
みなさま、こんにちは。植木です。
前回までの記事では、Maestro を構成する各BPMN要素の使い方、個別要素の実装設定、
そしてプロセスの運用フェーズで押さえるべきポイントをご紹介してきました。
本記事では、これまでの学習内容をベースに、簡易的な業務プロセスを題材として取り上げ、
Maestro で「1 つのプロセス」として実装していく方法をご紹介します。
BPMN要素のリファレンス・個別実装・運用機能の詳細は、以下の記事をご参照ください。
【UiPath Agents】Maestro BPMN要素リファレンス
【UiPath Agents】Maestro プロセス実装ガイド
【UiPath Agents】Maestro プロセス運用ガイド
※本記事は、2026年5月時点の情報をもとに作成しております。
目次
1. はじめに - 想定する業務シナリオ
1-1. 本記事のテーマ:エース社員の"仕事の進め方"を組織の資産に
Maestro が実現できるのは、業務の効率化だけではありません。
優秀な人の仕事の進め方そのものを資産化し、
組織の誰もが自然に再現できる状態をつくることも可能です。
本記事では、この活用方法にフォーカスしてご紹介します。
1-2. 題材:BtoB 営業サポートプロセス(営業伴走プロセス)
本テーマの題材として、「営業 × 営業事務 × AI × RPA」による営業伴走プロセスを取り上げます。
優秀な営業事務の気遣いや段取りを Maestro で実装し、
「あの人しかできない」を「組織の誰もができる」に変えていくことを目指します。
1-3. 想定シナリオの課題
今回の題材では、次のような課題があることを想定します。
・営業が商談準備に追われ、顧客対応の質が落ちる
・優秀な営業事務の対応が属人化している
・新規と既存で準備内容が違うのに、仕組みは共通化できていない
・顧客フォローが担当者任せで抜け漏れが発生する
これらはいずれも、単純な「作業の自動化」では解決しきれない、 業務の"進め方"に根ざした課題です。
1-4. 従来の RPA/ワークフロー製品では解決できない理由
実はこれらの課題は、従来の RPA やワークフロー製品が苦手としてきた領域でもあります。
それぞれの特徴を整理すると、以下のような構造的な限界が見えてきます。
| 業務の特徴 | 従来ツールの限界 |
| 開始イベントが複数ある | シナリオが開始イベントごとに分散 |
| 数日~数ヶ月の長期プロセス | 長期待機の管理が苦手 |
| AI・人・RPA が交互に入れ替わる | 役割の切替が設計困難 |
| 例外対応が業務の本質 | 例外フローが後付けになりがち |
だからこそ、人・AI・RPA を一つのプロセスとして束ねられる "Maestro" の出番となります。
1-5. エース営業事務の"段取り"をBPMN要素にマッピング
では、Maestro で実際にどう表現していくのか。
まずは、エース営業事務が自然にこなしている"段取り"を一つずつ洗い出し、
それぞれに対応するBPMN要素を当てはめていきます。
この対応づけこそが、"仕事の進め方"をプロセスとして資産化するための第一歩です。
| エースの所作 | Maestro 要素 |
| 問合せを見た瞬間に企業情報を調べる | AIエージェント(企業情報リサーチ) |
| 既存顧客の過去取引・担当者交代を先に共有 | サービスタスク+AI 要約 |
| 案件タイプ別に必要な材料を揃える | 排他的ゲートウェイ+タイプ別処理 |
| 提案書ドラフトを用意 | AIエージェント(提案書生成) |
| AI 成果物の品質を人がチェック | ユーザータスク+ループ構造 |
| 営業レビューが滞留したら声かけ | タイマー境界(中断なし) |
| 商談後すぐのお礼・議事録整理 | AIエージェント(議事録要約) |
| 数日後にさりげなくフォロー | タイマー中間イベント |
これらの要素を、実際の業務の流れに沿って一つのプロセスとして束ねていくと、
どのような全体像になるのか、次のセクションで具体的に見ていきます。
2. プロセスの全体像
2-1. BPMN全体図(シンプル版)
※取り組みやすいように、細かい例外処理などは含めていません。
まずは全体像をつかみながら、Maestroの機能を確認してください。
2-2. 登場するBPMN要素一覧
- メッセージ開始イベント/手動開始イベント
- 並列ゲートウェイ
- 排他的ゲートウェイ
- AIエージェント/サービスタスク/コールアクティビティ/ユーザータスク/送信タスク/RPA ワークフロー
- タイマー境界(中断なし)イベント/タイマー中間イベント
- 終了イベント
2-3. 完成ファイル
本記事で作成するMaestroのプロセス(AIエージェントやRPAなどを含むソリューションファイル)は、
以下よりダウンロードできます。
ご参考にしてください。
※メールやチャットツールへのコネクションは未設定です
ファイル名:Maestro_営業サポートプロセス_配布用.uis
3. 開始イベントと顧客カルテ生成
※本記事では、文字数や再現性の都合上、AIエージェントやRPAワークフローなどは
すべてダミーを使用していますので、ご了承ください。
3-1. 開始イベント①:新規問合せ(メールのメッセージ開始)
問合せ専用メールボックスへの新着を起点に、プロセス開始
※補足:メールのフィルター条件も設定可能
3-2. 開始イベント②:既存顧客(チャットのメッセージ開始)
指定のチャネルにメッセージが投稿されたらプロセス開始
チャットもフィルター条件を設定可能
3-3. 企業名確認(新規・既存)
AIエージェントでメール本文やチャットの本文から企業名を抽出
新規問合せと既存顧客で開始イベントが異なるため、それぞれのケースに対応させたタスクを作成
※注意:AIエージェントやRPAで使用可能な変数名は英数字のみ!
(変数名に漢字やひらがなを使用するとMaestroのプロセス上で不具合が発生します)
既存顧客のケースも同様に作成します。
3-4. 開始条件に合わせて分岐
新規問合せの場合、既存顧客の場合、例外ケースの場合の、3分岐を作成
ここでは一例として、次の通り分岐条件を設定します。
・新規問合せ:「新規問合せルートの企業名確認エージェント」の出力が空白ではないとき
・既存顧客:「既存顧客ルートの企業名確認エージェント」の出力が空白ではないとき
・例外:条件は空白で「既定のパスにする」にチェックを付ける
3-5. 新規問合せの場合:企業情報リサーチ
AIエージェントで企業情報をリサーチ
3-6. 既存顧客の場合:取引履歴確認
RPAで取引履歴を確認
3-7. 例外の場合:例外処理用のRPAを実行
例外処理用のRPA(ここではテスト用RPA)を実行
3-8. 顧客カルテ作成
共通フォーマットを作成し、以降はこれを利用する。
4. 案件タイプ別の事前準備と提案書作成
4-1. 案件タイプによる分岐(今回は一例として3分岐のみ)
| 案件タイプ | 使用要素 | 準備内容 |
| 新規 | サービスタスク | RPAで会社案内・事例集の準備 |
| 追加提案 | AIエージェント | AIエージェントでクロスセル候補抽出 |
| 更新 | コールアクティビティ(エージェンティックプロセスを開始して待機) | サブプロセスの更新見積作成プロセスを呼び出し |
※以下は、「顧客カルテ生成エージェント」が出力した案件タイプが「新規」のとき、という想定です。
他の分岐条件も同様に設定します。
※分岐先の各アクティビティの詳細設定は、これまでと同じ形式のため省略します。
4-2. 提案書ドラフト作成
AIエージェントで提案書のドラフトを作成
4-3. 提案書ドラフトレビュー
AIエージェントが作成したドラフトを担当者が確認・修正
※ユーザータスクでは担当者または担当グループを設定することに注意
5. 営業レビュー・商談・フォロー
5-1. 営業担当レビューとリマインド
ユーザータスクにタイマー境界(中断なし)イベントを設定し、一定期間処理が進まなければリマインド
ここでは、2日経過後に営業担当者へチャット通知、3日経過後に事務担当者へチャット通知を、
それぞれ設定しています
■ユーザータスク(営業担当者レビュー)
■タイマー境界イベント(中断なし)(2日後にリマインド)
※3日経過後に事務担当者へ通知するタスクも同様に作成します
■送信タスク(teamsのチャネルへ通知)
5-2. 商談実施待機と議事録登録
商談実施はユーザータスクで待機し、営業が議事録を登録するとタスク完了→次工程へ
5-3. 商談実施有無による分岐
| 分岐 | 処理 |
| 商談実施 | AIエージェントでお礼メール作成・報告書作成 / RPAで顧客管理システム更新 |
| 商談未実施 | 問合せ履歴のみ登録 |
■商談実施/未実施の分岐(ユーザータスクの出力に合わせて分岐条件を作成)
■商談実施後の「AIエージェントでお礼メール作成・報告書作成 / RPAで顧客管理システム更新」は並列ゲートウェイで作成
■商談未実施の場合は「問合せ履歴のみ登録」後、プロセス終了
5-4. 数日後のフォローアップ
タイマー中間イベントで7日間待機後、フォローアップ プロセスを実行
■タイマー中間イベント(7日間待機)
■コールアクティビティ(フォローアップ プロセスを実行)
6. ヒートマップで見るボトルネック分析
6-1. ヒートマップで見るべきポイント
- どのタスクで滞留時間が長いか
- どの経路が多く通過/あまり通らないか
- 例外経路(エラー境界・タイマー境界)の発火頻度
下図の例では、「事務担当者のレビュー」で滞留していることが分かります。
この場合、たとえば提案書の品質を向上させるためにプロンプトやデータを見直すなど、
改善策を検討することができます。
6-2. ※参考:よくあるボトルネックと改善の方向性、KPI 設定の一例
| ボトルネックの例 | 改善の方向性 |
| 提案書の品質 NG が多発 | プロンプトテンプレートの見直し・RAG 強化 |
| 営業レビューの滞留 | タイマー期間の調整・担当者アサイン見直し |
| 更新経路の遅延 | 更新見積サブプロセスの最適化 |
| 情報不足差戻しが頻発 | 企業情報リサーチ・CRM 履歴取得の拡充 |
| SLA 超過が頻発 | タイマー期間の再設定・AI 性能の見直し |
■KPI 設定の一例
- プロセス全体のリードタイム
- 各タスクの平均所要時間
- 例外発生率(エラー境界/タイマー境界の発火割合)
- 商談実施率(実施終了/情報登録終了の比率)
まとめ
今回の記事では、取り組みやすさを重視して、プロセスを大幅に簡略化してご紹介しました。
ぜひご自身のプロジェクトの運用ルールに合わせて、応用バージョンを作成してみてください。
Maestro を活用すれば、"作業の自動化"にとどまらず、
"仕事の進め方そのもの"をプロセスとして資産化し、
組織の標準能力に引き上げることができます。
長期・複雑・例外ありの業務であっても、1つのプロセスとして見通しよく扱える点が大きな強みです。
みなさまの業務にあてはめる際の、設計のヒントになりましたら幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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著者紹介
SB C&S株式会社
ICT事業本部 技術本部 第1技術統括部 第2技術部 3課
植木 真
