こんにちは。SB C&S 山田です。

VMware Cloud on AWSのクラウドストレージとして使用できるソリューションには、VMware Cloud Flex StorageとAmazon FSx for NetApp ONTAPがあります。 今回は、この２つのソリューションと標準ストレージであるvSANを様々な面で比較をして結果を紹介していきます。 それぞれのソリューションの概要とVMware Cloud on AWSとの連携手順については以下の記事でご確認ください。

VMware Cloud Flex Storage

VMware Cloud on AWS と VMware Cloud Flex Storageの連携

Amazon FSx for NetApp ONTAP

Amazon FSx for NetApp ONTAPって？ハイパフォーマンスなクラウドストレージのご紹介！

VMware Cloud on AWSのNFSデータストアにAmazon FSx for NetAppONTAPを使ってみよう(VTGW編) 

VMware Cloud on AWSのNFSデータストアにAmazon FSx for NetAppONTAPを使ってみよう(VPC ピアリング編)

概要

VMware Cloud on AWSのクラウドストレージサービスであるVMware Cloud Flex StorageとAmazon FSx for NetApp ONTAPの共通のメリットとして、標準ストレージであるvSAN以外にデータストアの追加領域として利用ができる点でがあげられます。

ホストを追加せずにクラスタのストレージ容量だけ追加、拡張ができるため、リソースを効率よく利用でき、コストも最適化できます。

では、VMware Cloud Flex StorageとAmazon FSx for NetApp ONTAPの構築手順の容易さや、ストレージ機能、パフォーマンスの点でどのような違いがあるのでしょうか。 今回はこの部分を比較していきます。

比較した項目は以下です。

それぞれ紹介していきます。

構築の手間

実際の構築の手順は冒頭に記載した各記事を確認いただければと思いますが、それぞれの特徴は以下です。

VMware Cloud Flex Storage

VMware Cloud サービスのソリューションのため、非常に容易に構築できます。構築という言葉を使っていますが、実際はVMware Cloud ServicesのコンソールからVMwareに利用申請をする程度です。

申請後、48時間程度でSDDCからFlex Storageのデータストアが利用できる状態になっています。

Amazon FSx for NetApp ONTAP

AWSのVPC上にNetAppの仮想ストレージを作り出すクラウドサービスとなるため、データストアとして利用する際は、VMware Cloud on AWSとFSx for NetApp ONTAPのVPC間をネットワークでつなげる必要があります。

VPC間の接続方法として、「VMware Managed Transit Gateway」（VTGW）と「VPC ピアリング」の2つの方法がありますが、作業量の観点で比べるとどちらもFlex Storageよりも多いです。

ただし、Flex Storageは使用できるまでに48時間ほどかかりますが、Amazon FSx for NetApp ONTAPであれば申請などによる待ち時間がないため、実際の構築時間は短いです。
※「VPC ピアリング」の利用が開始した2023年末当初は、設定にVMwareへの申請が必要なため、7日〜10日程度のリードタイムがかかっていました。しかし、現在ではセルフサービス化されVMwareへの個別の申請は不要となり、このリードタイムはなくなりました。

料金（ライセンス）

まず、使用料金の考え方や最低使用量容量について比べてみます。Flex Storageは最低25TiBから利用可能で、1TiB単位のボリューム容量に応じた定額料金で利用が可能です。ただし、ストレージの要件が25TiB未満のスモールスタートの場合は過剰にコストがかかってしまいます。

対して、FSx for NetApp ONTAPは、1TBから利用可能となりスモールスタートを検討する場合でも適しています。ただし、ボリューム容量とは別に書き込みリクエスト数による従量課金などが発生するため、ストレージ利用状況によって価格が前後してしまいます。また、SDDCとFSx for NetApp ONTAPのVPC間の通信に「VTGW」を使用する方式の場合は通信コストが発生します。VPCピアリングの場合、同一AZの通信はコストがかかりません。

では次に料金の比較をしてみます。今回はFlex Storageの最低使用容量の25TiBに合わせ、FSx for NetApp ONTAPを28TB（TiB⇒TB変換）使用する想定で比較を行います。

試算方法

• Flex Storage
  • 容量：25TiB
  • APACリージョン：1年間のサブスクリプション
  • 冒頭のflex Storage記事の価格表を参照
• FSx for NetApp ONTAP
  • 容量：28TB（TiB⇒TB変換）
  • 東京リージョン
  • 料金計算ツールとして案内されているAWS Pricing Calculatorを使用して価格試算
  • Storage SettingsのDesired storage capacityを28TB設定、その他はデフォルト値
  • 従量課金分としてThroughput, IOPS, Requestsの、Desired aggregate throughputを2048MB（東京リージョンの最大値）に設定、その他はデフォルト値
  • Backups、SnapLockオプションは未設定

以下が料金比較です。それぞれ1カ月間と12カ月間の料金を試算しています。
※2024年3月時点で調査した情報であり、為替や各サービスの価格改定によって異なります。

FSx for NetApp ONTAPは、価格面では一見安価に感じられます。しかし、書き込みリクエスト数による従量課金制を採用しているため、実際のストレージ利用状況によって料金が変動します。また、VPCの通信にVTGWを利用する場合は、通信料金が追加で発生する点に注意する必要があります。

一方でFlex Storageは、書き込みリクエスト数といったストレージの利用状況にかかわらず定額であるため、予算超過といった価格面での不安を抱えることなくサービスを利用できるというメリットがあります。

機能

Flex StorageとFSx for NetApp ONTAPは共にNFSプロトコルを使用し、VMware Cloud on AWSの拡張ストレージとして接続します。さらにFSx for NetApp ONTAPは、SMBとiSCSIプロトコルにも対応しておりVMware Cloud on AWSの外部ストレージ以外の用途にも利用可能です。

また、FSx for NetApp ONTAPは、ハイブリッドな要件に対応します。詳細は冒頭のFSx for NetApp ONTAPの記事にて紹介していますが、AWS環境にとどまらず、オンプレミス環境とのデータ連携を含めたハイブリッドクラウドでの最適化が可能です。

主要な機能として、「FlexClone」や「Snapshot」「SnapMirror」、「その他、ONTAPのデータ管理機能全般」があり、ストレージ効率化、データ保護などに長けています。これらの機能を合わせて使用したい場合は、FSx for NetApp ONTAPを検討いただければと思います。

パフォーマンス

本題のパフォーマンスの比較です。VMware Cloud on AWSの標準ストレージであるvSANと、Flex Storage、FSx for NetApp ONTAPのVTGW構成とVPCピアリング構成を比較します。

検証内容は以下です。

• 利用ツール：DISKSPD
• 検証用仮想マシン：
  • 4CPU/4GBメモリ
  • Cドライブ：128GB
  • Dドライブ：256GB
• 検証用仮想マシンからDISKSPDにて以下のパフォーマンスを検証
  • ランダム読み取り(100%)と書き込み(100%)I/Oの計測
    • ブロックサイズ：4KB、8KB、16KB、32KB、64KB
    • 項目：IOPS/スループット/レイテンシ
  • シーケンシャル読み取り(100%)と書き込み(100%)I/Oの計測
    • ブロックサイズ：32KB、64KB、128KB
    • IOPS/スループット/レイテンシ
  • 補足
    •  ブロックサイズはOSやDB、バックアップなど一般的なアプリケーションのブロックサイズを考慮して決定
    • リード/ライトの割合は考慮しない

検証結果

今回当社で行った検証結果ですが、以下の様な順でパフォーマンスが良いことが確認されました。
※2024年3月時点で当社にて調査・検証した結果に基づいて記載しており、サービス状況によって結果は異なる場合があります。

ストレージの接続構成的にVMware Cloud on AWSの標準ストレージであるvSANが一番良いパフォーマンスであることを想定しておりましたが、想定のとおりvSANが最も優れている結果となりました。続いて、FSx for NetApp ONTAPのVPCピアリング構成が2位、Flex Storageは僅差で3位という結果になりました。また、FSx for NetApp ONTAPのVTGW構成が下位の結果でした。これは、VMware Managed Transit Gateway(VTGW)を経由してストレージ接続を行うアーキテクチャ的な背景から、他の構成と比べたときに高いパフォーマンスが出にくいことを予想していましたが、実際の結果もその通りでした。

ただし、FSx for NetApp ONTAPではオプションでIOPSやスループットの追加が可能です。こちらの設定次第では、結果が異なる場合があることをご了承ください。

2番に良いパフォーマンスとしたFSx for NetApp ONTAPのVPCピアリング構成と次点としたFlex Storageにおいては、パフォーマンスの差はあまり見られませんでしたが、個別の検証項目（ランダムアクセスおよびシーケンシャルアクセスの読み書き、各ブロックサイズ）でみると結果に少しばらつきが見られ、総合的な評価として上記の順位としています。

興味深かった点としては、ランダム書き込みI/Oの計測において、FSx for NetApp ONTAPのVPCピアリングが最も良い数値だった点です。これは、NetApp ONTAPのアーキテクチャ的にランダム書き込み処理に特化しているため、今回の検証結果にもその優位性が反映され、良い結果となったことが考えられます。

内容が細かくなってしまうため本ブログ記事では詳細の計測数値を記載しておりませんが、詳細を知りたい方はお問合せください。

データ効率化

データ効率化は仮想マシンの消費容量について、どれだけ効率化できるのかを比較します。対象はvSAN、Flex Storage、FSx for NetApp ONTAPのVTGWを比較します。（この検証ではFSx for NetApp ONTAPのVPCピアリングは除きます）

検証内容は以下です。

• 検証用仮想マシン：
  • 4CPU/4GBメモリ
  • Cドライブ：128GB
  • Dドライブ：256GB
  • vCenter Serverから見えるプロビジョニング容量：384GB、ストレージ使用容量(実用量)：29.42GB
• 検証用仮想マシンを10台クローンし、vCenter Serverから消費容量を確認
• 仮想マシン内にファイルは作成せず、OS領域だけの容量で確認
• クローン方法はvSphere Clientからクローン
  • FSx for NetApp ONTAPのみFlexCloneでも確認

検証結果

データ効率化はFSx for NetApp ONTAPのFlexCloneが飛びぬけて一番高い結果となりました。これはFlexClone自体のアーキテクチャが非常に高い容量効率でクローン処理を行うことができるため、このような結果だと考えられます。

他の3つの項目のvSphere Clientからクローンした方式のvSAN、Flex Storage、FSx for NetApp ONTAPでの検証結果としてはそれぞれ大差ありませんでしたが、FSx for NetApp ONTAP、Flex Storage、vSANの順で効率化率が高い結果となりました。

※2024年3月時点で当社にて調査・検証した結果に基づいて記載しており、サービス状況によって結果は異なる場合があります。

比較結果まとめ

各クラウドストレージについて比較をしました。それぞれの特徴、利用シーン、メリットをまとめます。

vSAN

vSANは高パフォーマンスな要件を求めるワークロードに対応しており、低レイテンシでのアクセスを必要とするワークロードに適しています。ただし、ストレージの個別拡張が不可能であり、ホスト追加によるクラスタ全体でのリソース拡張が必要になるためストレージ拡張のためのコストが高くなってしまいます。

VMware Cloud Flex Storage

vSANほど高パフォーマンスではありませんが、著しく劣っているわけではありませんので、VMware Cloud on AWSの拡張ストレージとして問題なく利用できると思います。用途としては、レイテンシの要件がそれほど厳しくない大量のデータを扱うワークロードに最適です。必要に応じてストレージ容量を個別に拡張できるため、柔軟にリソースを管理できます。

また、Amazon FSx for NetApp ONTAPと比較した際のメリットとして本ブログでご紹介した視点以外に、VMware Cloud on AWSと同様にVMware Cloud Servicesコンソールで管理画面が提供されるため、管理者がアクセスするコンソールが集約される点と、サポートがVMwareに集約される点から、運用にかかる手間が抑えられるというメリットが挙げられるかと思います。

Amazon FSx for NetApp ONTAP

Flex Storageと比べ、1TBからのスモールスタートで利用でき、「FlexClone」や「Snapshot」「SnapMirror」といった機能が提供され非常に多機能であるため、小規模の拡張ストレージとしての用途や、NetApp ONATPならではのメリットを活かせる要件がある場合には優位な選択になります。

ただし、VTGWの構成の場合、要件が厳しくないワークロードに関しては問題ありませんが、パフォーマンスの面で幅広く利用する場合はIOPS、スループットをオプションで追加することが必要になるケースがあるかと思います。また、VTGWは従量課金のトラフィック費用がかかるため、利用時にはコスト面での検討も必要です。

2023年末にリリースされたVPCピアリングの構成の場合は、パフォーマンスおよびキャパシティ重視のワークロードの両方に対応し、幅広い用途でも利用できます。今回検証したパフォーマンス検証でも大差ではありませんが、Flex Storageより高い数値が確認できました。

また、VMware Cloud on AWS環境以外からもアクセス可能なため、VMware Cloud on AWSの拡張ストレージとしての用途以外の活用ができることもメリットとして挙げられます。

総評

以上の結果から、パフォーマンスを求めるならvSANですが、高いパフォーマンス要件が無いワークロードに対してストレージ領域を拡張したい場合は、Amazon FSx for NetApp ONTAPのVPCピアリングの構成が第１の選択肢になるのではないかと判断できます。

しかし、VMwareとしての統合された環境に高いメリットを感じる場合は、VMware Cloud on AWSとFlex Storageの組み合わせが良いと思います。パフォーマンスの面でもAmazon FSx for NetApp ONTAPのVPCピアリング構成と大差があるわけではありません。
　

今回はvSAN、VMware Cloud Flex Storage、Amazon FSx for NetApp ONTAPの比較検証を行いました。それぞれに特徴があるため、利用ケースに応じて検討いただければと思います。