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2025年春に買収された「Peak」って結局何者? Agentic AIと意思決定自動化の仕組み

UiPath
2025.12.05

 

こんにちは、山崎です。

少し時計の針を戻しますが、2025年3月にUiPathが「Peak(ピーク)」というAI企業の買収を発表したニュース、皆さんは覚えていますでしょうか?

私は当時、このニュースを見て「へぇ、AI企業を買収したんだ。これでUiPathの製品はどう変わっていくんだろう? 楽しみだな」と、なんとなく心に残っていました。

それから時が経ち、最近何気なくUiPathアカデミーを眺めていたら、なんと、この「Peak」の専門コースができているのを発見したんです!

「これは!」と思い、気になっていたので早速サクッと受講してみました。 今回は、そこで学んだ「Peakとは一体何者なのか?」というお話をしたいと思います。

 


目次

  1. Peak = UiPathに搭載された「理系の脳」
  2. Peakが真価を発揮する「3つの領域」と「ターゲット業界」
  3. ユースケース:在庫切れを「自律的」に防ぐ自動補充エージェント
  4. Studioだけでは不十分? 「Maestro」が必要なワケ
  5. まとめ

1. Peak = UiPathに搭載された「理系の脳」

アカデミーを受講して私が最も納得したのは、「なぜ今、汎用的な生成AIではなくPeakが必要なのか?」という点でした。

 最近は「AIによる意思決定」という言葉をあちこちで聞きますし、
「それならChatGPTやClaudeでいいのでは?」と思われがちです。  

しかし、コースの中で「LLMは『文系』、Peakは『理系』である」という説明があり、ここが一番の腹落ちポイントでした。

「計算」は専門家に任せるべき

汎用的なLLMは、言葉を操るのは得意ですが、厳密な「数値計算」や「需要予測」においては、もっともらしい嘘(ハルシネーション)をつくリスクがあります。

一方でPeakは、統計や数理モデルに基づいた「計算・予測」のスペシャリストです。

「過去の売上データと気象条件から、来週の需要を予測する」といったタスクにおいては、汎用AIよりも圧倒的に精度が高く、信頼できます。

  • LLMの役割: 文脈を理解し、人間と会話する(インターフェース)

  • Peakの役割: 裏側で正確な計算を行い、最適解を弾き出す(計算エンジン)

「なんでもAIにやらせる」のではなく、
「計算や予測はPeakという専門家に任せ、
それをLLMやRPAと組み合わせることで、より精度の高い自動化を作る」。 

このアーキテクチャこそが、UiPathがPeakを買収した真意なのだと理解しました。

 

2. Peakが真価を発揮する「3つの領域」と「ターゲット業界」

では、この「理系脳」は具体的にどんな計算が得意なのでしょうか? Peakは汎用的なAIではなく、以下の3つの領域に特化したスペシャリストです。

  1. Pricing(価格最適化): 「この顧客ならいくらで買ってもらえるか?」という、利益を最大化するギリギリの適正価格を算出します。

  2. Inventory(在庫最適化): 「いつ、どこに、どれだけ商品を送ればいいか?」を計算し、欠品と過剰在庫を同時に防ぎます。

  3. Merchandising(商品展開): 需要予測に基づき、どの商品を重点的に展開すべきかを判断します。

これらの領域が経営の生命線となる業界、つまり「小売(Retail)」「製造(Manufacturing)」が、Peakが最も力を発揮するターゲット業界となります。

 

3. ユースケース:在庫切れを「自律的」に防ぐ自動補充エージェント

具体的な活用イメージとして、アカデミーでも紹介されていた「在庫の自動補充」のケースを見てみましょう。

これまでの課題

多くの小売店では、店長が「来週は寒そうだから、ダウンジャケットを多めに発注しておこうかな...」と、経験と勘で発注数を決めています。

その結果、予想が外れて大量の売れ残た(在庫過多)が出たり、逆に売れすぎて在庫が足りず、みすみす売上を逃したり(機会損失)していました。

Peak + UiPathによる解決

ここを「自律型(Agentic)」に変えると、こうなります。

  1. 予測・判断 (Peak): Peakが全店の販売実績、天気予報、トレンド情報を常に分析し、「A店には今すぐ300個補充すべき」という最適解を自動で計算します。

  2. 実行 (UiPath): その判断結果を受け取り、UiPathのロボットが自動で発注システムに入力したり、サプライヤーへメールを送信したりします。

ユースケース2.png

 

実装イメージ

この流れを、UiPathのオーケストレーションツールである「Maestro」で実装すると、以下のようなイメージになります。

実装イメージ.png

【画像解説】 左側のトリガー(在庫アラートや定期実行)をきっかけに、ロボットがデータを収集し、中央のオレンジ色の脳(Peak API)が「300個発注」という判断を下します。

その後、Maestroが「金額」などのルールに基づいて、「自動で発注してしまう」か、「念のため人間に承認を求めるか」を分岐させています。

このように、「AIの高度な判断」と「人間の最終確認」を組み合わせた、柔軟で安全な自動化フローが構築できるわけです。

 

4. Studioだけでは不十分? 「Maestro」が必要なワケ

「Peakが判断して、UiPathが実行する。それなら、いつものUiPath Studioでロボットを作ればいいのでは?」

そう思われるかもしれません。

しかし、AIが絡む業務を実運用しようとすると、Studioだけでは解決できない「3つの壁」にぶつかります。

これを乗り越えるために不可欠なのが、オーケストレーションツールである「Maestro」です。

① 「人による承認」をスマートに挟む(ステート管理)

AIが「発注推奨」を出しても、金額が大きければ「部長の承認」が必要です。

しかし、部長がいつ承認ボタンを押すかは分かりません。

従来のロボットは「作業を途中で止めて、承認されたら数日後に続きから再開する」といった動きが苦手でした。

Maestroを使えば、「承認待ち」という状態でプロセスを安全に一時停止し、承認された瞬間に自動で次のロボットを起動する、という連携が標準機能で実現できます。

② AI特有の「あいまいな判断」を制御する

従来のRPAは「AならBする」という明確なルールで動きますが、AIの判断は「確信度80%」といった具合にグラデーションがあります。

「確信度が高いなら自動実行」「微妙なら人に通知」「低いなら何もしない」といった複雑な分岐条件を、ロボットの中のロジック(If文)だけで管理しようとすると、中身がブラックボックス化してしまいます。

Maestro(BPMN図)を使えば、この判断ルールをフロー図として可視化し、誰でも理解・修正できるようになります。

③ 「なぜAIがそう判断したか」の説明責任(ガバナンス)

もしAIの判断で大量発注が行われた際、「なぜ?」を後から追跡できるでしょうか?

「入力データ」「AIの予測結果」「人の承認記録」「最終的な実行ログ」。
これらがバラバラに保存されていては、監査対応が困難です。

Maestroは、これら一連の流れを「一つのプロセスの履歴」として統合して記録するため、「いつ、誰が(AIか人か)、なぜその決定をしたのか」を常に透明化できます。

 

5. まとめ

以前、私の部署のメンバーが「AIエージェントを使って、需要予測ができないか?」と検証してみたことがありました。

しかし、結果は正直なところ「いまいち」でした。

もっともらしい答えは返ってくるものの、実際の業務に使えるほどの精度が出ず、「やっぱり数字周りを任せるのはまだ厳しいか...」とモヤモヤしていたんです。

今回、アカデミーでPeakを学んで、その「足りなかったピース」がカチッとはまった感覚がありました。

  • 以前のモヤモヤ: 「自律的に動くエージェントは作れるが、『予測・計算』という所の精度は心許ない」

  • 今回の発見: 「計算部分は、餅は餅屋で『Peak』という専門家に任せればいいんだ」

UiPathが目指す「自律型オートメーション」において、「言語はLLM、計算はPeak」という明確な役割分担ができたことで、以前は「実験レベル」で止まっていた構想が、一気に「実用レベル」へと引き上げられた。

それが、今回の学びの最大の収穫です。

日本での本格展開はこれからですが、この「理系の脳」をどう使いこなすか、今のうちから妄想を膨らませておく価値は大いにありそうです。

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著者紹介

SB C&S株式会社
ICT事業本部 技術本部
先端技術統括部
DXコンサルティング部 デジタルイノベーション課
山崎 佐代子