みなさん、こんにちは
SB C&S 技術担当の小川です。
最近のONTAP製品では『DataFabric』という言葉が出てきたようにデータを主眼に置いた様々なソリューションがリリースされていますが、「コストパフォーマンスと性能が良いファイルサーバがほしい」というニーズもまだまだあります。しかしONTAPでファイルサーバを設計するにあたり「何を知っておけばファイルサーバを設計できるの?」ということがイメージできない方もいらっしゃるかと思います。
そこで今回は「性能が良いファイルサーバをエントリモデルで利用する」ということを目標にAFF C190というAll Flashのエントリモデルを例にファイルサーバの設計にご利用いただける情報を全5回にわたって紹介します。
今回はストレージの構成と容量について紹介します。
AFF C190でファイルサーバを構築するメリット
「ファイルサーバを作るのにAll Flashストレージ?」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、AFF C190をファイルサーバとして利用する場合、性能以外にも様々なメリットがあります。
▶重複排除・圧縮による容量の効率化
「All Flash=金額が高い」と思われる方も多いかと思いますが、Flashデバイスの単価の低下だけでなく重複排除・圧縮により実際の物理容量よりも多くのデータを格納することが可能です。そのため容量単価で見た場合には必ずしも高価になるということもなく、且つ高パフォーマンスのファイルサーバを実現することが可能になります。
▶乱立するファイルサーバの集約
これまで部門ごとに複数の物理サーバでファイルサーバを構築している場合、ONTAPのSVM(Storage Virtual Machine)により既存のIPアドレスやFQDN情報を維持したまま1つの筐体に統合することが可能です。ただし、ただ統合するだけでは性能が心配かと思いますがAFF C190を選ぶことにより高い性能の統合されたファイルサーバを実現できます。
▶耐障害性の担保
これまでの物理サーバのファイルサーバで耐障害性を担保する場合、OS内蔵のクラスタリング機能やクラスタ専用のソフトウエアをインストールし構成する必要がありました。1つのファイルサーバを構築するだけでも2台のサーバが必要になります。これをAFF C190に変えた場合、1筐体にストレージコントローラが2台搭載されており、コントローラ障害時にフェイルオーバーが実行されるため、コストを抑えた耐障害性を実現します。
▶SnapshotやSnapMirrorによるデータ保護
ファイルサーバを利用する際にユーザが誤ってファイルを消してしまうことや上書きしてしまうこともしばしばあるかと思います。そのような事態に備えSnapshotを取得しておけば、ある特定の時間の状態にデータを戻すことが可能です。ファイルのリストアはユーザ単位で実施することもできます。
さらにONTAP製品がもう1台あれば遠隔レプリケーションであるSnapMirrorが利用できるため筐体障害があった場合でもデータが保護されます。なおSnapMirrorを行う場合はソフトウエアのみでONTAPが動作する「ONTAP Select」を宛先に利用することも出来るのでコストを抑えたデータ保護も可能です。
ファイルサーバの設計の情報を紹介する前にAFF C190について簡単に紹介します。
AFF C190はパフォーマンス重視のAll FlashモデルであるAFFシリーズのエントリモデルにあたります。
必要搭載ユニット数が2Uというコンパクトな筐体に最大24本のSSDが搭載可能になっています。
簡単に利用できることを目的とし、使用できるSSDは960GBのみ、モデル当たりのSSDの拡張可能本数を24本(シェルフの追加は不可)といったように構成を限定することで、より容易に導入できることを目的としたモデルになっています。
AFF C190の詳細はNetApp社の データシート をご確認下さい。
ファイルサーバの設計においてハードウェアの設計や容量を設計する際には以下のポイントをお客様に確認し設計します。
●ファイルサーバにアクセスするユーザ数
●ファイルサーバの耐障害性の考慮
●容量の算出
●重複排除・圧縮の考慮
●将来の拡張性
それぞれの設計のポイントについて詳しく説明します。
ファイルサーバを構成するにあたり重要になるのは容量だけではありません。「どのくらいのユーザ数で使えるか?」ということを明確にしサイジングやハードウエアモデル選定を行います。
NetApp社がパートナー様向けに提供しているサイジングツールではユーザ数、ユーザ毎の容量、同時接続割合などを用いてサイジングが可能です。
例えば今回紹介しているAFFC190では1ユーザ当たり2GBの容量、Heavyワークロードで同時接続割合50%でサイジングを行うと12000ユーザで利用できることがわかります。このサイジング結果ではでコントローラの負荷は10%を満たないためコントローラの性能要件についても問題ありません。12000以上のユーザ数でサイジングツールを実行した場合でもコントローラ負荷は問題ないのですが容量が足りなくなり別のモデルが選定されます。
またNetAppではそれぞれのモデルで最大数が決められています。以下、AFF C190をファイルサーバとして利用する際に参考となる数値をNetApp Hardware Universeから抜粋しました。
サイジングツールの結果で容量やユーザ数が問題なくても以下の数値を超えないようにサイジングが必要です。
項目
最大値
SMB最大共有数
60000
SMB最大コネクション数
800000
SMB最大オープンファイル数
600000
ビジネスで利用される ファイルサーバは例えハードウエアに障害が発生したとしてもビジネスを継続するためにアクセス可能なことが求められます。 そのためにはハードウエアの冗長構成を考慮する必要があります。また、障害発生時の運用の要件を確認する必要があります。
AFF C190のコントローラは必ず2台で構成され、標準構成で冗長化されています。その2台のコントローラでActive-ActiveかActive-Stanbyを構成出来ます。
Active-Active構成では両方のコントローラを使用しファイルサーバへのアクセスが可能です。コントローラ障害時には片方のコントローラで2つ分のコントローラが動作する縮退運用のイメージです。
Active-Stanby構成は片方のコントローラを使用し、コントローラ障害時でも同じパフォーマンスで動作する構成です。
それぞれの構成の利点は以下になります
ファイルサーバ用途であればコントローラへの負荷は少ないため容量効率を考えたActive-Standby構成でも問題ありませんが、余裕のある容量サイジング可能であればネットワーク負荷を分散できるActive-Active構成がおすすめです。
AFF C190の初期設定後のデフォルトの設定はこの2台のコントローラでActive-Active構成が組まれます。それぞれのコントローラにデータパーティションがアサインされ双方のコントローラを使用したシステムになります。
Active-Stanbyを構成するに は初期設定時に構成する必要があります。なお、運用中の構成変更はできないため事前にヒヤリングし構成を決めて下さい。
ONTAPの特有の設定として、コントローラのActive-Active構成もしくはActive-Stanby構成に伴いデータを保存するSSDの領域をどのコントローラに割り当てるか決める必要があります。
SSDの領域のコントローラへの割り当ては運用時での設定変更は膨大な作業を伴うため推奨しません。そのため初期設定時を行う前に要件を必ず決める必要があります。
SSDはそのままコントローラにアサインされるのではなくADP(Advanced Data Partitioning)により1つのSSDが複数のパーティションに分けられコントローラにアサインされます。
パーティションはOSなどの領域であるRoot Aggregate用パーティションとデータを保存するためのData Aggregate用のパーティションが構成されます。
Root Aggregate用パーティションは必ずそれぞれのコントローラにアサインされます。
Data Aggregate用のパーティションはコントローラのActive-Active構成かActive-Stanby構成のどちらを構成するかによって設計時にアサインするコントローラを決めます。 Active-Active構成では両方のコントローラに割り当て、Active-Stanby構成ではどちらか一方のコントローラに割り当てます。
コントローラへのパーティションのアサインの例として24本搭載時のパーティションのアサインのイメージを以下に示します。
【Active-Active構成のパーティションアサインの例】
※AFF C190の初期設定時のデフォルト構成の場合はData Aggregate用にスペアが構成されないため手動でスペアを構成する必要があります。
【Active-Standby構成のパーティションアサインの例】
※データパーティションの片側のコントローラのみにアサインする場合はRAIDグループ当たりの最大本数を手動で増やす必要があります。
AFF C190は最大24本のSSDを搭載可能です。 エントリモデルであることから構成を簡単にするためにディスクシェルフ用いた容量の拡張はサポートされていません。1筐体で搭載できる本数=最大本数 となっています。筐体以上の容量を追加する場合は後述の『容量の拡張』をご確認ください。
使用できるSSDも他のモデルと異なり960GBの容量のSSDのみ使用可能です。
ファイルサーバ設計するにあたり重要になるのは使用する容量になります。保存する容量は現時点で必要な容量と今後必要な容量を考えます。
保存する容量 = 現在必要な容量 + 今後必要な容量
これに加えデータ保護を目的としたSnapshotで利用する容量を追加します。
Snapshotの容量は日頃のデータの変更差分を把握できれば取得する世代の容量を確保すれば良いです。
例えば日頃の変更差分が100GBの場合で7世代取得するのであれば700GB、少し多めに見積もるのであれば1TBのように考えます。
ただし、日頃の変更差分がわからないことが多いと思うので弊社での見積もりはストレージの実効容量の20%確保させていただいています。言い換えると保存する容量の20%を上乗せした容量を追加するということになります。
また、性能劣化を防ぐために空き容量を確保するようにメーカが推奨しています。そのため弊社から見積もる際は10〜20%多めの容量で見積もりをしています。言い換えると保存する容量にSnapshot容量を加えた値の10〜20%を加えた値となります。
以上を踏まえた計算式は以下のようになります。
必要な容量=(現在必要な容量+将来必要な容量)+ [Snapshot容量] + [パフォーマンス維持のための空き容量]
【計算例】
・現在必要な容量:5TB
・将来必要な容量:5TB
・Snapshot容量:保存する容量に対しての20%確保
・空き容量:Snapshotを含めた全体容量の20%確保
必要な容量=5TB + 5TB + 2.5TB(10TBの20%) + 3.125TB( (保存する容量 + Snapsho容量) の20%) = 15.625TB
参考値としてActive-Active構成(スペアあり)での容量を以下に示します。以下の数値はAFF C190の購入可能な構成での容量となっています。
SSD本数
実効容量(TiB)
8
3.52
12
6.58
18
11.37
24
16.07
容量の算出の大きなポイントとなるのが重複排除・圧縮率になります。重複排除は重複しているデータは1つだけ残し他のデータを削除することでストレージの使用率を削減する技術で、圧縮はデータをとあるアルゴリズムに従いデータサイズを小さくする技術です。NetAppでは2つ合わせて「Storage Efficiency」と呼んでいます。この技術を使うことでストレージ使用量を減らしコストの削減に繋がります。
しかし「どれぐらい削減できるの?」と疑問に思う方も多いと思います。結論を言うと「データの種類によって削減率は異なる」ということになるのですが、実際の削減率が気になる方もいらっしゃるかと思います。そのため弊社では重複排除・圧縮率の検証を実施しておりますので以下のブログをご参照下さい。
上記ブログの削減率はあくまで目安のとなります。AFFシリーズではONTAP 9.8で重複排除・圧縮のアルゴリズムが更に改善されたため上記に数値よりも削減率が上がる場合もあります。実際の削減量を知りたい方は弊社から貸出機を提供させていただくのでデータを貸出機に保存し削減率をご確認ください。
また、重複排除・圧縮に関して詳しい技術情報は知りたい方は以下のブログを参照してください。
ファイルサーバを購入されるお客様は、購入時に今後使用する容量まで購入するわけでなく最小構成から利用し後から容量を追加しようと考える方もいらっしゃいます。ファイルサーバの設計時には将来の拡張について考慮する必要があります。
AFF C190は1筐体で最大24本のSSDで構成されます。それ以上の容量を必要とする場合、他のモデルでは拡張シェルフを用いてSSDを増設することが可能です。
しかし、エントリモデルであるAFF C190は他のモデルのように拡張シェルフを追加しSSDを増やす構成は対応していません。そのため容量を増やす場合はクラスタに別の筐体追加しスケールアウトすることで容量を拡張します。
例えば購入時は2つのコントローラ間を直接接続する2ノードスイッチレスクラスターを構成し、容量を拡張する際はもう1筐体とクラスタースイッチを購入しスイッチドクラスターを構成するという拡張方法が考えられます。なおスイッチドクラスターで追加する際はAFF C190以外のモデルを追加することも可能です。
※スイッチドクラスター構成ではスイッチの設定次第で2台のスイッチをまたぐケーブル接続を実施して下さい
今回はストレージの構成と容量の設計について紹介しました。
次回はネットワークの設計のポイントを紹介します。
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