
はじめに
みなさん、こんにちは。SB C&Sの加藤です。
現在、6月2日~3日にかけて米国サンフランシスコで行われた開発者向けカンファレンスに参加しています。せっかくなので、今年のMicrosoft Build 2026のキーノートにおける重要発表を私なりにダイジェストにしてみました。非常に多くの発表があるためすべては網羅しておりませんが、インフラ、AIモデル、ガバナンス・セキュリティ、そして新業務エージェントの4つの観点に分けてまとめてみました。
※以下内容は可能な限り正確性を重視して書いておりますが、6月2日現在の情報であり、将来においても製品の内容やリリースを保証するものではありませんのでご了承ください。
1. インフラ領域:ローカルへの回帰と新たなデバイス戦略
AIエージェントを動かす「足回り」となる領域では、クラウドに頼り切らないローカル処理の強化と、エッジデバイスへの積極的な取り組みが発表されました。
新たな Unmetered Intelligence 戦略
従量課金なしのインテリジェンス戦略として、ローカルLLMの領域が大きく強化されます。具体的には、ローカルでのエージェント処理に特化した新しいモデル「Aion(アイオン) Instruct」および「Aion Plan」が発表されました。従来の汎用SLMである「Phi」がどこでも動くモデルであるのに対し、AionはWindows OSやEdgeブラウザに内蔵されることに特化した、さらに軽量・小型なモデルという棲み分けになります。
Surface Laptop Ultra /Devbox
Nvidiaとの強固なパートナーシップを象徴するハードウェアとして、今秋発売予定のSurface Laptop Ultraと開発者向けのDevBoxが紹介されました。先日発表されたNvidiaによるPC向けの新SoC「RTX Spark」を搭載した、まさにモンスターマシンです。ARMベースのアーキテクチャを採用し、20のCPUコアと128GBのメモリを搭載しています。基調講演には、同時期に開催中のComputex台北からNvidiaのジェンスン・フアンCEOがライブ出演し、両社の極めて良好な関係がアピールされました。(上:Surface Laptop Ultra / 下: DevBox)

Project Solara:AIコンパニオンデバイス向けプラットフォーム
PCの枠を超えた「エージェントファースト」な専用デバイス群のための新プラットフォーム「Project Solara(ソラーラ)」が発表され、会場を沸かせました。まずは、QualcommやMediaTekとの協業からプロトタイプが作られており、展示会場ではMediaTek製の卓上コンパニオンデバイスや、Qualcomm製の手のひらサイズのコンパニオンデバイスなどのリファレンス機が披露されています。利用シーンとしては、スケジュール管理や、医療現場でのハンズフリーな受付業務など、B2B用途での実用化を想定して展開されるようです。
2. AIモデル / エージェント領域:フロンティアモデルの内製化
AIの「頭脳」にあたるモデル領域において、Microsoftの自社開発への戦略的シフトが明らかになり、エージェント専用の情報収集APIも登場しました。
自社開発モデル「MAI(エムエーアイ)」ファミリー
4月に行われたMicrosoftとOpenAI間の非独占化の契約更新に伴い、自社開発フロンティアモデル「MAI」が大々的に公表されました。この内製化プロジェクトを主導している元DeepMindのムスタファ・スレイマン氏が登壇し、以下のラインナップのリリースを宣言しています。今後、OpenAIへの依存を少なくしていく方針が見て取れます。
・MAI-Thinking-1
・MAI-Code-1 (および軽量版の MAI-Code-1-Flash)
・MAI-Image-2.5 (および軽量版の MAI-Image-2.5-Flash)
・MAI-Transcribe-1.5
・MAI-Voice-2 (および軽量版の MAI-Voice-2-Flash)
・医療用マルチモーダル基盤モデル (MicrosoftとMayo Clinic共同開発)

Web IQ
Foundry IQ、Fabric IQ、Work IQといった既存のファミリーに、新たに「Web IQ」が加わりました。これは、人間がブラウザで「ググる」ことを前提とした従来のWeb検索とは異なり、AIエージェント自身が自律的にWebを検索し、情報をまとめやすくするための専用の仕組み(API)となります。
3. ガバナンス・セキュリティ領域:「ハーネス(安全帯)」の提供
エージェントが自律的に動作する時代において、システムを安全に制御する仕組みが不可欠ですが、安全にデータを守るために、Windowsレベルでの防御機能の発表が行われています。最近の流行りでは、ハーネスと呼ばれています
MXC: Microsoft Execution Container
マイクロソフトは、エージェントを安全に隔離して動かすための「エージェントサンドボックス」の自前構築を開始しました。主な隔離方法はVM/コンテナ/セッション/プロセスの4種類があるのですが、新発表の「MXC」はWindowsOSがその隔離方法と、ファイルシステムへのアクセスなどを定義できるOS自体に組み込まれる新しい仕組みとなります。コンテナと名前がついているのでややこしいですが、基本的にはサンドボックスをコントロールするコンテインメントと呼ばれるセキュリティ領域です。また、他社のアプリケーションが使ってくれないと意味がないのですが、Nvidiaの「OpenShell」やOpenAIのエージェントも、このMXC上で安全に実行していくエコシステムが構築されている模様です。
OpenClaw on Windows
上記MXCによってWindowsネイティブでのサンドボックス実行環境が整備されたことに伴い、話題の技術「OpenClaw」についてもWindowsネイティブでのプレビューが開始されました。
Agent 365 SDK
エージェントの登録や権限割当(Entra ID)、監査ログの閲覧などを行う「Agent 365」という製品に関して、その機能をサードパーティに組み込むための開発者キットが発表されました
4. 業務エージェント領域:自律型エージェントへの応用
強力なインフラと安全な実行環境を統合した結果として、マイクロソフト社らしい新しい業務エージェントが発表されました。
新業務エージェント Microsoft Scout(スカウト)
Microsoft 365(Teams、Outlook、OneDriveなど)と連携して自律的に働く初の「常時稼働型・長期実行型エージェント」の発表がありました。このScoutの基盤には、先述したOSネイティブのサンドボックス「MXC」や「OpenClaw」の技術が応用されており、セキュリティを担保した状態でのMicrosoft 365の自律実行という大きな流れを形作っています。
おわりに
長文でしたが最後までお読みいただきありがとうございました。上記の発表以外にもAzureの基盤となるAIアクセラレータのMaiaや量子コンピュータチップのMajorana、AI for Scienceなど幅広い発表が行われていましたが、より正確な情報を知りたい方はMicrosoft Build 2026 公式サイトをご確認ください。
最後に、今年のBuildは単なる新機能やコンセプト発表の場にとどまらず、サティア・ナデラCEOの発表を通じて、MicrosoftがAIエージェントとどう向き合うかという方向性や戦略が色濃く示される非常にエキサイティングな内容だと感じました。一言で要約すると、「安心してAIエージェントを実行してもらえる環境(ハーネス)をMicrosoftが準備している」という強力な宣言だとも感じました。
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著者紹介
SB C&S株式会社
ICT事業本部 技術本部 第1技術統括部 第2技術部
加藤 学
