
皆さんこんにちは。SB C&Sの湯村です。HCIを主体とした仮想化製品のプリセールスを担当しております。今回は、タイ・バンコクで開催されたHewlett Packerd Enterprise社の年次イベント「HPE Tech Jam 2025」で発表された最新情報をお伝えします。
1. はじめに
HPE Tech Jamとは、HPE社が開催するテクニカル向けのイベントです。「学ぶ」「つながる」「体感する」「資格取得」の4つのテーマが主旨となっています。
「学ぶ」
HPEアジアおよびGlobalエグゼクティブによる基調講演や、テクノロジーダイブセッション、様々なブレークアウトセッション、ハンズオン形式のワークショップ等を通じて、最新の技術やロードマップを学ぶことができます。
ハンズオンは全セッション即満席の人気ぶり
「つながる」
HPEメンバーやパートナーとの交流を深める機会が多く提供され、イベント期間中に多くの参加者とネットワークを築くことができます。
イベント期間中はレセプションパーティが幾度も用意される
「体感する」
会場内には展示ブースがあり、HPEのエキスパートによる製品やソリューションの紹介、デモンストレーション等、セッションだけでは理解しにくい部分を実際に体感できます。
展示会場は連日の盛り上がり
「資格取得」
会場内にはテストセンターが併設されており、HPEの認定資格を受けることができます。今回のTech Jamでは、イベント期間中に「認定資格を取得して、技術コミュニティへ参加しよう!」と度々紹介されていました。積極的にHPEソリューションを学んでもらい、エキスパートの数を増やしたいという想いがあるようです。
昨年のTech Jamはインドネシア・バリ島で開催予定でしたが、直前で中止となり非常に残念でした。今年はリベンジという形でとても楽しみにしておりました。筆者である私が参戦してきましたので、本ブログでお伝えします。
また、今回は「仮想化」「HCI」「ハイブリッドクラウド」というテーマに絞り情報を集めました。昨今の "仮想化問題" に関して、HPEがどのような将来像を描いているのかお伝えします。
2. HPE の仮想化 & ハイブリッドクラウド戦略
2.1. まずは名前を覚えよう「HPE Morpheus VM Essentials Software」
HPEの仮想化といえば、2025年2月にリリースされた独自のハイパーバイザー「HPE VM Essentials Software」が大きな注目を集めています。新たな仮想化基盤の選択肢として突如現れた仮想化ソリューションであり、様々な場所で情報を収集されている方も多いと思います。
※HPE VM Essentials Softwareの概要についてはリンク先の記事をご覧ください。
まず、この仮想化ソリューションおよびそれに関する要素の名称がガラリと変更または定義されたという発表がありました。
基盤となる「HPE VM Essentials Software」というソリューション名は、「HPE Morpheus VM Essentials Software」という名前に変わりました。Morpheusを基盤にしたソリューションであることが明示されたことになります。
さらには、ハイパーバイザーそのものを「HVM hypervisor」、ハイパーバイザーホストを「HVM host」と、"HVM" という名称が付くようになりました。なかなか聞き慣れないですが、これまでしっかりと定義されていなかったことを考えると、エンジニアとしてはありがたいですね。
そして、上位モデルである「HPE Morpheus Enterprise Software」の存在が徐々に強くなってきたのも印象に残りました。現在リリースされているHPE Morpheus VM Essentials Softwareは、仮想化基盤の基本的な管理が可能な製品です。HPE Morpheus Enterprise Softwareは、仮想化基盤の高度な管理機能を実装したMorpheusの完全版という位置づけで、クラウドライクな運用を実現できるソリューションとなっています。
2.2. 焦点は "ハイパーバイザーそのもの" から "Morpheus" へ
前述の通り「なんだかMorpheusばかり目につく気が?」と感じる方も多いと思います。言い換えれば「HPEはMorpheusを重視している」と捉えることもできます。実際、仮想化関連のセッションはほぼ全てMorpheusに焦点が当たっていたため、HPEとしてはこれから力を入れたい対象なのかと思います。
セッションでは、完全版であるHPE Morpheus Enterprise Softwareとの比較もされていましたので、こちらでまとめたいと思います。
HPE Morpheus Enterprise Softwareは大規模な環境向けに設計された仮想化ソリューションで、HPE Morpheus VM Essentials Softwareと比較しても、明らかに高度な機能が実装されています。注目は、サポートするプラットフォームにvSphere以外のハイパーバイザーやパブリッククラウドが対応しており、"The マルチクラウド" の運用が実現するというものです。実際、Morpheus Enterpriseのハンズオンラボに参加した際、MorpheusのUIからAzureを連携させてAzureのインスタンス(仮想マシン)を作成するというタスクも体感できました。
さらに、HPE Morpheus VM Essentials Softwareからのアップグレード(有償)も可能とのことです。最初は小規模向けの機能から始めて、任意のタイミングで大規模向けの環境に変えられる点も特徴になりそうです。
ここまでご紹介した2種類の仮想化ソリューションは、あくまで「ソフトウェア」を指します。VMwareで例えると、ESXiとvCenter Serverのセットみたいなところです。仮想化環境は、もちろんソフトウェアだけで構成されるわけではなく、プラットフォームとなる「ハードウェア」が必要となります。
3. HPE が提供するハードウェアモデル
3.1. Tech Jam 前までの情報を整理
現在、ハードウェアにソフトウェアが組み込まれた状態のモデル「Private Cloud Business Edition(PCBE)」および「Private Cloud Enterprise(PCE)」がHPEからリリース予定となっています。これらのロードマップ情報はTech Jamより前から公開されておりましたが、Tech Jamにて詳しい情報が明らかになってきましたのでご紹介します。
PCBEは「HCIモデル」
HCIは、3Tier構成で必要になるサーバー・SANスイッチ・ストレージのハードウェアをサーバーひとつで実現するソリューションです。サーバーのローカルディスクを束ねて共有ストレージとして扱うことができますので、物理ストレージは不要になります。
PCBEにはdHCI構成とSimpliVity構成の2種類がリリース予定となっており、どちらもHPE Morpheus VM Essentials Softwareがプリインストールされたモデルです。
※dHCI構成は5月にリリース済です。
dHCI構成は、ProLiantサーバーとAlletraストレージから成るため、形としては3Tier構成となります。一般的に3Tier構成はストレージパフォーマンスを高めたい場合等に使用される構成ですが、「互換性確認」や「バラバラのアップデート管理」等の3Tier構成の運用課題があります。しかし、dHCIはHCIとしての利便性を備えているため、それらの課題を解消してくれます。つまり、3TierとHCIの良いところを掛け合わせた構成といえます。
一方でSimpliVity構成は、HPEのHCIポートフォリオで長年愛されてきたSimpliVityがベースとなった "The HCI" と言えるモデルです。SimpliVityの特徴である「データ高集約&高速バックアップ機能」がHVMハイパーバイザーにも採用されたことになります。
SimpliVity構成は最小2ノードから構成できるため、小規模環境向けにも対応できるモデルとなります。物理ストレージも不要になるため、ハードウェアコストを抑えられることもポイントです。
PCEは「プライベートクラウドの究極版」
PCEは、HPE Morpheus Enterprise Softwareがプリインストールされたプライベートクラウドモデルです。実行環境はオンプレミスですが、まるでパブリッククラウドのような運用を実現します。前述した通り、Morpheusのフル機能が実装されたモデルとなりますので、PCBEよりも高度な機能が実装されています。仮想化基盤としてのフル機能を利用できるだけでなく、運用面でいくつかの特徴があります。
セルフサービスポータルによって、利用者は自らワークロードの元となる各種インスタンス(仮想マシン、ベアメタル、コンテナ)をはらいだすことができます。パブリッククラウドで好きな構成のインスタンスを作成するのと同じ感覚ですね。
また、HPEのフルマネージドサービスが付帯しているため、インフラ運用から丸ごと解放されるという特徴があります。障害検知、バージョンアップ、増設作業等、サービスの安定稼働に必要な運用は全てHPEが対応してくれるため、利用者はワークロード側の業務に集中できるというメリットがあります。
PCEに関してはまだ情報が少ないためこのくらいのご紹介となりますが、今年の夏以降にリリースが予定されていますので、最新情報を待ちたいと思います。
3.2. Tech Jam で語られた PCBE 情報
さて、前提の情報を踏まえて、PCBEに関してTech Jamで明らかになったことを以下にまとめてみようと思います。
※PCEに関する情報は少ないため、今回の記事では割愛させていただきます。今後の情報に期待しましょう。
① PCBE dHCIのアーキテクチャーに関して
先ほど、dHCIの概要をご紹介しましたが、そもそもdHCI構成はHVMがリリースする前より先にvSphereをサポートしていました。そのため、dHCI構成ではHVMクラスターとESXiクラスターの2つを管理することができます。もちろんそれぞれのクラスターだけで運用することもできますが、VM Essentials ManagerがvCenter Serverと連携できるため、このようにひとつのHCIを扱っているかのように運用することができます。
② PCBE dHCIの工場出荷時にプリインストールされるもの
PCBEは予めUbuntu OSとHVMハイパーバイザーコンポーネントがインストールされた状態で工場出荷されますが、「HPE Installer」と呼ばれるVMware専用のインストーラーが組み込まれているため、vSphere環境のdHCIとしてもデプロイすることができます。
※ESXiイメージファイルはユーザーが用意。
③ PCBE の管理UIは「Data Services Cloud Console」
このアーキテクチャの中で重要なポイントは、「管理をData Services Cloud Console(DSCC)から行う」ことです。DSCCはHPEのストレージに関する管理操作をクラウド上のポータルから実行できるサービスです。Alletraの初期セットアップもDSCCから行うため、その流れでdHCIも管理できるのは便利ですよね。また、dHCI構成だけでなくSimpliVity構成もDSCCから管理します。参加したハンズオンの内容としては、仮想マシンに関連する基本操作くらいでしたが、ワンクリックアップデートもDSCCから実行できるようになります。
<DSCC起動後の画面><dHCIもSimpliVityもどちらも管理可能>
④ PCBEの価値とは
明らかになった事は色々ありましたが、改めて「PCBEの価値って何だろう?」ということで、わかりやすく説明されていましたので、参考にしてください。
Value1:「選択肢の提供」
dHCI構成またはSimpliVity構成といったモデルの選択肢だけではなく、HVMまたはESXiといったハイパーバイザーの選択も可能になっていることがあげられます。
Value2:「将来を見据えたIT基盤」
PCBEにプリインストールされているHPE Morpheus VM Essentials Softwareは、上位ソリューションのHPE Morpheus Enterprise Softwareにアップグレードが可能であるため、将来的に大規模な環境へ拡張する必要があっても、ハードウェアを更改することなく対応することができます。また、前述した通りMorpheus Enterpriseはマルチクラウドに対応したソリューションであるため、「枯れた技術」と呼ばれる仮想化技術のその先の「モダナイズされた運用」が可能になります。
Value3:「妥協のないアプリケーションの実行」
dHCI構成の場合はAlletra MPを使用するため、Alletra MPの全ての機能(スナップショット、レプリケーション、100%の可用性保証 等)をそのまま適用することができます。
Value4:「インフラの自動化」
ソフトウェアだけではなくファームウェアも含めて一括でダウンタイム無しのアップグレードが可能です。(早く体験してみたいですね)
Value5:「ビルトインされた仮想マシンイメージ変換機能」
元々、名称が変わる前の「HPE VM Essentials」の頃からVMware基盤からの仮想マシンイメージ変換機能は実装されていましたが、HPE Morpheus Enterprise SoftwareであればVMwareに限らず様々なハイパーバイザーからのイメージ変換ができるようになるとのことです。
Value6:「低TCO」
やはりコスト効率が高いプラットフォームであることは魅力です。従来のシステムよりも4倍から25倍ほど安価になると説明されていました。
以上、Tech Jamで語られたPCBE情報のご紹介でした。
今回は、HPE Tech Jamで語られた内容のうち、HPEの仮想化戦略に関してまとめました。昨今のメーカーイベントではAI関連の注目セッションが過半数を占めるなかで、仮想化関連のセッションが多いケースは稀です。それだけHPEが仮想化戦略に対して力を入れているということだと思います。
HPEはGreenLakeで培った豊富なナレッジがありますので、オンプレミスだけではなくその先のクラウド連携までスムーズにソリューションが提供できるのかと思います。仮想化技術自体は枯れた技術(成熟した技術)と呼ばれていますので、Morpheusによるクラウドライクな運用や、パブリッククラウドとの連携を可能にするマルチクラウド運用が可能になることは、「モダナイズされた新しい仮想化基盤」を私達に提供してくれるということです。これを機に "移行のその先" を見据えた仮想化戦略を皆様ご自身で検討されてみてはいかがでしょうか。
今後のアップデートに期待しながら、HPE Tech Jamレポートの終わりとさせていただきます。最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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著者紹介

SB C&S株式会社
ICT事業本部 技術本部 技術統括部 第1技術部 2課
湯村 成一 - Seiichi Yumura -
Dell Technologies社製品のプリセールス業務を行うエンジニア。
主にVxRail・Azure Stack HCIといったHCI製品を担当している。