
こんにちは。SB C&Sの湯村です。
今回は、Dell Technologiesのエントリー向けストレージ「PowerVault ME5」とMicrosoftのハイパーバイザー「Hyper-V」を使用して、小規模な3Tier仮想化基盤を構築する様子をご紹介します。
昨今、仮想化基盤の構築・運用において、VMware(現Broadcom)のライセンスモデルが大きく変わったことが多くの企業に影響を与えています。特に中小規模の環境では、ライセンスコストの増加がIT予算を圧迫し、仮想化基盤の選択肢を再検討する動きが広まっています。
その中で注目を集めているのが、Microsoftのハイパーバイザー「Hyper-V」を活用した仮想化基盤です。Hyper-Vは、買い切り型のWindows Serverライセンスに含まれているため、コスト効率が高いだけでなく、Microsoftエコシステムとの親和性も抜群です。
※Hyper-Vについては「基礎から学ぶ!Hyper-V 仮想化入門」で解説しています。併せてご覧ください。
さて、中小規模の環境に導入されている仮想化基盤の候補としては何があげられるでしょうか?
vSAN(VMware)やStorage Spaces Direct(Microsoft)のようなHCI基盤を選択肢のひとつして採用するのは一般的になりましたが、任意のハードウェアで構成できる3Tier基盤を採用している企業も依然として多いと思います。このVMwareライセンス問題に揺れる中、代打となり得る存在のひとつが「Hyper-Vを活用した3Tier仮想化基盤」です。
本記事は以下のアジェンダに沿ってご紹介します。
Dell Technologies PowerVault ME5 とは?
使用した検証環境
PowerVault ME5024 のセットアップ
Hyper-V のインストール ~ フェールオーバークラスターの構築
iSCSI イニシエーターの設定
ボリュームの作成
Hyper-V ホストの登録
フェールオーバークラスターでのディスク設定
1. Dell Technologies PowerVault ME5 とは?
Dell Technologiesのストレージポートフォリオの中で、PowerVault ME5はエントリーレベルのストレージ製品として位置づけられています。エントリーレベルだけあってお値段も安く、手ごろに使えるストレージとして、前世代のPowerVault ME4から長く愛されています。
手ごろではありますが、ストレージとして必要な基本機能だけでなく高度な機能も備えており、「小規模向けだけど性能や機能は確保したい」という要望にもピッタリの製品です。
1.1. PowerVault ME5 の主な特徴
- 安価で大容量
- エントリー向けで導入しやすい価格設定
- 最大8PBまでのストレージ容量をサポートし、大規模環境も構築可能
- 多様な接続性
- iSCSI / Fibre Channel / SAS 等、複数の接続プロトコルに対応
- 25Gb iSCSIや32Gb Fibre Channelに対応し、高速データ転送を実現
- 簡単な管理
- 直感的なWebブラウザベースの管理ツール「PowerVault Manager」を搭載
- ストレージの設定、モニタリング、トラブルシューティングを効率的に行える
- 初期セットアップはウィザードに従えば数分で完了
- 手ごろなのに高度な機能(機能説明はこちらの記事をご覧ください)
- 自動階層化機能
- SSD Readキャッシュ
- 非同期レプリケーション
- スナップショット
- ADAPT(独自の分散RAID方式)
1.2. PowerVault ME5 のユースケース
PowerVault ME5は、コストを重視する中小企業向け(エントリー向け)のシンプルで高速なストレージです。DASやSANに特化して最適化されていますが、「優れたパフォーマンス」、「拡張性の高い容量」、「管理がシンプル」等の特徴があるため、さまざまなワークロードに対応できます。
一般的なユースケースとしては、ファイル共有や仮想化環境のストレージとして使われることが多いですが、高速な読み書き性能と大容量を必要とするデータベース用ストレージや、重複排除・圧縮のデータ削減機能を活かすバックアップストレージとしても利用することができます。
2. 使用した検証環境
今回の検証で使用した環境は以下の通りです。環境構築に関しては「基礎から学ぶ!Hyper-V 仮想化入門」に記載の構築手順を参考にしています。
- ハードウェア
- Hyper-Vホスト用サーバー:Dell PowerEdge R6615 2台
- iSCSI共有ストレージ:Dell PowerVault ME5024
※Hyper-Vホスト 2台構成であるため、Witness(監視)用のボリュームを作成しています。 - SANスイッチ:Dell PowerSwitch S4128T-ON
※環境図では省略しています。 - Active Directoryサーバー(ドメインコントローラー兼DNS)
※事前構築済みのものを利用しています。
- ソフトウェア
- Windows Server 2022 Datacenter(Hyper-V管理OS)
3. PowerVault ME5024 のセットアップ
一般的に、ストレージ製品はサーバーよりも専門的な知識やスキルが必要とされますが、ME5はセットアップから運用に至るまで、全ての管理操作がシンプルで簡単に行うことができます。まずはME5のセットアップの様子をご紹介します。今回は、下図のような一般的な3Tier構成を構築します。
ME5024はコントローラーA,Bと2台搭載されており、それぞれのコントローラーには管理用のポート、ストレージトラフィック用のポートがあります。セットアップを開始する前に、必要な物理結線を終えておき、電源を投入します。
3.1. システムの設定
作業用端末からブラウザを開き、ME5024のデフォルト管理IPアドレスへアクセスします。PowerVault Managerの「ようこそ」画面が表示されたら [開始] をクリックします。
※デフォルトの管理IPは以下のものです。
- コントローラー A:10.0.0.2/24
- コントローラー B:10.0.0.3/24
ユーザー名とパスワードを設定し、[適用して続行] をクリックします。
「ファームウェア更新」ページでは、[現在のファームウェアバンドルの使用] をクリックします。
「システム設定のメインページ」が表示されます。以降はこのステップに従ってセットアップを行います。まずは「システムの設定」ステップの [開始] をクリックします。
「ネットワーク設定」ページでは [IPv4] を選択し、[続行] をクリックします。
※各コントローラーの管理用IPアドレスを設定し直します。
コントローラーA,Bそれぞれの管理IPアドレスを設定し、[適用して続行] をクリックします。
※設定すると一時的にUIへのアクセスが中断されるため、新しいIPアドレスで再度ログインしてください。
再びステップに戻り、DNSの設定を行います。DNSサーバーのIPアドレスを入力したら [適用して続行] をクリックします。
「日付と時刻の設定」を行います。[ネットワークタイムプロトコル(NTP)] 選択し、NTPサーバーのIPアドレスを入力したら [適用して続行] をクリックします。
「ユーザー設定」ページでは、システム管理者以外の管理ユーザーを追加できます。今回は必要がないため、[このステップをスキップする] にチェックを入れ [続行] をクリックします。
「通知」ページでは、システム内で発生する重大イベントの通知手段を指定できます。今回は必要がないため、[このステップをスキップする] にチェックを入れ [続行] をクリックします。
「iSCSI設定」ページでは、iSCSIを使用する場合の設定を行います。設定が完了したら [続行] をクリックします。
「ホストポート設定」ページでは、ストレージトラフィック用のポートに対してIPアドレスを設定します。設定が完了したら [続行] をクリックします。
3.2. SupportAssist構成
SupportAssistを有効にすると、ME5システムからDell Technologiesのテクニカルサポートに構成および診断情報を自動で送信することができます。設定は任意ですが、障害時の迅速な対応を行いやすくなりますので、是非有効にしておきましょう。
「SupportAssist構成」ステップの [開始] をクリックします。
「接続情報」ページでは、接続タイプを選択し、[接続性のテストと有効化] をクリックします。
※接続タイプで [ゲートウェイサーバーを介して接続する] を選択する場合は、外部にSupportAssistをインストールしたデバイスが必要になります。
「サポートの連絡先(推奨)」ページでは、Dellサポートから連絡を受けるための連絡先を登録します。入力できたら [続行] をクリックします。
サマリーを確認し [続行] をクリックします。
3.3. ストレージの設定
ここまでシステム側の設定を行いました。ここからはストレージ側の設定を行います。
「ストレージの設定」ステップの [開始] をクリックします。
「ストレージタイプの選択」ページでは、ディスクグループに適用するストレージタイプを選択し、[続行] をクリックします。
※今回は「仮想」を選択しています。
[ディスクグループの追加] をクリックします。
※ [ストレージの自動セットアップ] をクリックすると、プールAとプールBのそれぞれで同容量のディスクグループが作成されます。今回はプールAだけを使用して、ひとつのディスクグループを作成しています。
任意の保護レベル(デフォルトはADAPT)を選択、ディスクグループに所属させるディスクを選択し、[ディスクグループの追加] をクリックします。
※ひとつのディスクグループ内は、全て同じタイプのディスクである必要があります。
ディスクグループが作成されたら、[続行] をクリックします。
これまでのステップで、ME5024のセットアップは完了しました。「設定ステップ」画面に戻ると、[ダッシュボードに進む] ボタンがクリックできるようになりますので、クリックします。
※この段階でiSCSIイニシエーター(Hyper-Vホスト)を検知できる準備が整っていないと、「プロビジョニング」ステップが続行できません。今回はME5024側の設定は一旦ストップし、Hyper-V環境の構築に移ります。
4. Hyper-V のインストール ~ フェールオーバークラスターの構築
Hyper-V環境構築に関する以下のステップは、それぞれの技術ブログを参考にして作成した状態としてあります。同様の環境を構築される場合は参考になさってください。
5. iSCSI イニシエーターの設定
各Hyper-VホストがME5024の共有ボリューム(iSCSIターゲット)へアクセスするために、iSCSIイニシエーターの設定を各ホストで事前に行います。
Hyper-Vホストのサーバーマネージャーから [iSCSIイニシエーター] を起動します。
「ターゲット」欄にME5024のストレージトラフィック用ポートのIPアドレスを入力し、[クイック接続] をクリックします。
「検出されたターゲット」欄にiSCSIターゲットのIQNが表示されていることを確認し、[完了] をクリックします。
「検出されたターゲット」欄に表示されているIQNを選択し、[OK] をクリックします。
もう一台のHyper-Vホストにも同じ手順を繰り返して、クラスターに参加するすべてのホストがiSCSIターゲットに接続できるようにしておきます。
6. ボリュームの作成
今回作成するボリュームは、フェールオーバークラスターの共有ストレージとして利用される「クラスター共有ボリューム(csv)」と「ディスク監視用ボリューム(quorum)」の2つです。PowerVault Managerの管理画面に戻り、設定を行います。
PowerVault Managerに再度ログインし、左ツリーの [プロビジョニング] から [ボリューム] をクリックします。
[ボリュームの作成] をクリックします。
クラスター共有ボリュームのパラメーターを指定し、[ボリュームの追加] をクリックします。
- プール:A
- ボリューム名:csv
- ボリュームサイズ:1TB(※任意のサイズで問題ありません)
ディスク監視用ボリュームのパラメーターを指定し、[ボリュームの追加] をクリックします。
- プール:A
- ボリューム名:quorum
- ボリュームサイズ:200GB(※任意のサイズで問題ありません)
作成した2つのボリュームを確認し、[続行] をクリックします。
この時点ではME5024にホストが登録されていないため、以下のようなメッセージが表示されますが、そのまま [続行] をクリックします。
[サマリ] を確認し、[ボリュームの作成] をクリックします。
ボリュームの一覧に作成したボリュームが表示されていることを確認します。
7. Hyper-V ホストの登録
ここまで、フェールオーバークラスターに必要なボリュームをME5024上に作成できたので、これらのボリュームとHyper-Vホストを紐づけるためのホスト登録を行います。
左ツリーの [プロビジョニング] から [ホスト] をクリックし、[ホストの作成] をクリックします。
「ホスト名」任意の名前を入力し、[イニシエーターをホストに追加] をクリックします。
※予め認識させておいたiSCSIイニシエーター(Hyper-Vホスト①,②)が表示されます。イニシエーターIDには各ホストのホスト名が記載されていますので、間違えないように気を付けましょう。
全てのHyper-Vホストに対して同様に行い、「新しいホスト」欄に登録した情報が表示されたことを確認し、[続行] をクリックします。
[既存のボリュームを選択してホストまたはホストグループに接続します] を選択し、[続行] をクリックします。
作成しておいたボリュームを選択し、[続行] をクリックします。
[続行] をクリックします。
全てのHyper-Vホストに対して、作成したボリューム(csv,quorum)が割り当たっていることを確認します。
これにてME5024のボリュームとHyper-Vホストの紐づけが完了しましたので、Hyper-VホストのOSからこれらのボリュームが見えるようになります。ただし、ホストOSからは見えているだけの状態ですので、ボリュームを有効にする設定がホストOSで必要になります。詳細手順は割愛しますが、「基礎から学ぶ!Hyper-V 仮想化入門 第5回 クラスター共有ボリュームの作成」の「4.2. ボリュームのマウントおよび初期化」を参考にして実施してください。
8. フェールオーバークラスターでのディスク設定
最後のステップとして、フェールオーバークラスターマネージャーから、クラスター共有ボリュームを認識させる設定と、ディスク監視用ボリュームを使用した監視設定を行います。
8.1. クラスター共有ボリュームの設定
フェールオーバークラスターマネージャーを起動し、[ディスク] > [ディスクの追加] の順にクリックします。
「利用可能なディスク」一覧に、先ほどホストOSが認識させたディスクが表示されますので、チェックを入れて [OK] をクリックします。
※ディスク監視用のディスクもチェックしています。本環境では、「クラスターディスク1」がクラスター共有ボリューム、「クラスターディスク2」がディスク監視用ボリュームです。
クラスターディスクを右クリックし、[クラスターの共有ボリュームへの追加] をクリックします。
クラスターディスクの表示が、「クラスターの共有ボリューム」になっていることを確認します。
8.2. ディスク監視の構成
クラスター名を右クリックし、[他のアクション] > [クラスター クォーラム設定の構成] の順にクリックします。
※クォーラムについては「基礎から学ぶ!Hyper-V 仮想化入門 第4回 フェールオーバークラスターの構築」の「1.2. フェールオーバークラスターマネージャーに必要不可欠な『クォーラム』とは?」で解説していますのでご覧ください。
「開始する前に」ページではそのまま [次へ] をクリックします。
「クォーラム構成オプションの選択」ページでは [クォーラム監視を選択する] を選択し、[次へ] をクリックします。
「クォーラム監視の選択」ページでは [ディスク監視を構成する] を選択し、[次へ] をクリックします。
「記憶域監視の構成」ページではディスク監視用のクラスターディスクを選択し、[次へ] をクリックします。
「確認」ページではそのまま [次へ] をクリックします。
サマリを確認し、[完了] をクリックします。
クラスターディスクの表示が、「クラスター内のディスク監視」になっていることを確認します。
以上で、ストレージにPowerVault ME5を用いた3Tier Hyper-V仮想化基盤を構築することができました。ME5024の管理操作に注力してご紹介しましたが、ストレージの知識がそれほど無くても簡単に構築できることをご理解いただけたと思います。
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著者紹介

SB C&S株式会社
ICT事業本部 技術本部 技術統括部 第1技術部 2課
湯村 成一 - Seiichi Yumura -
Dell Technologies社製品のプリセールス業務を行うエンジニア。
主にVxRail・Azure Stack HCIといったHCI製品を担当している。