
みなさん、こんにちは。SB C&Sの金井です。
本記事では「基礎から学ぶ!HVM 環境構築」シリーズの第2回「HVM Hypervisor と HVM Manager の構築」を解説します。
HVM の核となるハイパーバイザーと管理サーバーの構築方法について学習しましょう。
目次
1. はじめに
1.1 HVM Hypervisor とは
1.2 HVM Manager とは
2. HVM インストール準備
2.1 Ubuntu のパッケージ更新
2.2 Cloud-init によるネットワーク自動設定の無効化
3. HVM ソフトウェアの入手
4. HVM Hypervisor 用パッケージのインストール
5. HPE VM Console での OS 設定
5.1 HPE VM Consoleでのタイムゾーン設定
5.2 HPE VM Console でのネットワーク設定
6. HPE VM Console での HVM Manager インストール
7. HVM Manager の初回アクセス
8. HVM Manager・仮想スイッチの確認
9. HVM Manager の手動起動および自動起動設定
10. まとめ
1. はじめに
第1回の記事で HVM の環境には、HVM Manager と HVM Hypervisor が必要になると説明しました。
今回は、第1回でインストールした Ubuntu を HVM Hypervisor として構築します。KVM に関連する QEMU や Libvirt、Open vSwitch などが使用され、そのうちの 1 台目のホストに HVM Manager を展開します。
1.1 HVM Hypervisor とは
まず、HVM Hypervisor について説明します。HVM Hypervisor はHPE が独自で開発したハイパーバイザーではなく、Linux に標準搭載されている KVM などのオープンソースのソフトウェアで構成されます。KVM に関連する QEMU や Libvirt の他に、Open vSwitch などが使用されます。Ubuntu のリポジトリからこれらのパッケージがインストールされる仕組みです。
第1回の記事で KVM については説明したため、ここでは他の代表的なソフトウェアについて説明します。
QEMU は、仮想マシンの作成・実行を行うためのソフトウェアです。
QEMU だけでも仮想マシンの作成や管理などはできますが、動作が遅いため、KVM と組み合わせることで動作を高速化させることができます。
Libvirt は、仮想化管理用の共通 API を提供するソフトウェアです。仮想環境上の仮想マシンやストレージ、ネットワークなどの管理を一元化することができます。
Open vSwitch は、仮想環境上で使用される仮想スイッチです。仮想マシン間の通信や物理ネットワークとの接続を提供します。
1.2 HVM Manager とは
HVM Manager とは、HVM 環境の管理・運用を行う仮想マシンです。仮想アプライアンスの形で提供されているため、HVM 環境を構成するホストのうち1台にインストールします。
HVM Manager は、2024年に HPE が買収した Morpheus というソフトウェアがベースです。Morpheus は vSphere や KVM などのハイパーバイザーに加え、 Azure や AWS などのパブリッククラウドを一元管理できるソフトウェアです。
HVMでは、 vSphere と KVM を管理できる機能のみが提供されます。Morpheus 本来の機能全てを使用したい場合は、アップグレード版である HPE Morpheus Enterprise Software が必要です。
2. HVM インストール準備
SSH で Ubuntu をインストール済みのサーバーにログインし、HVM ホストとして利用する準備を行います。この作業は、全てのHVMホストで実施します。
2.1 Ubuntu のパッケージ更新
「sudo apt update」を実行しパッケージ情報を更新後、「sudo apt upgrade」を実行し最新のパッケージをインストールします。
この環境では、データストアとして iSCSI 共有ストレージを GFS2 ファイルシステムで使用する予定のため、HWE カーネルのインストールが必要です。
第1回の手順に従っている場合はインストール済みですが、 Ubuntu インストールの際に HWE カーネルを選択していなかった場合は、「sudo apt install linux-generic-hwe-24.04」を実行し、インストールします。
この時点で OS を再起動するため、「sudo reboot」を実行します。
2.2 Cloud-init によるネットワーク自動設定の無効化
インストール直後の Ubuntu では、Cloud-init によるネットワーク自動設定が有効化されています。 HVM Hypervisor のパッケージをインストールする前に、あらかじめ Cloud-init によるネットワークの自動設定を無効化する必要があります。
これにより、ホストが再起動する度にネットワークの設定ファイルが書き換えられてしまうことを防止できます。
Cloud-init によるネットワーク設定を無効化する設定ファイルを作成するため、「sudo vi /etc/cloud/cloud.cfg.d/99-disable-network-config.cfg」を実行します。
「a」を押し、編集モードに入り、「network: {config: disabled}」を追記します。
追記後に、「ESC キー」を押した後、「:wq!」を実行し、保存します。
この時点で設定が正しいことを確認するために、「sudo reboot」を実行し、 OS を再起動します。
再度ログインし、ネットワーク設定( Bonding や IP アドレスなど)が維持されていることを確認するため、「ip -brief address show」を実行します。
3. HVM ソフトウェアの入手
HPE のサイトから HVM のソフトウェアをダウンロードします。
まず、HPE ソフトウェアセンターへアクセスします。
「Go To Download Page」をクリックします。
HVM のダウンロードページに移動します。
ソフトウェアは、現在2種類用意されており、HVM ソフトウェアと HVM Manager のディスクイメージがセットになった「HPE VM Essentials SW image」と、HVM 専用の Ubuntu 24.04 インストーラーである「HVM Installer」をダウンロードすることができます。後者の ISO は、 HVM v8.0.8 から提供開始された新しいインストーラーですが、本記事ではまだ採用していません。
本記事では「HPE VM Essentials SW image」を使用するため、チェックを付け「ダウンロード」をクリックします。
ダウンロードした ISO ファイルを Windows マシンなどでマウントすると、下記のようなファイルが含まれています。
今回使用するのは、赤枠で囲った「hpe-vm_1.0.11-1_amd64.deb」と「hpe-vm-essentials-8.0.8-1.qcow2」です。
ダウンロードした ISO ファイルを HVM ホストとして利用する Ubuntu マシンに配置します。
今回は Tera Term の SCP 機能を使用し、ファイルを転送します。ここでは「ubuntu」ユーザーのホームディレクトリ(/home/ubuntu)に転送します。デフォルトの場合、送信先を空欄にすることでユーザーのホームディレクトリ「/home/ubuntu」に転送します。
転送完了後に、ファイルが保存されたことを確認するため「ls」を実行します。
4. HVM Hypervisor 用パッケージのインストール
HVM ホストとして利用する Ubuntu に、ダウンロードした ISO ファイルに含まれる hpe-vm パッケージをインストールします。これにより、HVM Hypervisor として必要なパッケージや、Ubuntu の OS 設定で使用できる HPE VM Console がインストールされます。
このパッケージは、全ホストに対してインストールを行います。
ソフトウェア ISO ファイルをマウントするための一時ディレクトリとして、「/mnt/iso」を作成します。
「sudo mkdir /mnt/iso」を実行します。
作成したディレクトリにソフトウェアをマウントするため、「sudo mount /home/ubuntu/HPE_VM_Essentials_SW_image_8.0.8_S5Q83-11019.iso /mnt/iso」を実行します。
マウントされているか、確認のため「ls /mnt/iso」を実行します。
HVM Hypervisor をインストールするため、「sudo apt install -f /mnt/iso/hpe-vm_1.0.11-1_amd64.deb -y」を実行します。
5. HPE VM Console での OS 設定
全ての HVM ホストで HPE VM Console(hpe-vm)を起動し、Ubuntu の設定を行います。
5.1 HPE VM Consoleでのタイムゾーン設定
インストールした HPE VM Console を使用し、タイムゾーンを設定します。
HPE VM Console を起動するため、「sudo hpe-vm」を実行します。
以下の画面が表示されるので、タイムゾーンを設定するために「Keyboard Layout / TimeZone」を選択し、Enter キーを押します。
デフォルトの Time Zone が「Etc/UTC」に設定されているため、「Asia/Tokyo」に変更します。
「Asia/Tokyo」に変更後、「Exit」を選択し、Enter キーを押します。
5.2 HPE VM Console でのネットワーク設定
インストールした HPE VM Consoleを使用し、ネットワークの設定を行います。
「Configure Network」を選択し、Enter キーを押します。
「ens192」と「ens193」の設定を行います。
「ens192」を選択します。
「mtu」を選択後、スペースを押し、チェックを入れます。
mtu の値を「9000」に設定後、「Done」を選択し、Enter キーを押します。
「ens193」を選択します。
「mtu」を選択後、スペースを押し、チェックを入れます。
mtu の値を「9000」に設定後、「Done」を選択し、Enter キーを押します。
「Device Type」から「bond」を選択し、Enter キーを押します。
「bond0」のみ設定を行います。
「bond0」を選択します。
「mtu」を選択後、スペースを押し、チェックを入れます。
mtu の値を「9000」に設定後、「Done」を選び、Enter キーを押します。
「Save」を選択し、Enter キーを押します。
確認が入りますが、「Yes」を選択し、Enter キーを押します。
処理完了後にメッセージが表示されます。
「OK」を選択し、Enter キーを押します。
「Exit」を選択し、Enter キーを押します。
確認が入りますが、「Yes」を選択し、Enter キーを押します。
HPE VM Console に戻るので、「Exit」をクリックし、終了します。
他の2ホストも同様に「5-1 タイムゾーン設定」および「5-2 ネットワーク設定」を行います。
6. HPE VM Console での HVM Manager インストール
1台目の HVM ホストの HPE VM Console を使用し、HVM Manager のインストールを行います。この手順により、KVM 上の仮想マシンとして HVM Manager がインストールされます。
HPE VM Console が起動されていない場合は、「sudo hpe-vm」を実行します。
「Install VME Manager」を選択し、Enter キーを押します。
以下の項目を入力した後に「Install」を選択し、Enter キーを押します。
- VM Config Options
- IP Address:172.22.15.40
- Netmask:255.255.255.0
- Gateway:172.22.15.1
- DNS Server:172.22.15.100
- Appliance URL:https://172.22.15.40
- Hostname:hvm-mgr
- Admin User:admin
- Admin Password:Hpevme1!
- Confirm Password:Hpevme1!
- Image URI:file:///mnt/iso/hpe-vm-essentials-8.0.8-1.qcow2.gz
- Select VM Size:Small
- Host Config Options
- Management Interface:bond0
- Use Compute VLAN?:チェックあり(任意)
- Compute Interface:bond1
- Compute VLAN Tag:2215
以下のように HVM Manager のインストール進行状況が表示されます。
100%に到達後、 HVM Manager のインストール完了メッセージが表示されます。
「OK」を選択し、Enter キーを押します。
インストール完了後に、使用した ISO のアンマウントを行うため、「sudo umount /mnt/iso」を実行します。
アンマウント後に、ディレクトリも削除するため、「sudo rmdir /mnt/iso」を実行します。
7. HVM Manager の初回アクセス
構築した HVM Manager へアクセスし、初回ログインの処理を行います。
※この章で入力する値は、全て任意の値です。
HVM Manager インストール時に設定した Appliance URL にブラウザでアクセスします。
マスターテナントの作成で以下を設定し、「次へ」をクリックします。
- 名前:admin
マスターユーザーの作成で以下を設定し、「次へ」をクリックします。
- 名:admin
- 姓:admin
- メール:admin@example.com
- パスワード:Hpevme1!
初期セットアップでは以下の設定をし、「次へ」をクリックします。
- アプライアンス名:hvm-mgr
ライセンスを入力し、「セットアップ完了」をクリックします。
評価版ライセンスの場合は、空欄のままでも利用可能です。
セットアップ完了後、HVM Manager を操作できるようになります。
8. HVM Manager・仮想スイッチの確認
HVM Manager が正常に稼働していることを確認するため、「sudo virsh list --all」を実行します。
HVM Manager のインストール時に Management 用と Compute 用のスイッチが作成されます。
それぞれの Interface が「bond0」、「bond1」に設定されていることを確認するため、「sudo ovs-vsctl show」を実行します。
9. HVM Manager の手動起動および自動起動設定
デフォルトでは、HVM Manager 仮想マシンはKVM ホスト起動時に自動起動しません。
手動で HVM Manager 仮想マシンを起動するには、仮想マシンが起動していたホストにログインし、「sudo virsh start hvm-mgr」を実行します。
実行例での HVM Manager 仮想マシンの名前は、「hvm-mgr」です。
ホスト起動時に HVM Manager を自動起動するために「sudo virsh autostart hvm-mgr」を実行します。
正しく設定されているかを確認するため、「sudo virsh list --autostart」を実行します。
一覧に「hvm-mgr」が表示されていることを確認します。
10. まとめ
今回は、HVM Hypervisor と HVM Manager の構築をご紹介しました。次回は、HVM クラスターを構成するための手順をご紹介します。次回の更新を楽しみにお待ちください。
HVM 構築ブログ第1回はこちら
著者紹介

SB C&S株式会社
ICT事業本部 技術本部 技術統括部 第1技術部 2課
金井 大河 - Taiga Kanai -