
NetApp INSIGHT 2025 開催概要 |
Keynote Day1 |
NetAppのAIに対するビジョン
Keynoteの会場は昨年と同じく、Sessions Areaの中でも一際大きい専用会場で実施されます。そもそもデータとは、「抽象的な概念ではなく、事実としてそこに存在し、私たち個人個人を結びつけるための重要なファクターである」と語ります。
また、データは知識の基盤となるものであり、データとデータ同士を組み合わせることで「知識」としてさらに利用価値のあるものに統合されるといい、これらはAIという分野でも同じで、多種多様なデータを組み合わせ、学習/評価を繰り返すことで、AIの成果が左右される、すなわちデータをありとあらゆるところから集め、分析し、AI専用に加工し、利用するといったサイクルを最適化することが重要であり、今回のINSIGHTでそれらに関する新たな発表ができるとGeorge Kurian氏は意気込みます。
このように、データ主導のインテリジェンス時代を推進するNetAppのビジョンから製品アップデートに焦点を当てていく流れになっていました。
まず、George Kurian氏は、AI開発におけるライフサイクルと課題を整理します。
【AI開発のライフサイクル】
- Organize Data
→データを収集/分類/整理すること - Implement Data Governance Mechanisms
→アクセス制御などデータを取り扱う上でのセキュリティを担保すること - Leverage Metadata
→データの場所や意味、属性などデータそのものの情報を整理すること - Efficiently Process and Transform Data
→モデル学習ができるような形でデータを変換すること - Manage Data & Model Lifecycle Together
→学習と評価を継続し、AIを最適化すること
【AI開発における課題】
- AI開発における80%もの時間が学習も前段階であるデータの加工作業にかかっていること
- AI開発のライフサイクル全体で多くのコピーが発生し、システムの複雑さやコストの非効率さを招いていること
何故こうなるのか?
それは、これらのインフラがAI向けに作られていないからである。
なら、こういった課題に対処できる製品があれば市場はどうなるのか?
ということでNetAppからAIに対する新たなビジョンとして統一されたAIのためのストレージとデータモデルについて発表されました。
こちらの画像では、ユニファイドプロトコル対応、データ管理や移動、セキュリティといった従来までのストレージ要件だけでなく、先ほどのAI開発におけるライフサイクルで説明したデータの分類、ガバナンス、変換、さらにはメタデータへのタグ付け、アノテーションといったメタデータ管理まで、
つまりAI開発におけるライフサイクルの1.~4.(以下、データの事前準備)全てをNetAppがやってしまおうというとんでもないビジョンになります。
また、それらをローカルだけではなく、ネットワークとして各地につなげることで、グローバルなメタデータのネームスペースとして運用できることや、FlexCache(データのキャッシュアクセス機能)やSnapMirror(データのレプリケーション機能)でオンプレ/クラウドなど、環境を気にせず、あらゆるAI基盤で溜めたデータを活用できることを強調しました。
これにより、ライフサイクルのフェーズ毎にコピーされていた無駄なデータとストレージが不要となり、NetAppのストレージ1つでAI開発環境を課題を解消し、最適化することが可能になります。
これらは、昨年のINSIGHTでも構想段階として発表されていたものですが、より具体的なビジョンとして発表された形になります。
新製品の発表
続いて、NetAppのCPO(Chief Product Officer)であるSyam Nair氏にバトンが渡され、George Kurian氏が掲げたビジョンを実現するための新製品について発表されました。
NetApp AFX 1K
新製品1つ目はNetApp AFX 1Kです。
初めて聞くシリーズ名ですが、こちらは従来のNetAppストレージとは異なり、パフォーマンス用のノードとストレージ用のノードを独立して拡張できる「ディスアグリゲートアーキテクチャ」を持つ全く新しいストレージになります。
ミッションクリティカルなAI環境では、単純に高いパフォーマンスを求められるだけでなく、柔軟な拡張性が求められるケースが非常に多く、こういったニーズに応えられる製品が出てきたことになります。
AFX 1Kには今までにない非常に強力な特徴を持っています。
- パフォーマンスと容量を個別に拡張可能
→ストレージコントローラー(AFX 1K storage controller)と
ディスクエンクロージャー(NX224 NVMe enclosure)が完全に独立しているため、
拡張が必要なノードだけを柔軟にスケール可能 - 最大エクサバイトまでの容量拡張
→NetAppでは初めてとなるエクサバイト単位までの容量拡張が可能
ノードの拡張は最大で128ノード - AIデータ専用のコントローラー(DX50 data compute nodes)
→AI開発におけるデータの事前準備を担当する専用のノード
GPUが搭載され、高度なデータ処理がストレージだけで可能になっている
George Kurian氏のセッションで、NVIDIAのCEOであるJensen Huang氏との対談の様子が映し出され、「過去前例のない取り組みをしている」と語っていましたが、まさかストレージにGPUが搭載されるとは思わず、この発表は非常に驚きました。
AFF A1KはNVIDIA DGX SuperPODのストレージとしてすでに認定もされています。
また、AFX 1Kのディスアグリゲートアーキテクチャとタイプの異なる二つのコントローラーの組み合わせにより、一般利用されるストレージ(ファイルサーバー、データベースなど)とAI開発におけるデータの事前準備を担当するストレージが1つに統合される構成になり、他社に見られるような分散型のストレージとは一線を画す、AI環境にも特化した新しいストレージとして発表されました。
NetApp AFX 1Kの詳細はこちらをクリック
NetApp AI Data Engine(AIDE)
新製品2つ目はNetApp AI Data Engine(以下、AIDE)です。
AIDEはAIデータの事前準備を実際に実行するAI環境に最適化された特別なONTAPです。
現時点では、AIDEを搭載できるストレージはAFX 1Kのみとなりますが、George Kurian氏のセッションでオンプレ、クラウド問わず対応できるような表現があったため、今後のロードマップとしてNetAppのクラウドストレージにも搭載できるようになるかもしれません。
※クラウドストレージへの実装について構想段階の話になります。
新たにGAされているわけでないことについてご留意ください。
会場では実際の画面が分かるデモ動画も流れており、データの収集や分類、ガードレース設定など、通常のONTAPとは異なるUIを確認することができました。
【ワークスペース管理】
・AIDEが認識している各ボリュームをAI用のワークスペースとして管理
・NWでつながっている別のクラスターのボリュームも追加可能
・ボリュームに対するアクセス制限やガードレール設定(後述)も可能
・ストレージ内のデータをスキャンし、最新/構造化されたメタデータビューを自動作成
・SnapMirror技術を利用し、ワークスペースとして追加したボリューム内容を自動同期
【データの分類】
・AIDEが認識している環境全体を常時スキャンし、データの種類を自動で分類・カテゴリ化
・個人情報、財務データ、知的財産などの センシティブ情報を自動検出
【ガードレール設定】
・企業方針や業界規制(例:GDPR、HIPAAなど)に沿って、機密データの扱いに関する 自動ポリシーを作成・適用
・機密情報を含むデータをスキャンし、AIがそれらを誤って使用しないように自動除外
【データの変換】
・AIやデータ分析に最適なデータを高速かつスムーズに発見/検索/ベクトル化/取得
・最新のデータを基準にAI学習・分析に適したデータセットを構築
・ストレージレベルでベクトル埋め込み
・セキュアなベクトル検索エンドポイントを提供
・高速なセマンティック検索により、AIが必要な情報を即座に取得可能
これらAIに特化した機能と従来までのNetAppストレージの特徴(ユニファイド、クラウド連携、強力なデータ保護機能など)が組み合わさることで、AIシステムにおけるストレージの課題を解決できるとSyam Nair氏は強調しました。
NetApp AI Data Engineの詳細はこちらをクリック
クラウドストレージのアップデート
続いての新発表はAWS、Azure、Google Cloudでマネージドストレージとして提供されるNetAppのクラウドストレージに関するアップデートです。
まず、はじめてにGoogle Cloud NetApp Volumes(以下、GCNV)にて、iSCSIプロトコルがサポートされることが発表されました。
これにより、クラウドストレージでありながらユニファイドモデルとしてハイパフォーマンスなマネージドストレージを利用することができます。
また、FlexCache、SnapMirrorといったデータ連携機能がAzure NetApp Files(以下、ANF)とGCNVでサポートされることについても発表されました。
これにより、FSx for NetApp ONTAPも含めた全てのマネージドストレージでデータ連携機能が利用できるようになり、ハイブリット/マルチクラウドでのデータ連携が簡単かつスムーズになります。
例えば、AIDEと組み合わせることでクラウドストレージのデータを含め、AIに必要なデータの収集や管理が可能になり、George Kurian氏が掲げた環境差異を意識しないAIデータ管理がより現実的なものになるわけです。
NetApp Ransomware Resilience
続いての発表はランサムウェア対策に関する内容です。
最新のONTAP9.17.1でSANプロトコルでのランサムウェア検知(ARP for SAN)がサポートされるなど、ランサムウェア対策ストレージの第1線を走るNetAppですが、今回の発表ではBlueXPでのランサムウェア対策機能(旧:BlueXP ransomware protection)がアップデートされる形になりました。
主なアップデート機能は以下です。
- ONTAPのランサムウェア対策機能やNetAppのサービスを統合
→ARP/AIやTamperproof Snapshot、Cloud Backupなどを統合し、
BlueXPで管理しているストレージ全体からワークロード別に、
ランサムウェア対策の設定状況を管理できる - Data Breach Detection(漏えい検知)
→ランサムウェア対策攻撃の二重恐喝に対応するための機能で、
データ漏洩(持ち出しコピー)の兆候を検知し、
関与したユーザーのデータアクセスを遮断する
もちろん暗号化や大量削除での兆候も検知可能 - Isolated Recovery Environment(隔離復旧環境)
→攻撃を受けた可能性のあるワークロードをNWから切り離し、被害拡大を阻止
また、復旧対象となるデータを自動スキャンしてマルウェアを検出・削除
マルウェアが除去された安全な復旧データを提供し、
復旧に関するステップやデータ損失を最小限に抑える復旧ポイントを提示する
なんだか、Storage Workload Securityの強化版のような雰囲気ですね。
NetApp担当のSEとして非常に興味が湧きます。
今回のフォーカスされているAIというワークロードにおいてもプロンプトインジェクションに代表されるようなAI環境特有のランサムウェア攻撃も存在するため、ランサムウェア対策の強化は今後も継続して行っていかなければいけない要素だと思います。
こちらもデモ動画が会場で流れ、実際の操作の流れを確認することができました。
【Data Breach Detectionのデモ】
・データ漏洩の兆候を検知
・フォレンジックを表示し、検知した詳細情報を確認
・攻撃に関与した可能性のあるユーザーのアクセス制限
【Isolated Recovery Environmentのデモ】
・リストア方法の選択
・安全なリストア環境を作成するためのステップを提示
パートナーシップ強化と導入事例
この日最後に登壇したのは、NetAppのCMO(Chief Marketing Officer)であるGabie Boko氏です。
このセッションでは、MicrosoftやESA(欧州宇宙機関)など、各パートナーとの連携強化や実際にNetApp製品を導入したお客様からの評価などを紹介しました。
最後にGeorge Kurian氏が再び登場し、1日目の発表内容をまとめてKeynote Day1は幕を閉じます。
Keynote Day2 |
2日目は主にパートナーやエンドユーザーの話が中心となり、アワードの表彰式や導入事例の紹介などが行われました。
アワード表彰式の様子
【European Institute of Oncology (IEO)】
・患者データを高速・安全に分析し、診療・研究を加速
【San Francisco 49ers】
・NetAppが3年のデータアナリティクス教育パートナーシップを発表
・スタジアムのリアルタイムデータを教材化
NetAppプロフェッショナルのパネルディスカッション
今回のKeynoteでは、過去のINSIGHTではあまり見られなかったNetApp社員同士のパネルディスカッションがありました。
ユーザーからの質問に答える形で進み、内容としては1日目の製品発表につながるような「AI環境におけるインフラのサイロ化」「データコピーの複雑さ」「ハイブリットクラウドでの利用」といった内容について議論がなされました。
パートナーシップの強化
毎年恒例となりますが、NetAppをビジネスを促進する関係の深いパートナーとの連携について動画形式で紹介されました。
【Red Hat】
・NetApp ONTAPとTridentがRed Hat OpenShiftにネイティブ統合
・NetApp Shift Toolkitにより、VM変換を5~20倍高速化
【VMware】
・VM環境の運用効率とセキュリティを向上
・VMware Cloud Foundation 上でのSAP HANAの運用を最適化
【NVIDIA】
・NetApp AI Data Engineの中核にNVIDIAのAIデータプラットフォーム技術を採用
・AFX 1KがSuperPODに認定
【Cisco】
・共同開発のFlexPod AIソリューションを強化
・新たに「FlexPod AI for Model Training」を発表(NVIDIA GPU搭載)
ゲスト対談
NFLとSan Francisco 49ersをゲストに呼び、スポーツ業界とAIやデータの関係についてのディスカッションがありました。
最後にNetAppのPresidentであるCésar Cernuda氏からKeynoteのまとめがあり、イベント全体を総括されました。
- 今回のイベントには世界73か国から参加者が集まっている
- お客様同士・パートナー同士の学びと共有の場を作ることがINSIGHTの目的
- イノベーションを今後も加速/継続する
- AIにおけるサイバーレジリエンス、データのモダナイズ、クラウド連携が重要
以上で2日間にわたるKeynoteの報告は終了となります。
今年のレポートも最後はFestival Groundの様子もお伝えさせていただければと思います。
Festival Groundではスポンサーブースや が立ち並び、イベント期間を通してまるでパーティ会場のような賑わいを見せていました。

また、発表されたばかりのAFX 1Kも展示されていました。
SuperPODの構成そのままでラッキングされており、非常にインパクトが強く、参加者がこぞって写真撮影をしていました。
まとめ |
- AI時代のストレージはデータライフサイクルの最適化がテーマ
- NetApp AFX 1Kを発表:GPU内蔵、パフォーマンスと容量を独立拡張可能なAI対応ストレージ
- NetApp AI Data Engineを発表:AI用データの分類・ガバナンス・変換・検索を自動化するAI特化型のONTAP
- クラウド連携の強化:AWS・Azure・Google Cloud全てでSnapMirror/FlexCacheをサポートし、マルチクラウドデータ統合を実現
- Ransomware Resilience を刷新:Data Breach Detection(漏えい検知)とIsolated Recovery Environment(隔離復旧環境)を追加
- 主要パートナーとの連携拡大:Red Hat(OpenShift統合)、VMware(S/4HANA最適化)、NVIDIA(AI Data Engine中核)、Cisco(FlexPod AI強化)
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著者紹介

SB C&S株式会社
ICT事業本部 技術本部 技術統括部 第1技術部 2課
河村 龍 - Ryu Kawamura -