネルを束ねて使用するため、利用可能なチャネル数はどうしても減ってしまいます。
そして電波の干渉・・・はい、ようやく本題と繋がりがみえてきましたね。例としまして52chでレーダー波を検知したケースで考えてみます。
52chをチャネルボンディング無しで利用していた場合には、52chが利用停止になるだけですが、
チャネルボンディングを利用していた場合、52chと一緒に束ねていたチャネルも利用停止となります。
・40MHz(52ch、56ch) → 利用停止!
・80MHz(52ch、56ch、60ch、64ch) → 利用停止!
・160MHz(36ch、40ch、44ch、48ch、52ch、56ch、60ch、64ch) → 利用停止!
また、利用停止後に他のチャネルに切り替わった際に、隣接するアクセスポイントが利用しているチャネル帯と干渉し、通信に影響を及ぼしてしまう可能性もあります。
下記に80MHzチャネルボンディング利用時のDFS切り替わりによる干渉が発生してしまう例を示します。
このようにDFSによる切り替わりを考慮しなかった場合に干渉が発生してしまい、チャネルボンディングを利用した設計が困難になる可能性があります。
DFSを考慮した無線LAN設計について
ではここからは、実際にDFSを考慮した設計についてです。
「1分間であってもデータ通信が止まってしまうのは業務上影響がある。」「DFSの切り替えで他のアクセスポイントの通信にまで影響が出てしまうのは困る」という課題に、どうしたら回避できるのかを考えていきます。
①5GHz帯を使わない
思い切って5GHz帯を使わないという選択肢です。DFS機能が義務付けられているのは5GHz帯だけですので、2.4GHz帯を利用する分にはレーダーの干渉波を気にする必要はありません。
しかし本ブログでも書いてきましたように電波干渉や通信速度の面からも5GHz帯を使いたいという方がほとんどかと思いますので、あまり現実的な選択肢ではないかと思います。
②5GHz帯はW52だけ使う
上記の表にありますように、W52のチャネルではDFS機能は不要のため、こちらもレーダー波の干渉を気にする必要はありません。
ですがやはり、W52のチャネルだけでは4チャネル分しかありませんし、チャネルボンディングもほぼ利用できないといってよいかと思います。
5GHz帯のメリットを充分に発揮するためには選びたくない選択肢です。
③メーカー特有の機能を使う
今まで一言も触れてこなかった選択肢です。(すみません・・・)
cisco社の場合ですと、「Flex DFS」という機能があります。Flex DFS機能を利用することで、上記のようなチャネルボンディング環境において、束ねたチャネル全体を利用停止とするのではなく、干渉したチャネルを特定(今回の場合52ch)し、チャネルボンディングを縮退させることでレーダー波の検知の影響を抑えることが可能です。
そのため、縮退後の隣接するアクセスポイントとの干渉も発生しませんし、チャネル切り替えではないため1分間の事前スキャンも発生しません。
またYAMAHAでは、「Fast DFS」と呼ばれる機能があります。
2つある5GHzの無線モジュールのうち1つを使用してレーダー波のスキャンを常におこなうことで、干渉しないチャネルを把握し、レーダー波の検出時にすぐに切り替える機能になります。
そのため、切り替え後の1分間のスキャンは発生しないため、データ通信断なく利用できます。
ciscoの「Flex DFS」がチャネルボンディングを前提とした機能になっているのに対し、「Fast DFS」はチャネルボンディングを利用していない環境下でも利用できるものになっています。
デメリットとしましては、2つある5GHzの無線モジュールのうち1つをFast DFS「専用」として利用してしまうため、無線端末のデータ通信にこのモジュールは使用することができなくなります。つまり、無線端末の接続台数が少なくなってしまうという側面があります。
このように他にも独自のDFSへの対策機能を用意しているメーカーもありますので、興味がある方は是非調べてみてください。
また、運用後の話となってしまいますが、
頻繁にレーダー波を検知する環境であった場合、どのチャネルで検知されているかを調査しまして、そのチャネルを使用しないようにすることも有効な手段となります。
さて、今回はDFSを中心にお話してきましたがいかがでしたでしょうか。
今回お話しました、DFSや2,4GHz、5GHzの特徴、チャネルの特性を踏まえたうえで快適な無線LANを設計・利用いただける手助けになりましたら嬉しい限りです。
次回の更新をお楽しみに。
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著者紹介
SB C&S株式会社
技術本部 技術統括部 第2技術部 1課
矢野 隆規