このブログでは、VMware Edge Compute Stackの概要紹介と、VMware Explore 2023 Las Vegasで発表されたEdge Computingソリューションに関わる新機能も交えてご紹介します。
Edge Computingとは
本ブログ記事の主題となる「VMware Edge Compute Stack」は、Edge Computing環境で活用されるVMwareのソリューションスタックです。
つきまして、VMware Edge Compute Stack自体の説明に入る前に、まず「Edge Computingとは何か?」を簡単にご紹介します。
「Edge Computing」は、データの生成源に近い場所、例えばIoTデバイス、センサー、WEBカメラ、コネクティッドカーなどのEdgeデバイス上やEdgeデバイスの近くで、データの処理や分析を行うコンピューティング手法を指します。
Edge Computingと比較されるコンピューティング手法として、Cloud Computingがあります。
「Cloud Computing」は、全ての情報をデータセンターやクラウドに集約し、高性能なサーバーでデータ処理を行います。これに対し「Edge Computing」では、データの処理や分析をネットワークの末端であるEdgeデバイスそのもの、もしくはそのEdgeデバイスが置かれた周辺領域(工場・店舗・営業所 など)に配置したサーバーで処理を行い、処理されたデータやログのみをクラウドに転送します。
●Cloud Computing・Edge Computing イメージ図
Edge Computingではデータセンターやクラウドまでのデータ転送量が減少し、回線の帯域幅の使用が最適化されることや、Edgeで動作させるアプリケーションの応答時間が短くなることが期待されます。この様な期待される効果から、Edge Computingは現場でリアルタイムの応答が求められるアプリケーションや、低レイテンシを必要とするシステムにおいて非常に有用なコンピューティング手法とされています。
VMware Edge Compute Stackとは
VMware Edge Compute Stackは、Edge Computing環境におけるEdgeの一貫した運用管理とセキュリティを提供することを目的に、VMwareが提供する様々なソフトウェアで構成されたソリューションスタックです。VMworld 2021で発表されたソリューションで、企業の様々な場所(Edge)でアプリケーションの迅速なデプロイ、運用、監視を効率的に行えるように設計されています。
VMware Edge Compute Stackは、VMwareの様々な製品を組み合わせて構成されています。以下に、VMware Edge Compute Stackの構成要素をご紹介します。
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VMware vSphere(vCenter・ESXi)
・サーバー仮想化のプラットフォームです。Edge Computing環境でも、vSphereが仮想マシンの提供、管理、最適化を担います。 -
VMware Tanzu Kubernetes Grid(TKG)
・VMwareが提供するKubernetesディストリビューションです。パブリッククラウド・プライベートクラウド、そしてEdge環境おいてもKubernetesクラスタを構成し、コンテナアプリケーションが実行可能な環境を提供します。 -
VMware Tanzu Mission Control(TMC)
・複数のKubernetesクラスタの運用を一元的に行うための管理プラットフォームです。エッジ環境に展開されたKubernetesクラスタも、このツールを使用して集中管理します。 - Edge Network Intelligence
・AI駆動のネットワーク分析とトラブルシューティングのソリューションです。Edge・IoTデバイスのネットワークパフォーマンスやセキュリティ問題の特定と修正をサポートします。 -
【オプション】VMware SD-WAN
・Software-Defined WANソリューションとして、Edgeが設置された場所とデータセンター・クラウドとの間のネットワーク接続とオーケストレーション機能を提供し、通信の最適化を行います。 -
【オプション】Aria Operations
・VMwareが提供する IT 運用管理プラットフォームです。vCenterのアドオンとして、仮想環境の監視や分析、トラブルシューティングとして使われます。 - 【オプション】VMware vSAN
・VMwareのSoftware-Defined Storageソリューションです。Edgeの要求に応じて、高度なストレージ機能やデータ保護機能を提供します。
上記でご紹介したように、VMwareのあらゆるソリューションがVMware Edge Compute Stackの構成要素として含まれ、各製品が連携して動作し、統合的なEdge Computing環境を提供します。また、VMware Edge Compute Stackに対応したハードウェアとして、DELLとLenovoといったハードウェアメーカーが情報を公開しています。
このように、VMwareが主戦場としてきたSoftware-Defined Data Center(SDDC)の実現によって培われてきた様々なテクノロジーを活用し、Edge Computing環境においても一貫した管理を提供するソリューションであることがおわかり頂けるかと思います。
VMware Explore 2023 Las Vegasで発表された新機能
2023年8月末に開催されたVMware Explore 2023では、Edgeソリューションに関する新しい発表がありました。今回は、その発表の中でも「Project Keswick」と「VMware Edge Cloud Orchestrator」についてご紹介します。
VMware Explore 2023 Las Vegas開催中の速報レポートは別ブログ記事でお伝えしておりますので、まだご覧になっていない方は是非以下URLからご覧下さい。
VMware Explore 2023 Las Vegas 速報レポート
Project Keswick
Project Keswick(ケジック)は、VMwareの仮想化テクノロジーとGitOpsを組み合わせ、大量のEdgeをクラウドから一括で展開・管理する機能の提供を目的とした、VMwareの開発プロジェクトです。
Project KeswickのEdgeは、VMware Edge Compute Stackと同様に、ESXiによって構成されます。そして、Edgeデバイスの管理者はGit上で、ESXiホストや仮想マシン、コンテナなどの構成ファイルを作成します。Project KeswickのEdgeをインストール・起動し、EdgeがKeswickのサービスに登録されると、Edgeは自動的にGitリポジトリから構成情報を取得し、ESXiホストの構成や仮想マシン、コンテナアプリケーションを自動展開します。
また、KeswickのEdgeはGitリポジトリに接続して目的の状態(Desired State)を確認し、構成が変更されたことを検知したタイミングで、Edgeホストは自動的に構成変更され、適切な状態が維持されます。
この様な仕組みによって、様々な拠点に配置される大量のEdgeを簡単に、素早く展開し、クラウドから統合的な管理を可能にします。
Project Keswick自体は、昨年のVMware Explore 2022 USで発表された開発プロジェクトですが、今回のVMware Explore 2023 では、VMware Tech Showcaseと呼ばれる新しい取り組みによって「Free Availability(無償提供)」されており、誰でも無償でProject Keswickのテクノロジーを試すことができるようになりました。
・VMware Tech Showcase
https://www.vmware.com/content/microsites/en/showcase.html
実際のEdgeハードウェアにインストールを行ったり、仮想マシン(OVA)をvSphereやVMware Workstationで実行することで、Project Keswickのテクノロジーを実際に体感することが可能です。
VMware Edge Cloud Orchestrator(VECO)
VMware Explore 2023 Las Vegasで、Edge向けの統合オーケストレーション機能として、VMware Edge Cloud Orchestrator(VECO)が新しく発表されました。
VMware Edge Cloud Orchestratorは、VMware SD-WAN(VMware SASE)のオーケストレーション機能と、VMware Edge Compute Stackのオーケストレーション機能を統合し、Edge NetworkingとEdge Computingのクラウド統合管理を実現します。
VMware Explore 2023 Las Vegasのセッションの中では、具体的に以下の様なイメージ図でVMware Edge Cloud Orchestratorで実現するEdgeの展開・運用の仕組みが紹介されました。Edgeインフラストラクチャをゼロタッチでデプロイし、自動的にEdgeアプリケーションを有効化、そしてライフサイクル管理を行います。Project Keswickの開発プロジェクトを根源とし、GitOpsの考え方を応用したゼロタッチプロビジョニング、ライフサイクル管理を実現すると発表されています。
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Edge Infrastructure Deployment
・Edgeをアクティベーションした際に、VECOに自動登録 -
Optionally - Enable K8s infrastructure
・VECOの構成情報に基づき、Kubernetesをインストール -
Setup AI, Enable Services & Deploy Workloads
・VECOの構成情報に基づき、仮想マシンやコンテナワークロードを取得しサービスをデプロイ -
Ongoing Lifecycle Management & Monitoring
・VECOによってクラウドからEdgeを管理
・Edge自身がVECOに定義された構成情報を確認し、変更があった際には自動で設定を更新
今回発表されたVMware Edge Cloud Orchestratorの機能によって、Edge Computingのワークロードに必要なすべての構成をゼロタッチでプロビジョニング・統合管理することでEdgeの管理・運用をシンプルにし、少ない人数のIT運用チームでも数千以上のサイトのEdge管理が行えるようにすると紹介されていました。
おわりに
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著者紹介
SB C&S株式会社
ICT事業本部 技術本部 技術統括部
第1技術部 1課
市島 拓弥 - Takuya Ichijima -
VMware vExpert