
皆さま、こんにちは。SB C&Sの下山です。
連載最終回となる今回は、Tenstorrentが開催するイベント「TT-Deploy」の概要をご紹介するとともに、先日参加した「TT-Deploy JP」の内容をダイジェスト形式で振り返ります。
TT-Deployとは

初めてのTT-Deplyは、2026年の5月1日にアメリカのサンフランシスコで開催されました。
イベントの方向性としては、「AI業界全体を俯瞰して今後の方向性を示す総合カンファレンス」というよりも「自社の最新製品を披露するローンチイベント」に近く、製品ロードマップの解説や新製品の発表、製品デモ、導入事例の紹介などが主なトピックとなっています。
サンフランシスコで開催されたTT-Deploy(YouTubeリンク)では、従来のTenstorrent Galaxyの搭載チップをBlackhole世代へ刷新した「Tenstorrent Galaxy Blackhole」と、複数台のGalaxyで構成される「Galaxyクラスタ」の発表を中心に、おおむね次の3つのテーマに沿ってイベントが展開されました。
Run Fast

このセッションでは、16台のGalaxyサーバで構成されたクラスタにDeepSeek 671Bをデプロイし、350t/s/uの生成性能と約4秒のTTFT(Time to First Token)を達成したことが発表されました。また、AI動画生成のタスクで、720p解像度・81フレームの動画を約2.4秒で生成し生成時間が動画の実再生時間を下回る水準に到達したことが強調されました。
Run Anything

このセッションでは、既存のHugging Faceモデルを同社のTensixアーキテクチャ上で検証した結果、90%を超えるモデルが動作したことが紹介されました。

また、同社のソフトウェアスタックを構成するTT-Forgeなどに加え、TT-NNとTT-Metaliumを橋渡しする新たな技術として、TT-Langが発表されました。
TT-LangはPythonベースのドメイン固有言語(DSL)であり、同社のアーキテクチャ向けに最適化された融合カーネル(Fused Kernel)の開発を、より容易にするとしています。
Run Anywhere


これまでの連載でもたびたび取り上げましたが、単体の開発機からデータセンター規模のクラスタまでを同一アーキテクチャで構成・拡張できるという同社の強みを改めて示しました。セッションではEquinix、Cirrascale、Prodia、BetterBrainなどのパートナーや顧客が登壇し費電力、TCO、モデル対応の柔軟性、GPU環境との併用などについて説明しました。

TT-Deploy JPについて
6月30日、東京で日本版TT-Deployとなる「TT-Deploy JP」が開催されました。(公式ニュースリリースはこちら。)
米国で発表された内容を日本向けに紹介するだけでなく、日本市場に向けた新たな発表や、国内パートナーとの取り組みについても紹介されました。イベントには、CEOのJim Keller氏をはじめとする同社のキーパーソンが登壇し、アクセラレータ製品に加え、RISC-V CPU IP、国内AI基盤、ソブリンAI、半導体設計における協業など、幅広い領域を通じて、Tenstorrentが日本での事業展開を本格的に推進していく方針が示されました。
イベントを通してのポイント
- GPUより優れたコストパフォーマンスのAI推論基盤を構築する
- スイッチいらずでEthernetベースで多数のチップやサーバを接続する
- 特定モデルに依存しない汎用アーキテクチャを提供する
- ソフトウェアスタックをオープンソースで提供する、また、エージェントコーディングの推進
- GPUを全面的に置き換えるだけでなく、既存GPU基盤と併用する用途も想定
主なトピック
- エージェント型AI向けRISC-V CPU IP「TT-Ascalon S」の発表
- Kimi K2.6で1ユーザー当たり900トークン/秒という性能値の発表
- DeepSeek-R1 671Bで400トークン/秒以上への性能向上
- 音声・リップシンク付き1080p動画生成のデモ
- ai&による120台超のTenstorrent Galaxy導入
- Rapidus、Preferred Networks、Socionext、Turingなど国内企業との連携
- TuringによるBlackhole上への自動運転基盤の移植実証
また、各登壇者の講演後に行われたテックトークセッションでは、3名のTenstorrentエンジニアが登壇し、複数台のGalaxyを並列に構成したSuperclusterについて、新規モデルをTensixアーキテクチャへ早期に対応させるための手法(Day0 Models)、Tenstorrent製品の性能とベンチマークについて解説しました。
中でも興味深かったのは、20台のTenstorrent Galaxy Blackholeで構成されたSuperclusterの並列構成を柔軟に切り替えることで、DeepSeek 671Bにおいて、2,048同時接続時には50t/s/u、同時接続数を64に絞った構成では400t/s/uという性能を達成していた点です。スループットを重視する大規模同時処理と、単一ユーザー当たりの性能を重視する処理という、特性の大きく異なるワークロードに単一のクラスタで対応できることを示しました。
まとめ
TT-Deployでは、単に新製品のチップ性能を訴求するのではなく、複数サーバ構成や実際のモデル、顧客環境、運用コストまでを含め、製品としての実用性を示すことに重点が置かれていたと思います。動画生成やLLMのデプロイ、自動運転基盤の移植など、具体的なワークロードをTenstorrent製品上で実際に動作させることで、「研究用途にとどまるチップではなく、本番環境に導入可能な製品である」ことを改めて示す狙いがあったといえるでしょう。
Tenstorrent社公式ページ
著者紹介
SB C&S株式会社
ICT事業本部 技術本部 第1技術統括部 第2技術部 1課
下山 翔也 - Shoya Shimoyama -
NVIDIA社製品のプリセールス・エンジニア業務を担当。
GPUのほか、クラウドサービスやサーバー、ネットワーク機器についても取り扱う。
